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『ウィンドトーカーズ』から『硫黄島からの手紙』 [授業ネタ]

今年の2年生世界史Aは進度が遅く、19世紀から太平洋戦争まで映画を使って無理矢理駆け抜けたという話。

 19世紀の「アメリカの発展」の部分で例年見せている映画はデンゼル・ワシントン&モーガン・フリーマンの『グローリー』だが、今年は先住民をテーマとしたニコラス・ケイジの『ウィンドトーカーズ』[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2006-12-28]にした。いま話題の福山雅治主演『マン・ハント』のジョン・ウー監督という話題性もある、ということで。
 見せた部分は以下の通り。
・ナバホ族のヤージーが居留地から軍の迎えのバスに乗り込む冒頭のシーン。
・ナバホ族に対する暗号通信訓練のシーン。
・サイパン島で暗号通信を行い、戦艦の艦砲射撃を支援するシーン。
・水浴びをしていたヤージーが、日本人に似ているという理由で殴られるシーン。
・大佐から称賛され勲章を受けるのはエンダースだけでヤージーは無視されるシーン。
・ヤージーが「戦争が終わったら教師になって米国史を教えたい」というシーン。
・サイパン島で日本人が住む村に米軍が拠点をつくるシーン。

本校では実教出版の世界史A教科書を使っているが、太平洋戦争のページにはサイパン島を中心にした地図が掲載されており、サイパン島から硫黄島に矢印が向いている。「これは使える」と思い、予定を変更し『ウィンドトーカーズ』に続いて『硫黄島からの手紙』を見せることにした。
 事前に話した内容は以下の通り。
・サイパン島に日本人が住む村がある理由(マリアナ諸島が日本の委任統治領となった経緯)の説明
・サイパン島の戦略的重要性の説明
・昭和19年7月19日付讀賣報知新聞と毎日新聞のサイパン島玉砕を報じる記事を使い、バンザイクリフ、スーサイドクリフの説明

『硫黄島からの手紙』で見せたのは以下の通り。
・特典映像のアメリカが制作した硫黄島の戦いのドキュメンタリー。
・現代の硫黄島調査隊が何かを掘り出すシーン。
・大便を捨てに行った西郷が米軍の艦隊を見つけるシーン。
・米軍上陸のシーン。
・栗林中将が突撃前に部下に訓辞を行うシーン。
・冒頭で調査隊が掘り出したものの中身がわかるラストシーン。

栗林中将の自決を見届けた西郷の頬を涙が伝うシーンは、『グローリー』でデンゼル・ワシントンが涙を流すシーンと同じくらい胸が詰まるが、見せるのはちょっと生々しいか。


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「アメリカ合衆国の発展」の授業 [授業ネタ]

 昨日(2018年1月7日)の新聞に掲載されていた「世界名作味の旅⑩~『大草原の小さな家』のアップルパイ」は、興味深い記事だった。これまで「アップルパイはイギリスのお菓子」というイメージがあったため、アメリカのソウルフード的存在だとは知らなかった。Wikipediaによれば「アップルパイはアメリカを代表するデザートで、「アップルパイのようにアメリカ的だ ('As American as apple pie') 」という慣用句があり、日本人にとっての味噌汁同様に「おふくろの味」を連想させる。」そうだ。
 『マザーグースの絵本Ⅱ~アップルパイは食べないで』(ケイト=グリーナウェイ絵、岸田理生訳、新書館)という本が手元にあるので、「アップルパイ=イギリス」というイメージを勝手に持っていたのだが、私が思い浮かべるアップルパイはアメリカタイプだったようだ。

 19世紀後半のアメリカ合衆国を扱う「アメリカ合衆国の発展」の項目は、色々と触れておきたいことが多くて大変だ。西部への領土的な拡大のプロセスと、南北戦争をへて、19世紀末にはフロンティアが消滅して世界最大の工業国になるまでが骨組みで、これにプラスしていくことになる。例えば「アメリカ合衆国では,19世紀前半に,アメリカ労働総同盟(AFL)が結成された。」(2004年度世界史A追試)とか、「20世紀に、アメリカ労働総同盟が結成された。」(2015年度世界史B本試験)などセンター試験で問われるAFLの結成時期(1886年)については、「アメリカが世界最大の工業国となった時期を考える」ということでおさえることは可能だろう。
 19世紀後半のアメリカでプラスしたいのは、先住民問題とアフリカ系の問題。最近は「インディアン」とか「黒人」という語句を使わなくなってることも切り口としてはいいかも。とはいうものの、体系化してまとめるのは、なかなか難しく感じている(アメリカ出身のALTによれば、「日本の世界史の資料集は、アメリカの高校生が使っている歴史の教科書よりずっと詳しい」そうだ)。
 『タペストリー』(帝国書院)、『グローバルワイド』(浜島書店)、『世界史のミュージアム』(とうほう)など年表にアフリカ系・先住民関連事項を時系列で並べて別枠で組み込んでいる資料集もあり、少し工夫すればうまく構成できるような気もする。『グローバルワイド』も「国民国家アメリカへの統合」という特集ページで、先住民問題と奴隷解放の写真記事が掲載されているが、補足のネタとしては、『ミューアジアム』が、「映画に描かれた先住民と黒人奴隷」というコラムで紹介している『グローリー』と『ダンス・ウィズ・ウルブズ』を使いたいところ。浜島書店の『NEW STAGE』では、以前『ソルジャー・ブルー』が紹介されていたが、授業で使うのは少々難しい気がする[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2009-10-20]。私が持っていた『グローリー』(SUPERBIT版)は日本語吹替がはいってない版だったので、最近吹替収録版を購入(中古市場では非常に安価だった)。以前紹介した、山川の『歴史と地理』432号(1991年8月)に掲載されている『グローリー』を用いた授業遊展開例(「歴史を観る-映画を駆使した授業」)が、うまく使えそうだ。

