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『グレースと公爵』(エリック・ロメール監督、2001年、フランス) [歴史映画]

 大串夏身『DVD映画で楽しむ世界史』(青弓社)の中でフランス革命を描いた映画として紹介されており、観たいと思っていたが現在は絶版。最近DVDを手に入れたが、正直ちょっと「期待はずれ」だったかも。

 スコットランド生まれの女性グレース・エリオット(1754~1823)の自伝的小説『グレースと公爵』を映画化した作品。フランスの王族オルレアン公フィリップ(七月王政のルイ・フィリップの父)の愛人となってフランスに渡り、オルレアン公との関係が終わった後もフランスで暮らした。この映画はフランス革命を王党派だったグレースの目を通して見たもので、「劇薬」としての革命の側面をよく描き出している。数々の危機を知恵と度胸で切り抜けるグレース役のルーシー・ラッセルと、胡散臭いイメージのオルレアン公を好人物に演じたジャン=クロード・ドレフュスの演技が素晴らしい。またくすんだ独特の画面が印象的で、これは忠実に再現した当時のフランスの風景をCGで合成したとのこと。ラストで査問されていたグレースを救うのはロベスピエールで、彼は証拠の手紙を読むために眼鏡をかけるが、マンガ『ナポレオン~獅子の時代』(長谷川哲也)に出てくるロベスピエール風の外見。
 ストーリーがやや難しいため授業で使うには少し厳しいが、フランス革命の「劇薬」的な部分を感じさせるにはよいかもしれない。



グレースと公爵 [DVD]

グレースと公爵 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • メディア: DVD



グレースと公爵 (集英社文庫)

グレースと公爵 (集英社文庫)

  • 作者: グレース エリオット
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2002/10/01
  • メディア: 文庫



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下地ローレンス吉孝『「混血」と「日本人」 ―ハーフ・ダブル・ミックスの社会史―』(青土社) [歴史関係の本(小説以外)]

 外国ルーツのスポーツ選手の活躍や出入国管理法の改定など、最近では日本人と外国人の違いに言及したトピックに事欠かない。一方で日本での国際結婚は30組に1組の割合にのぼり、国内の新生児の50人に1人はいわゆる「ハーフ」であるという。この場合の「ハーフ」は、「どちらか一方の親が外国籍」を意味するが、かつては「混血」とよばれたり、最近では「ダブル」「ミックス」という呼称もある。こうした呼称がどのように意味づけされ、また変化していったのかを社会学的に考察した本である。

 全450㌻となかなかの大著であるが、それぞれの章には小括があり、さらに大きな部にもまとめがあるので理解しやすい。もともと学位論文だということで、序章は理論や研究の枠組みを示している。やや読みづらい部分もあるので、読み飛ばしても差し支えないが、時期区分と位相、人種プロジェクトの概念は理解しておいた方がよいと思われる(序章2-1~2-3)。時期区分と位相は図0-3(36㌻)で分かりやすく示してあるが、初版は表中に気になる誤植がある。

 第Ⅰ部「混血の戦後史」は、戦後を四つの時期に区分し、それぞれの時代を「1.混血児」「2.ハーフ」「3.ダブル」「4.多様なハーフ」という言葉で象徴させる。ここで興味深かったのは、戦後まもなく文部省が出した「混血児対策」と学校現場での対応の記録をまとめた第一章。また、「多文化共生」を目指す施策中には、自分たち「日本人」とは異なる「外国人」という二項対立的な構造を前提にしているとの第三章の5での指摘も興味深い。「外国人」を「日本人以上に日本的」と褒め称えるのは、この二項対立にもとづいているが、この前提に基づけば「ハーフ」とよばれる人々は「日本人」でも「外国人」でもなくなってしまう。ナチスはニュルンベルク法にみられるようにユダヤ人を「血の論理」で区分していたが、歴史的に形成されてきた「日本人」と「外国人」という二項対立の中では、その内容が多様な「ハーフ」の存在は見えにくくなるだろう。
 第Ⅱ部「戦後史から生活史へ」では、「ハーフ」の人々のインタビューに基づいて「日本人」でも「外国人」でもない彼らが日本でどのように生きてきたかが紹介される。『地域から考える世界史』でも書いたことだが、私自身も様々なエピソードや体験を耳にしてきた。こうした差別や偏見にさらされた人たちに対して、「よく耐えたね、頑張ったね」だけで終わらせてはいけないような気がする。

