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「苦役への道は世界史教師の善意でしきつめられている」 [その他]

高校の世界史教師(特に進学校の)の多くが感じていながら、恐くて口に出せなかったことがある。それを口に出してしまったが最後、今自らが行っている授業を自己否定することにつながってしまうからである。しかし昨日、それを真正面から言語化した文章を目にしてしまった。

 タイトルは「苦役への道は世界史教師の善意でしきつめられている」というもので、筆者は小川幸司先生。長野県で世界史を教えられている方のようだ。読んだのは、昨日行われた歴史学研究会の特設部会「社会科世界史60年」での報告文章である[http://wwwsoc.nii.ac.jp/rekiken/annual_meetings/index.html]。この場合「苦役」とは「暗記地獄」を指しているが、似たような意味で、一昨年日本西洋史学会の折りに、ある先生は「世界史教師の博識は生徒の負担につながる」という言葉を口に出された。小川先生は、「善意」という言葉を使い、問題の深刻さをより強く示されているように思う。また「すべての道はローマに通ず」的で、なかなかシニカルでもある。

 核心的な指摘の部分を引用させていただこう。
「今や、私たちは、はっきりと認識すべきなのである。高校世界史は、高校生からも社会人一般からも“嫌われている”科目であり、その意義に共感してもらうことに“失敗”してきた科目なのだということを。
 私たちは、こう自問自答すべきなのだ。現代において世界史を学ぶことは必要だろうけれども、今の世界史教育の「方法」は高校生の学びにとって相応しいものなのだろうか、と。この自己検証を怠ってきたがゆえに、世界史を学ぶ意義までもが侵食されてしまったのではないだろうか。」

 昨年宮崎大学で開かれた研究大会の折に私は報告を行ったが、その時の課題テーマは「転換期における歴史授業の実践的課題を探る」というもので(「高校世界史は、高校生からも社会人一般からも“嫌われている”科目であり、その意義に共感してもらうことに“失敗”してきた科目なのだということを認識すべき時がきた」という意味で、現在は転換期と言えるかもしれない)、私は教育学会という「理想を求める」場で、高校の教室という「現実的な場」ではどういう授業が行われているかを話してみた。様々な意見をもらったが、私と大学の先生方とは問題意識が違うようで、議論がかみ合ったとは思えない。このときのレジュメは[http://www005.upp.so-net.ne.jp/zep/sekaisi/jyugyou/zensyagaku2008.pdf]であるが、この「はじめに」で婉曲的に書いているように、私の問題意識が「嫌われている世界史を好きにさせるにはどうすればいいか」というものだったのに対し、大学の先生方は「何をどう教えれば、理想の人間として成長できるのか」という点に問題意識があったように思う。なかでも某出版社の歴史教育関係の本に掲載されていた内容を使った「日露戦争は侵略戦争か否か」というテーマの話を授業でやるのは不適切だ、という意見をいただいたが、「授業で何をすべきか」という点で、私と大学の先生方とは問題意識が違うように思われる。高校の世界史教師向けの研修会で、大学の歴史教育関係の先生を招くよりも、予備校の名物講師を招く方がより現実的な研修会となるのは、(少なくとも進学校の教師にとっては)自然かもしれない。そもそも、学会や学会誌で発表されているような授業が現場で実際に行われてきたとはいえない。大学の先生、生徒、そして保護者が求める「よい授業」はそれぞれに異なる。現場の教師が、直接の消費者である生徒や保護者のニーズを最優先して「理想的な授業」よりも「大学受験を念頭に置いた暗記中心の授業」をやってきたのは当然と言えば当然だろう。

 以前『世界史をどう教えるか』(山川出版社)を読んだときに感じた「しっくりこない感じ」を、私は明確に説明することができなかった[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2008-06-15]。だがこの論文ではそのことも明快に指摘されている。

 では一体高校における世界史の授業は、どう変えていくべきなのか。残念ながら、今の私には旧来の授業スタイルにとって変わるべき対案があるわけではない。ただ「なんとかせねば」という気持ちは持っているつもりだ。授業ネタ集めはその一つの方法なのである。
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コメント 3

papa

 こんばんは。
 そもそも世界史ってそんなに嫌われている教科でなのしょうか?まあ基準をどのくらいにもってくるかで変わってくるとは思いますが、公民科の教員から見ると、世界史って人気科目の一つだと思ってます。「世界史って嫌われてるなあ」と感じる時はどんなときですか?
by papa (2009-05-26 20:36) 

小川幸司

 こんにちは。小川です。素敵なブログを運営されているのですね。そんななかで取り上げてくださって、ありがとうございます。授業に手間隙かけて、丹精こめて準備をするというのは、何より大切なことであると、私も思います。私も大好きな演劇を創るように、授業の演出をいつも考えています。
 また、色々教えてください。
by 小川幸司 (2009-05-27 21:00) 

zep

>papa先生
お久しぶりです。ここ3年ほど公民の授業から遠ざかっています。公民を教えたくてウズウズしている?私です。「世界史って嫌われてるなあ」と感じる時、ちょっと今日のエントリーに書いてみますね。

>小川先生
論文拝読させていただき、たいへん感銘を受けました。拝読してまず思ったのは、高校世界史が様々な問題を抱えながらもなんとか続いているのは、全国の世界史教師の表には出てこない地道な活動のおかげなのではないか、ということでした。
by zep (2009-05-27 22:28) 

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