 『大草原の小さな家』に関しては、『タペストリー』と『アカデミア』に紹介されているが、いずれも肯定的なニュアンス。したがって、新聞記事にある「物語の中には、先住民に対する蔑視や偏見がにじんだ表現もある」という視点で、当時の人々に見られた一般的な先住民観を紹介する材料としたい。福音館から発行されている『大草原の小さな家』を読んでみたが、収録されている全26話のうち6つのエピソードが「インディアン」の語句を含むタイトルになっている。巻末に「アメリカ・インディアンのこと」という解説が収録されているが、筆者は故清水知久先生。小学生向けの文章ながら、筆致は鋭い。清水先生の文章の中に、「おかあさんといっしょ」で流れていた「インディアンが通る」という歌について触れてあるが、youtubeで聴いて私も思い出した。


 とはいえ、断罪するだけで終わるのは不十分な気がする。異質なものを否定し排除しようと姿勢は、現在でも見られるのではないか?と問いかける材料にしたい。
 
 年末休み中に読んだ、小田中直樹編『世界史 / 今、ここから』(山川出版社)の終章に以下のような記述があり、とても心に残った。

 好むと好まざるとにかかわらずグルーバル化の波に巻き込まれ、その結果、さまざまな側面で「わたしたち」と異なる「彼ら」と接触し、共存せざるをえない「21世紀の世界の一部としての日本」という時空間に生きる者にとって、何よりも大切なのは「私たちが正しい」という自己万能観でもなく、「彼らが正しい」という劣等感でもなく、さらにいえば「みんな違ってみんないい」(金子みすゞ)という単純な相対主義でもなく、「わたしたち」の常識も「彼ら」の言い分もいったん疑ったうえで、可能な限り適切な根拠と論理に基づいて自分の立場を選び取る、というスタンスである。その際、通常は「彼ら」の言い分を疑うことは簡単だから、まずもって意識的に試みるべきは「わたしたち」の常識を疑うことである。そのために必要な能力こそ、わたしたちが身につけるべき教養の一環をなし、さらにいえばその中核をなす。

 「可能な限り適切な根拠と論理に基づいて自分の立場を選び取る」ために必要な努力を惜しまないようにしたい。



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『母をたずねて三千里』 [授業ネタ]

 イタリアの少年マルコが、アルゼンチンに出稼ぎに行った母を探す物語「母をたずねて三千里」は、「移民の世紀」と呼ばれる19世紀の時代状況を反映したものである。①当時、イタリアでは大きな政治的・社会的変動が生じており、多くの人々が、②南北アメリカ大陸へ移住した。とりわけアルゼンチンのイタリア系移民は、パンパと呼ばれる大平原において、工業化で人口増加が進むヨーロッパ向けの小麦や牛肉を生産し、独立後の国家の経済を支えた。さらに、タンゴやサッカーといった文化の発展に影響を与えるなど、③アルゼンチンの歴史に大きな足跡を残している。

問1 下線部①に関連して、19世紀のイタリアで起こった出来事について述べた次の文章中の空欄( ア )と( イ )に入れる語の組合わせとして正しいものを、下の①~④のうちから一つ選べ。

 イタリアは、( ア )王国を中心に統一されたが、新しい政治体制や社会の変化に反発した人も少なくなかった。特に( イ )の赤シャツ隊によって軍事的に征服された南部からは、貧困問題もあって、多くの人々が移民として流出した。

 ①  ア-サルデーニャ   イ-ガリバルディ
 ②  ア-サルデーニャ   イ-マッツィーニ
 ③  ア-両シチリア    イ-ガリバルディ
 ④  ア-両シチリア    イ-マッツィーニ
2016年度センター試験 世界史A 本試験 第3問A


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 アニメ「母をたずねて三千里」はフジテレビ系で日曜午後7時30分から放送されていた「世界名作劇場」の一本として、1976年1月~同年12月まで、52回にわたって放送された。場面設定・レイアウトに宮崎駿、監督は「アルプスの少女ハイジ」の高畑勲という強力なスタッフである。イタリアのジェノバに住む少年マルコが、アルゼンチンに出稼ぎに行った母親アンナを探して白い猿のアメデオとともに旅に出るというストーリーだが、個人的にはマルコの父、ピエトロの声を演じた川久保潔氏が、NHKの人形劇「新八犬伝」で「忠」の珠を持つ火遁の術の達人、犬山道節の声を担当していたので好きだった。主題歌を歌う大杉久美子氏は、「ハイジ」や「フランダースの犬」、「あらいぐまラスカル」などのテーマも歌ってた。

 アニメ「母をたずねて三千里」は、浜島書店の世界史資料集『NEW STAGE 世界史総覧』にも紹介されていた。原作はイタリアの作家エドモンド・デ・アミーチスによって1886年に書かれた愛国小説『クオレ』で、「三千里」はこの中の一章分を脚色した作品。このアミーチスという人、結構な愛国者で、14歳にしてガリバルディの千人隊(赤シャツ隊)に志願したほど。(ただし幼すぎとして断わられたとか)。

 実際小説版(「アペニーノ山脈からアンデス山脈まで」という副題がついている)を読んでみたが、なんとなく暗い感じのストーリー展開である。『クオレ』全体が道徳的な雰囲気を持っているが、「ロンバルディアの少年監視兵」「ガリバルディ」といったタイトルの短編は、日本の小学生には難しいのではないだろうか。前者の書き出しなど、「1859年、ロンバルディア解放のための戦争のとき、ソルフェリーノとサン・マルティーノの戦争で、フランスとイタリアの連合軍がオーストリア軍をうちやぶってから数日ののち....」という具合だ。