 学校の教室にハーフの子どもがいることは珍しくない。普段私は「外国ルーツの人(子ども)」という呼び方をするが、それは「ハーフ」という言葉を使うことになんとなく抵抗があるからだ。おそらくその言葉に蔑視的なニュアンスを感じるからだと思うが、根拠があるわけではなかった。「ハーフという言葉に、自分はなぜ抵抗があるのか」を考える機会となった。


著者による評論
https://www.nippon.com/ja/currents/d00443/
https://www.nippon.com/ja/currents/d00444/
https://www.refugee.or.jp/fukuzatsu/lawrenceyoshitakashimoji01
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57709



「混血」と「日本人」 ―ハーフ・ダブル・ミックスの社会史―

「混血」と「日本人」 ―ハーフ・ダブル・ミックスの社会史―

  • 作者: 下地ローレンス吉孝
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2018/08/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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文部科学省大学入学者選抜改革推進委託事業人文社会分野(地理歴史科・ 公民科)における試行試験 [大学受験]

 早稲田大学を中心に作成された、次期学習指導要領向けのサンプルテスト(地歴・公民)が公開されたので、世界史の問題を解いてみた。正式には「文部科学省大学入学者選抜改革推進委託事業人文社会分野(地理歴史科・ 公民科)における試行試験」という名称で、問題冊子の表紙には「この試行試験は、文部科学省委託事業として「思考力・判断力・表現力」等をどのように問えるかを検討するために行ったものであり、試行試験の結果を踏まえ、今後の課題等について検討していく予定です。このため、今回公開する問題は完成したものではないことをご了承ください。また、その目的のために様々なパターンの問題を含めております。試行試験は生徒の学力を評価するためのものではなく、特定の大学の入学試験とも一切関係がありません。 このことにつきまして十分ご理解のうえご覧いただけますと幸いです。 」とある。

 大学入試センターの試行調査(プレテスト)とは異なり、次期学習指導要領で求められている学力をトータルで評価することを目的としてるため、客観式の問題のみならず記述・論述式の問題も出題されている。大問構成は3つで、100点満点(第1問・2問がそれぞれ30点、第3問は40点)。第1問は「アメリカ合衆国への移民」、第2問は「世界史上の疫病」、そして第3問が「大交易時代」。第1問と第2問は客観式の問題で、第3問は客観式・記述・論述式の混合。このうち論述問題は、「100字以上130字以内」(指定語句3つあり)と「30字以内」の2つであった。全体としてグラフや年表、資料文の丁寧な読み取りが必要で、「資料データの読み取りや読解力、そして読み取った結果をもとに考える姿勢を重視したい」という出題者の意図が伝わってくる。そのため、即答するのはかなり難しい。前近代分野からの出題がないのは、資料データの提示が難しいからだろう。

  第1問は、グラフ・年表・会話文の読み取りを正しく組み合わせないと正解が導けない。よく工夫された問題である。ヨーロッパが移民を生み出したプッシュ要因を問う問2は、「19世紀の後半」というヒントだけでロとハのどちらが史実にあわないか判断するのは難しい。風刺画を時系列に並べる問5が面白い。以前、ナポレオンを描いた絵を時系列に並べてみるという授業を見たことがあるが、それぞれの絵に付けられたタイトルが英語なので、日本語訳のタイトルがついていたらもっと解きやすかったと思う。

 第2問では、グラフと地図の読み取りを組み合わせた問1がよく工夫されている。知識を必要とせず資料の読み取り技能だけで答えるという問題は、2003年度のセンター試験世界史B本試験第4問Cで出題されたが、今回の問題はグラフだけではなく地図の読み取りも組み合わされている。問2は、地理的な知識も必要である。問3「14世紀のペスト流行の原因」の正解は「ハとニ」となっているが、「ニ 百年戦争の終結」は15世紀だからこれは明らかに解答のミスだろう。「ハ 農奴制の強化」もペスト流行との因果関係は不明だ。私は「イ ヴェネチアの繁栄」と「ロ ジャムチ(駅伝制)の整備」と思ったのだが、どうだろう。ジャムチ整備は13世紀だが、マクニールの「モンゴルのヨーロッパ遠征がペスト流行をもたらした」というのが頭にあったので。説明に必要なデータを選ばせる問5、資料を読んで課題レポートを完成させる問6も良問。