 なぜイタリアからアルゼンチン?このアニメの時代設定は、1882年となっている。この時期アルゼンチンでは、冷凍船の発明によってパンパでの放牧がさかんとなり、ヨーロッパ向けの食肉輸出が増加する。アンモニア冷凍設備をつけた食肉運搬船が就航したのは1876年だそうだが、まもなく冷凍施設付きの屠殺場も普及、また鉄道網が発達したことから肉の輸出も容易となった。政府は外国からの移民の土地取得を容易にするなど、移民の受入れに積極的だったことが、アルゼンチンへの移民が増えた理由のようである。こうした農畜産業の大規模な発展を理由に、ヨーロッパ(特にスペイン・イタリア)からの大量の移民が増えたということらしい。「工業化で人口増加が進むヨーロッパ向けの小麦や牛肉を生産」とは、まさに世界的な分業体制=世界システム。ただ、一般に世界システム論では「周辺は中核に従属する」と考えるので、中核から周辺に出稼ぎというのも少々違和感が残る。しかし、かつてアルゼンチン共和国大使館のウェブサイトには、

 「20世紀の初頭、アルゼンチンは経済的に成功した国となりました。年平均経済成長率が6%という時期が30年間続いた結果、ヨ-ロッパの人々が移住先としてアルゼンチンとアメリカ合衆国のどちらを選ぶか迷う程魅力的な国へと成長したのです。」

 「19世紀末頃には、イタリア、スペインをはじめとするヨーロッパからの移民が大幅に増加し、政治の世界でも大衆の代表を増やすよう求める声が強くなっていきました。」

という記述があった(現在は削除されてる)。移民の誘致政策がとられるようになった1860年代後半から以後の50年間に、ヨーロッパから約250万人の移民がアルゼンチンを訪れたということなので、大変な数だ。「三千里」でも、アルゼンチンに到着したマルコが「イタリア語ともロンバルディア語ともつかないことば」で話しかけられたり、移民たちが集う「イタリアの星」という宿屋でイタリア系移民たちからカンパしてもらうシーンがある。
 
 紹介したセンター試験のリード文に「タンゴやサッカーといった文化の発展に影響を与える」とある。移民から好まれたタンゴには、イタリア語からの借用語が多いという。これをルンファルド(Lunfardo)とよび、移民が多かったブエノスアイレスで使われることが多いらしい。イタリア系アルゼンチン人のサッカー選手といえば、なんといってもリオネル・メッシ。それに現ローマ教皇フランシスコもイタリア系アルゼンチン人。サッカーW杯は近いし、先日教皇フランシスコが「焼き場に立つ少年」の写真を配付するよう指示したというニュースが流れた。「サッカーアルゼンチン代表メッシと、ローマ教皇フランシスコの共通点は?」という問いかけからスタートして、最後は映画「山猫」を見せてイタリア統一の授業をしめくくりたい。設問の文章「新しい政治体制や社会の変化に反発した人も少なくなかった」「赤シャツ隊によって軍事的に征服された南部」という言葉が実感できるだろう。


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『ぞうれっしゃがやってきた』と『猫は生きている』~2冊の絵本 [授業ネタ]

 『文学・絵画・映画で学ぶアジア太平洋戦争』(『歴史地路教育』2017年3月臨時増刊号)巻末の「教材と資料」の一覧表を見て、様々な思いにとらわれる。それぞれに名作だと思うが、中でも私の心に残っているのが、『ぞうれっしゃがやってきた』と『猫は生きている』の二冊の絵本だ。

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 インディラ=ガンディーの説明として正しいものを一つ選べ。
  ① 夫はセイロン(スリランカ)首相であった。
  ② 夫はバングラデシュ大統領であった。
  ③ 父はパキスタン大統領であった。
  ④ 父はインド首相であった。
               (1996年 世界史 本試第4問)

 南アジアの女性政治家の多くは,有力な政治家の妻や娘であり,例えばインディラ=ガンディーは,インドの初代首相であった写真の人物(次図参照)の娘であった。写真の人物について述べた文として正しいものを,以下の①~④のうちから一つ選べ。
  ① 毛沢東とともに平和五原則を発表した。
  ② 首相在任中,中印国境紛争が起こった。
  ③ プールナ=スワラージ(完全独立)を要求する決議に反対した。
  ④ インド国民会議の創設に参加した。
               (2003年 世界史B 本試 第4問B)



 「インディラ」といえば、戦後ネルー首相が日本に贈った象の名前だが、ネルー首相が象を贈るきっかけの一つは、戦後まもなく、象を見るために全国から名古屋の東山動物園(戦争中も2頭の象を飼育し、戦後まで飼育を続けていた)を目指してやってきた象列車であったという。私は象列車と象のインディラのことは知っていたが、この二つの出来事に関係があったことは、以下の文章を読むまで知らなかった。
http://spijcr.mithila-museum.com/topics/zou/zou.html

 事実は小説よりもドラマティック。絵本では「ぞうのおりのつうろに、軍馬のえさが、つみこまれました。しいくがかりのおじさんたちは、それをこっそりぬきとり、ぞうにあたえました。」とあるだけだが、当時の東山動物園で軍馬を飼育していた獣医の三井高孟氏(軍属で階級は大尉)は飼育員が兵糧の中から象の餌となるフスマを盗んでいたのを黙認し、さらに兵士に命じてわざと象舎の通路にそれらの穀物が入った袋を置き忘れさせた事もあったという。 http://mi84ta.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/3-96bb.html


 もう一冊、『猫は生きている』は早乙女勝元さん原作の絵本で、絵は田島征三さん。東京大空襲を題材にした絵本である。野良猫「稲妻」母子と、猫一家を見守る昌男一家(父親は出征中)の強さと優しさ、たくましさが、田島さんの迫力ある絵と相まって印象深い秀作である。私は小学生の頃学校の体育館で、この絵本を元にした人形劇映画を観たが、稲妻が子猫たちとともに飛び上がるシーンが今でも心に残っている。いま読み返すと、野良猫一家を絶対家にはあげない厳しい母親だが、それもわが子を思えばこそ。猫一家の奮闘を見て「ちゅんと鼻水をすすりあげ」、空襲でともに子どもを連れて逃げる稲妻の頭をなで、稲妻の姿を思い出しわが子を守ろうとする母。この絵本の主人公は、稲妻と昌男の母親だろう。
 私が最近好きなマンガは、深谷かほるさんの『夜廻り猫』と、武田一義さんの『ペリリュー~楽園のゲルニカ』だが、『夜廻り猫』で主人公の野良猫、遠藤平蔵が(「おまえ」ではなく)「おまいら」「おまいさん」というセリフを口にするたび、『猫は生きている』のラストを思い出し、胸が熱くなる。最後の力を振り絞って猫一家を助けようと「行け、おまいたち!」と言葉をかける昌男。猫一家の無事を確認した昌男は力尽き、安堵したように川の流れに身をまかせ水の中に消えていく。昌男のおかげで難を逃れた猫一家は、彼の母親を発見し....『ぞうれっしゃ』と異なり、非情な結末ではあるが、子ども向けのこうした絵本も貴重だと感じる。昌男の母親の顔をなめる猫一家の部分は、50歳を過ぎた私が読んでも目頭が熱くなる。
 人形劇映画DVD推薦のことばで、作者の早乙女さんは次のように述べている。
http://www.hminc.jp/lineup/neko/nekokaisetu.html
「私は「猫は生きている」を子供たちに見せるにあたって、戦争の悲惨さはもちろんのことですが、実はそれよりも先に、子を思う母の気持ちを、その愛の強さと尊さを、きちんと伝えたいのです。子を思う母の気持ちは、必ずしも人間ばかりではありません。その辺のどこかの家の床下に住む猫チャンだって同じです。人間のみならず、他の生物の愛情まで否定するのが戦争なのでしょうか。それならば、戦争勢力をうちのめす強い愛もなくてはなりません。それが、今日の本物の人間愛ともいえるのではないでしょうか。」

心に残る言葉だ。


ぞうれっしゃがやってきた (絵本ノンフィクション 23)

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  • 作者: 小出 隆司
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  • 発売日: 1983/02/25
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猫は生きている (理論社のカラー版愛蔵本)

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文学・絵画・映画で学ぶアジア太平洋戦争 2017年 03 月号 [雑誌]: 歴史地理教育 増刊

文学・絵画・映画で学ぶアジア太平洋戦争 2017年 03 月号 [雑誌]: 歴史地理教育 増刊

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  • 出版社/メーカー: 歴史教育者協議会
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  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/03/23
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  • 作者: 深谷 かほる
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/03/23
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「怖い絵展」と「バベルの塔展」 [授業ネタ]

 兵庫県立美術館で開催されている「怖い絵展」と、大阪の国立国際美術館で開催されている「バベルの塔展」に行ってきた。

 兵庫県立美術館の屋上には、カメレオンのような奇妙なオブジェが鎮座している。これは「美カエル(みかえる)」という名のカエルのキャラクター。JR灘駅を出てまっすぐ進むと(「ミュージアムロード」)見えてくる。天候によっては、空気が抜けて萎んでるとのこと。
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http://www.artm.pref.hyogo.jp/diary/museumroad/mikaeru.pdf



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 ポール・ドラローシュ「レディー・ジェーン・グレイの処刑」は、「怖い絵展」の目玉作品。名画か?と問われると返答に困るが、目が離せなくなる不思議な吸引力を持っている。不気味な題材を、これでもかというほど写実的に描いているからだろう。刑吏が持つ斧の刃、腰につけた傷口を切りそろえるためのナイフ、囚人を後ろ手に縛るための縄。映画『クロムウェル』中のチャールズ1世が処刑される場面では、刑吏は覆面をしていたが、この絵では素顔をさらしている。非公開の処刑だったせいかもしれない。また同映画では、チャールズ王は手を縛られず、「自分が手を前に差し出したら、それが合図だ」とも言っていた。図録にもあるとおり、実際の処刑は屋外で行われている。したがって写実的な絵ではあるものの、正確ではない。写実的な表現と歴史的な物語趣味を合体させ、さらに歴史的正確さよりも見る人の興味関心を優先させた絵。こうしたサロン絵画の性格を高階秀爾氏は「映画」的と評していたが、まったくその通りだと思う。「レディ・ジェーン/愛と運命のふたり」でレディ・ジェーンを演じたのは、コスチューム・プレイの女王ヘレナ・ボナム=カーターだった(「ハリー・ポッター」シリーズのベラトリックス、「英国王のスピーチ」のエリザベス王妃、「ブリティッシュ・キングダム」シリーズの「キング・オブ・ファイヤー」でアン・ブーリン)。
 作者のドラローシュについて、Wikipediaには「初のサロン(官展)出品作は1822年の『ヨアシュを救うエホシェバ』と『キリストの十字架降下』。このときのサロンでジェリコー、ドラクロワと知り合い、親交を結ぶ。ドラローシュ、ジェリコー、ドラクロワの3名は当時パリで活動していた数多くの歴史画家たちのなかでも中核的存在となる。」とある。「怖い絵展」に模写が展示されていたジェリコーの「メデューズ号の筏」の中で、中央手前のうつぶせになっている人物は、ドラクロワがモデルだという説がある。ロマン派の先駆ジェリコーや彼の影響下でロマン派の大家となったドラクロワと並べると、ドラローシュはいささか見劣りがするように感じる。
 19世紀の美術評論家テオフィル・ゴーティエは、「美術館に来て絵そのものよりも描かれている題材にばかり関心が向く人は、本当に絵の好きな人とは言い難いが、ドラローシュはそうしたタイプの観客の興味をひきつけようとした」と述べている。題材に関心が向きがちな私自身ことを言われているようでドキッとした。
 そのほか、象徴主義のギュスターヴ・モロー、ラファエル前派のウォーターハウス、そしてピアズリーと世紀末系が好きな人にはツボなアーティストの作品がきていた。

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 ベルギーには「ブリューゲリアーン(ブリューゲル風)」という表現があるという。素朴で飾らないが質実剛健、ビールと血入りソーセージで飲んだくれ一歩手前まで陽気に楽しむ....といった感じ。教科書や資料集に掲載されている「農民の撮り」や「農民の結婚式」などを観ると確かにそういった雰囲気が伝わってくる。しかし「バベルの塔」は、ブリューゲリアーンとはずいぶん趣が異なる。精緻にして幻視的。サイスが小さいため、精緻さはより増している。旧約聖書をモチーフにしたこの作品、ブリューゲルはどういう想いで描いたのだろう。「バベル」の前はパーティションポールが置かれており、「動きながらのご観覧をお願いしております、立ち止まらないで....」と係員がアナウンスするくらいの行列だったが、個人的には「バベル」よりも、ヒエロニムス・ボスの2作品の方が良かったような気がする。様々な寓意とシンボル、奇妙なバランス。奇想と幻想の王者。

 さて、「怖い絵展」と「バベルの塔展」両方にあったのが、「聖アントニウスの誘惑」である。どちらもボス風の絵で、最初は同じモノではないかと思ってホテルに帰って図録を見比べてみたところ、かなり違っていた。どちらの絵にも向かって左上に火災が描かれている。そういえば「聖クリストフォロス」にも火災の様子が描かれていた。「聖アントニヌスの誘惑」というと、映画「ベラミの私事」のために開かれたコンテストが有名だが、1位のマックス・エルンスト、3位のポール・デルヴォーよりも、落選したダリの作品が最高。ボスの「聖アントニウスの誘惑」は、ポルトガルのリスボン国立美術館にある。

 スペイン王フェリペ2世はボス作品のコレクターだったようで、プラド美術館には大作「快楽の園」をはじめ多数のボス作品が収蔵されている。プラドには当然ながらゴヤやベラスケスの作品も収められているので、死ぬまでに一度は行ってみたい。今回ウチの学校のダンス部がテーマにしたピカソの「ゲルニカ」も1992年までプラドにあった。死ぬまでに一度....と言えば、もう一つウィーン美術史美術館。「大バベル」をはじめブリューゲルの作品多数。そういえばベラスケスのマルガリータは、プラドとウィーン両方にあるな。

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 それにしても、地方と都会との格差を改めて実感。兵庫駅の近くに宿泊したのだが、兵庫駅から大阪駅まで快速で30分ちょっと。三ノ宮で新快速に乗り換えればもっと早く着く。料金は550円!....ウチの近所のバス停から熊本市内まで行くにはバスしかなくて時間帯によっては時間90分以上、運賃800円くらいかかる。
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今年の九州大の問題(2) [授業ネタ]

今年の九大の〔2〕は、14世紀のイングランドにおける4つの統計資料を使ったグラフの読み取り問題。本日2年生世界史Aの授業で、アクティブ・ラーニング形式でやってみた(北高33期生2年2組)。

 問1の解説を行った上で、問2にチャレンジ。
  グラフA・・・・14世紀半ば、イングランドでは人口が激減した。
  グラフB・・・・グラフAで人口が激減した時期、
       イングランドでは労働者の賃金が上昇した。
  グラフC・・・・14世紀半ば以降、小麦価格は上昇しなかった。

 以上のデータから、「14世紀半ばのイングランドにおいて、労働者の生活環境にどのような変化が生じたかを100字以内で述べる」というのが問題の要求。
 始めてみるとけっこう大変で、私の説明から各グループの答案作成まで40分以上かかってしまった。短文であっても、文章化をグループで取り組むのはあまり効率がよくないかもしれない。

【各グループが作成した答案】
①14世紀、15世紀のイングランドでは、人口は黒死病によって減少し、賃金が増えたことによって生活が豊かになった。
②労働者の減少により人手不足で一人当たりの賃金があがった。また生産力は落ちたが、人口の減少により食料の消費量も減ったので価格は変わらなかった。よって一人一人の生活は豊かになった。
③黒死病によって人口は大きく減少して、1人あたりの労働力が増え、賃金は上がる。しかし人口が減っているので、小麦の収穫量が減っても需要と供給のバランスが成り立つので、小麦価格は大きく変化しない。その結果労働者の生活は向上した。
④人口の減少により、小麦の生産者が減り小麦の需要が増加した。しかし、安価な小麦がよく売れるため小麦価格が変動せず労働者の生活は苦しくなった。
⑤黒死病により、労働者の数が減ったので、賃金を上げることで労働者を雇おうとする労働者不足の状態になったのに対し、小麦の値段が変わらないから、結果的に労働者の環境はよくなった。
⑥黒死病によって人口が減少したことにより、労働力が不足し、賃金が上昇した。そして食料の需要も減り、供給も減ったため、食料の値段は変わらなかった。だから労働者の生活は向上した。

④のグループだけ「生活は苦しくなった」としており、間違った認識を持ってしまっているが、他は「労働者の生活は向上した」という結論を導くことができた。ベスト答案は⑤。14世紀のヨーロッパといえば「死の舞踏」「メメント・モリ」の暗いイメージだが、個人レベルの生活を見ると、暮らし向きはよくなったと言えるのは興味深い。この「ビックリ」が出題者の意図だった...とすれば感服。

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世界史の授業と「語り口」 [授業ネタ]

 高校で日本史や世界史の教師をしていると、歴史上の人物や事件のオモシロエピソードを紹介する機会は多い。エピソードを紹介する際、伝える手段として言葉だけで語るかそれとも文字を併用するかだが、私はプリントの余白や裏を使って紹介している。自分の記憶力に自信がないため、内容の正確さを期すということと、あとから見直すことが可能という二つの点からである。

 言葉だけで語るにせよ、文字で伝えるにせよ、「語り口」は重要だと思う。私が「語り口」の重要性を感じたきっかけは、『小学校歴史実践選書 歴史の授業の展開』(あゆみ出版)を読んだことであった。「紙芝居屋さんを見習う-語り上手になろう」「話の乱れは頭の乱れ-話し上手になるひけつ」「人を見て法を説け-話・説明・講義の区別」等を読んで、語る内容だけでなく、語り口もまた重要なことだと感じたものである。小川幸司先生の『世界史との対話』(地歴社)を読んだとき思い出したのが、「話の乱れは頭の乱れ-話し上手になるひけつ」の中の一文、「ランケもトインビーも、日本でいえば服部之総も羽仁五郎もひとかどの歴史家といわれる人は、いずれも風格のある話をする。日本の歴史を本気で子どもたちに教えるのなら、最も美しい日本語で、格調高く話をしようではないか。」という一節だった。
 
 内容やクラスの雰囲気に応じて語り口を変えることは重要だと思う。道端で排便中に暗殺されたカラカラ帝や新婚初夜に鼻血を出して死んだアッティラみたいな「お笑い系」のエピソードを紹介するとき、楽しそうな語り口(文体)でいくのか、それともあえて冷静にいくのかという点を、クラスのノリまで考慮した上で使い分けていくということである。以前紹介した『マスダ組提供歴史事典―ワールドワイドウェブ歴史奇譚 (別冊歴史読本)』(新人物往来社)は、マンガとともに笑えるエピソードを紹介した本だが、「語り口」という点でとても参考になる本であった。

 様々な点で衝撃的だったのが、兵庫県の田中忍先生より頂いた先生自作の副読本『世界史の飾り窓』(前編・後編)と『世界史漫才』(前編・後編)。前者は、面白いエピソードから教科書よりも深い解説まで、「教科書には出てこないが、自分が伝えたいこと」を全89回・185本の読み物でまとめてある。一方後者はタイトル通り、ヒトラーからゴルバチョフまで歴史上の人物・事件をネタにした漫才65本(プラスBONUS TRACK2本)が掲載されている。
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 「語り口」という点で、「だ・である調」の『飾り窓』と、漫才の台本形式で書かれた両者は大きく異なる。しかし共通して感じられるのは、「批判的に見て、そして考える」という姿勢。当然のことながら、『飾り窓』と『漫才』が目的としている点は同じだと感じた。世界史に興味を持ってくれる生徒がひとりでも増え、そして自分自身で社会に対する洞察力を磨いていって欲しいという願いである。
 なにより伝わってくるのは田中先生の情熱だ。これだけの分量をワープロで打ち、そして印刷・製本に至るまでに費やした時間とエネルギーを考えると、感服することしかできない。このような自作の副読本を配られた生徒は、それだけで先生を尊敬するだろうし、そしてまた、教師自身が楽しんでいけば、生徒も楽しんでくれるだろう。

 アクティブ・ラーニングという言葉が広がって、かなりの時間が経った。私の授業は語りがメインだったので、正直言ってまだなじめない部分がある。マルクスの『共産党宣言』風に、「教育界に妖怪が現れている。アクティブ・ラーニングという妖怪が。」という気分だ。しかしアクティブというのは身体的な動きだけでなく、脳のアクティブさをも含んでいる。「対話的な学び」に「先哲の考え方を手掛かりに考える」という例も示されていることは、それをよく示していると思う。『飾り窓』『漫才』のような取り組みが色あせることは決してないと感じている。

 ところでカラカラ帝は、軍隊とともに移動中、列を離れて道端で排便中に背後から刺殺されたと言われている。『ローマ帝国愚帝列伝』(新潮社)には「腰を屈めている皇帝の許に百人隊長が走り寄り、背後から渾身の力を込めて剣を突き刺す」とあるので、大きい方だと思ったが、Wikipediaには「軍列を止め、道端で放尿している所を後ろから刺されて絶命したとされている」とある。大?小?どっちだろう。
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アヘン戦争の絵 [授業ネタ]

 教科書を読んでいると、時々驚くような記述に遭遇することがあり、そんなときは本当にうれしくなる。最近だと、アヘン戦争で中国のジャンク船が爆発している図版の解釈。かつて熊本県の公立高校入試(社会)にも使われた有名な図版(こちら)だが、最近まで私は図版の右奥に見えるネメシス号が撃った砲弾がジャンク船に命中し、爆発したものだとばかり思っていた。

 しかし、かならずしもそうだとは言い切れないようだ。このことを知ったきっかけは、現在私が勤務している学校で使用してる教科書「世界史A」(東京書籍、世A301)に掲載されているこの図版の説明に疑問を感じたことだった。
 東書の「世界史A」では、この絵に関して「1841年1月、広州湾でイギリスの軍艦(右奥の帆がない蒸気船)に砲撃されるジャンク船がえがかれている。」という説明がついてるが、私が疑問を持ったのは、「帆がない蒸気船」という記述だ。熊本県の公立高校入試でこの絵が使われたときの問題は、「どちらがイギリスの船か、その理由もあわせて答えよ」というものだったと思う。そのとき、19世紀の蒸気船は帆も併用して航海し、風の影響を受けないようにするときは帆をたたむということを知り、「帆がない」という説明をした答案はすべて誤答として採点した。英語版Wikipediaのネメシス号の項目には、帆走してる図版が掲載されている。 https://en.wikipedia.org/wiki/Nemesis_(1839)

 このことがきっかけでネメシス号のことを調べているうちに読んだのが、大阪大学西洋史学研究室が発行している『パブリック・ヒストリー』第10号[http://www.let.osaka-u.ac.jp/seiyousi/JHP_10_2013.html]に掲載された、吉澤誠一郎先生の論文「ネメシス号の世界史」である(http://www.let.osaka-u.ac.jp/seiyousi/vol_10/pdf/JHP_10_2013_1-14.pdf)。この絵が二種類あるということにも驚いたが、もっと驚いたのは「ジャンク船を撃破しているのはネメシス号ではなく、右側の小さなボートの可能性がある」という指摘だった。以前、「蒸気船は、風や潮流に左右されずに大砲の照準を合わせることができたり、海上の障害物を撤去できたりしたから木造帆船より有利」(『ビジュアル版世界の歴史17 東アジアの近代』講談社、『世界の歴史25 アジアと欧米世界』中央公論新社)ということを読んだこともあり、「ネメシス号がジャンク船を砲撃・破壊してる」とばかり思っていた。
 吉澤先生の論文では「ネメシス号がロケット砲でジャンク船を砲撃し、破壊してる」という従来からの説が正しい可能性にも触れている。しかし、ネメシス号の果たした大きな役割は、喫水が浅いため陸戦隊を輸送・上陸させるという任務を担ったことや、ロケット砲(コンクリーヴ・ロケット)が威力を発揮できたのは相手が木造の船だったからという指摘は大変興味深い。「圧倒的な近代兵器の威力」というわけでもなさそうだ。

 現行の帝国書院の教科書『新詳世界史B』(吉澤先生も執筆者の一人である)は、吉澤先生の論文をふまえ、絵が二枚あることに触れており、小型ボートが砲撃しているという説をとっている。東京書籍の平成29年度版世界史A教科書も、帝国書院『新詳世界史B』とほぼ同じ説明に大きく変わっている。しかし実教出版の世界史A教科書(平成29年度版)は、「右奥のイギリス船が砲撃している」という説明のまま。実教の教科書が掲載してる絵は「小型ボートあり」の方だが、ネメシス号砲撃説をとっているプロジェクターなど使って、2枚並べて話ができれば面白いかも。


 先日、東京都立両国高校で「世界史Aの内容不足があり、在校生には補習授業をすることになった」という報道があった。私が最初にこのニュースを知ったのは、高大連携歴史教育研究会のMLからだったが、「内容不足」という言葉の意味が理解できなかったので、東京都教育委員会のホームページ[http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/2016/pr160923.html]をみたところ、ますますわからなくなった。以下のような記述である。
 
 東京都立両国高等学校において、保護者から第1学年で実施している「世界史A」の内容が不十分ではないかとの指摘を受け、東京都教育委員会において調査を行いました。  その結果、当該校では、平成24年度より、歴史の大きな流れについての理解を深めさせるため、前近代の学習内容を近現代の歴史的事象と関連させながら学習を行っていましたが、第一次世界大戦前後や冷戦の終結に関する内容など、関連させる近現代の内容の一部が不足していました。  なお、本件については、「世界史A」の内容が一部不足していたということから、未履修に該当するものではありませんが、不足を補うため、第1学年については授業計画を改善し、2・3学期で全ての内容を実施することとし、第2学年及び第3学年の該当生徒に対しては補習等を実施することとしました。

 「世界史Aの看板で世界史Bをやっていた」(数年前に愛知県で指摘されたこと http://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/30896.pdf)ということならば、アウトでも仕方ない。しかし、普通に進めていて時間が足りなくなっったということなら、どこの学校でも、どの教科科目でもおこりうることだろう.....と思ったのだが、「両国高校の1年生」という人から私のツイッターアカウントに届いたメッセージによれば、「世界史aという名目で世界史bという高度なところを教える」と保護者会では説明されたと。2chでも話題になっていたように[http://daily.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1474641770/](番号204の発言)、ネット上に残っていたシラバスをみると完全に世界史Bで、「第一次世界大戦前後や冷戦の終結に関する内容など、関連させる近現代の内容の一部が不足」どころの話ではない。「世界史Aの看板で世界史Bをやってた」と本当のことを言ってしまうと、影響があまりに大きくなるので配慮したのか?と勘ぐってしまう。この件がほとんど話題にもならず、東京の一つの高校だけで終わりそうなのも、様々な配慮が働いたのでは?とこれまた勘ぐってしまう。まぁ、現実的な対応を考えれば、こういうことに落ち着くのだろうが、「それはおかしい」という声が聞こえてこないのも、それでいいのかという気になる。

 来週は文科省から世界史の教科調査官の先生が来校するので、授業を見てもらう。フランス革命(2時間目)の予定なのだが、明日台風で休校決定。明日からの予定だった中間考査は日程が変更となり来週までずれ込む。最近台風で休校や授業カットが続き、「アメリカ独立」までの予定だった中間考査は産業革命までになってしまった。大丈夫か?



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「英国の夢~ラファエル前派展」(山口県立美術館)とヨーロッパ帝国主義 [授業ネタ]

 昨日、山口県立美術館[http://www.yma-web.jp/]に「英国の夢~ラファエル前派展」を見に行ってきた。2年前に森美術館で開催された「ラファエル前派展~英国ヴィクトリア朝絵画の夢」ほどではないものの、よい作品が来ていた。いちばん見たかったのは、ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829~56)の「浅瀬を渡るサー・イザンブラス」と「ブラック・ブランズウィッカー」の2作品。「サー・イザンブラス」は2人の子どもの不安げな表情と老騎士の哀愁漂う表情、彼の剣につけられたクジャクの羽飾りや彼ににしがみつく子どもが背中に結わえ付けている薪等、細部を堪能できた。ヴァージョン作品の方が、馬のバランスがよいようにも感じられたが。「黒きブランズウィック騎兵隊員」に描かれた、女性の服の襞と光沢は評判に違わずこれまた見とれるほど素晴らしい作品であった。
 ミレイはヴィクトリア時代のイギリスを代表する画家で、代表作「オフィーリア」は日本での人気も高く、2008年と2014年に日本でも展示された。ロイヤル・アカデミーの会長でもあったため、ヴィクトリア女王とも親交があり、ナショナル・ポートレイト・ギャラリー[http://www.npg.org.uk/]にはミレイが描いたディズレイリとグラッドストンの肖像画が収蔵されている。ミレイに爵位を授与したのはグラッドストンの意向だったという。

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 「英国の夢~ラファエル前派展」は、リバプール国立美術館のコレクションによっているが、リバプール国立美術館とはNational Museums Liverpool[http://www.liverpoolmuseums.org.uk/]の直訳であり、少々誤解を生みやすい訳語だという気がする。「Museums」と複数形になっていることからわかるとおり、National Museums Liverpoolは複数の美術館・博物館の総称である。このうちミレイをはじめラファエル前派の作品を多数収蔵しているのがレディ・リーヴァー美術館(Lady Lever Art Gallery)[http://www.liverpoolmuseums.org.uk/ladylever/index.aspx]であり、「サー・イザンブラス」「ブラック・ブランズウィッカー」ともにレディ・リーヴァーの収蔵品である。

 このレディ・リーヴァー美術館は、ミレイとほぼ同時代のウィリアム・リーバ(1851~1925)という人物のコレクションをもとにした美術館であるが、彼について、『授業に役立つ世界史100話(下)』(あゆみ出版)という本には興味深い話が掲載されている。
 同書掲載の「ラーマとティモテに隠された歴史~パーム椰子と落花生からみたアフリカ搾取の実態」によれば、ウィリアム・リーバが1885年頃に弟とともに立ち上げた石鹸製造会社「リーバ・ブラザーズ (Lever Brothers)」は、オランダのマーガリン会社「マーガリン・ユニ (Margarine Unie)」と1930年経営統合し、商号を「ユニリーバ」とした。
 ユニリーバといえば、日本にも子会社がある世界的な多国籍コングロマリットだが、石鹸製造会社のリーバ・ブラザースとマーガリン製造会社のマーガリン・ユニが合併したのは、両者の製品がともに植物性油脂を原料としていたという共通点からである。なかでもパーム椰子から採れる油は、石鹸製造にもマーガリン製造にもともに重要な原料であり、その最大の供給地がコンゴだった。1885年にベルギー王の私有地としてスタートしたコンゴ自由国は、1908年にベルギー領コンゴとして植民地化される。ユニ・リーバとベルギー植民地当局は、持ちつ持たれつの関係でコンゴを支配していくわけだ。まさに世界システム。

 そもそも、石鹸とマーガリンの需要が増大したというのも19世紀後半以降の世界情勢が影響している。産業革命の進展により、工場での労働によって油で汚れた体を洗うという習慣が労働者階級にも普及し、石鹸の需要は飛躍的に高まった。一方、マーガリンのほうはwikipediaによれば、1869年にナポレオン3世が軍用と民生用のためにバターの安価な代用品を募集したところ、フランス人のイポリット・メージュ=ムーリエが牛脂に牛乳などを加え硬化したものを考案した。これは、オレオマーガリン (oleomargarine)という名前がつけられ、後に省略してマーガリンと呼ばれるようになったという。1871年、ムーリエの考案したマーガリンの特許権を買収したのが、オランダ人のアントン・ユルゲンスで、彼がマーガリン・ユニの創設者である。マレー半島におけるゴムやスズの生産量増加が、自動車産業の発展や戦争用の缶詰需要の増大を背景としていたことを思い出す話だ。
 マーガリンというと、小学生の頃の給食では定番だったし、子どもの頃わが家では味の素がつくっていた「マリーナ」という商品名のマーガリンを使っていた。このマリーナ、いまはもう存在しないが、味の素がマーガリン事業から撤退した後、日本リーバ(現在のユニリーバ日本)が事業を引継いで一時生産していたらしい。


授業に役立つ世界史100話〈下〉

授業に役立つ世界史100話〈下〉

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: あゆみ出版
  • 発売日: 1989/12
  • メディア: 単行本



闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: ジョゼフ コンラッド
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/09/08
  • メディア: 文庫



闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

  • 作者: コンラッド
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1958/01/25
  • メディア: 文庫



闇の奥

闇の奥

  • 作者: ジョセフ コンラッド
  • 出版社/メーカー: 三交社
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 単行本



『闇の奥』の奥―コンラッド/植民地主義/アフリカの重荷

『闇の奥』の奥―コンラッド/植民地主義/アフリカの重荷

  • 作者: 藤永 茂
  • 出版社/メーカー: 三交社
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 単行本



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国家と民族 [授業ネタ]

来週から二学期の期末テスト。2年生の世界史Aは、イタリアとドイツの統一までがテスト範囲である。いわゆる「国民国家」の形成である。

 今日の新聞に「移民街 漂う疎外感」という記事が掲載されていた。記事によれば、問題を抱えているのは、移民の2世や3世であるという。両親や祖父母の国に親近感が持てない一方で、生まれ育ったフランスにもなじめない。そうした疎外感にイスラーム過激派はつけこむと指摘されていた。ウチの生徒(中国籍で父は中国人、母は日本人)が「中国では日本人と呼ばれ、日本では中国人と呼ばれて、からかわれたりデリカシーのないことを言われてきた」という経験を語っていたことを思い出した。

世界史Aの教科書では、国家と民族に関する記述が多く見られる。勤務校で使用しているのは東京書籍だが、「ネーション」という言葉の解説や、「国家と民族」という特集ページなどがある。10月31日付の熊本日日新聞では、特集「日本に生きる」の中で姜信子先生が、「国家や民族という概念からの解放」ということを述べておられた。

 もちろん現代社会においては、国家の一員という前提を抜きにしては権利も主張できない。パスポートの最初のページには「日本国民である本旅券の所持人」と書いてある。それでも、外国ルーツの人たちに対するネガティヴなイメージは、国家や民族という考え方を自明の前提と考えていることにも原因の一つがあるように思われる。国家や民族、国民国家という枠組みの形成について授業でじっくり考えてみるのも必要だという気がする。

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