 第3問は、全体的に難度が高い問題が並んでいる。問3「足利義満の死後、次の義持の時代に明との国交が不安定であった理由」を6つの選択肢から2つ選ばせる問題は、時代的にあわないイと文中の記述から誤りとわかるハは除外できるが、残った4つから2つ選ぶのは難しい。「日本側の事情」と考えればよいのだろうか。論述問4は、「後期倭寇の活動が明代前半期に成立した国際秩序に与えた影響」を130字で述べる問題。指定語句は「琉球王国」「朝貢貿易」「日明貿易」の3つである。「明代前半期に成立した国際秩序」とは「海禁」であり、それが崩れていくというのが「影響」である、というのが求められている結論。これに気づけば、3つの指定語句をいずれも減速傾向で使うことになるからさほど難しくはない。しかし、「海禁」という語句自体が問1で問われているのは少々問題ありではないか?会話や資料の内容から適切なものを選ばせる問7は、時代の全体像を示すような選択肢で固めてみてもよかった気がする。

 60分という解答時間で最後までいきついた被験者はあまり多くなかったように思われる。確かに難易度は高いが、考えさせる場面が多い問題が並んでおり、授業中にグループワークで取り組ませるに適した問題である。
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世界史Bのプレテスト [大学受験]

 先日今年度のプレテスト(大学入学共通テストの試行調査)が実施され、問題と解答および出題のねらい等が公開された[https://www.dnc.ac.jp/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h30_1110.html] 。世界史Bに関しては、「昨年より簡単」になり、残念ながら「思考力を問うという点で後退した」というのが第一印象であった。

 「簡単になった」と感じる原因の一つは、わかりやすい選択肢である。例えば解答番号3では、「②メロヴィング朝とマムルーク朝」の組み合わせは時代的な隔たりが大きすぎるうえ、他の三つの選択肢は「教科書で同じ箇所に載っているのを見た」記憶がある。小問の概要は「地中海とその周辺地域で接触した国家・王朝について考察し判断する」となっているが、折角地図を使っているのだから、ダミー選択肢として「上の地図で表された地域において接触した可能性がない勢力」(地理的にハズれている勢力)を取り上げた方がよかったように感じる。

 一方「思考力を問うという点で後退した」と感じた原因は、「これって前にもあったよね」という問題が散見されたことである。まず問題番号12。宮崎滔天『三十三年之夢』を使った問題だが、2000年度の世界史A本試験第3問Bと引用箇所、さらに文中で空欄になっている部分までまったく同じであった。それはともかく、文中で空欄になっている国の組み合わせの選択肢は、かつての世界史Aのセンター試験のほうが良かったようにも思える。今年の試行問題では、単に組み合わせを問うのみで
  ① ロシア 日本     ② スペイン 清国
  ③ 日本  清国     ④アメリカ合衆国 スペイン
という選択肢だが、2000年度の世界史A問題では、
  ① a―アメリカ合衆国 b―スペイン
  ② a―スペイン b―アメリカ合衆国
  ③ a―アメリカ合衆国 b―日 本
  ④ a―日 本     b―アメリカ合衆国
 という選択肢であり、より深い読解が必要となっている。過去にこの問題があったことで、「後退した」印象を抱いてしまったのだろう。出題者の方には申し訳ない言い方だが、「世界史Bの新テスト(試行)問題が、世界史Aの過去問より簡単なんて信じられない」というのが正直な思いだ。

 次に問題番号24。ポーランド分割の風刺画は、同じものが2002年度の世界史A追試験第4問Bで使われた。分割に参加した国名と君主名の組み合わせを解答させる点も同じである。

 問題番号34については、類似の地図が今年のセンター試験世界史A追試第1問Bに使われているが(問題番号6)、小問の概要に「グラフと説明文とを関連付けて」とあるように今年の「高等学校担当教員の意見・評価」[https://www.dnc.ac.jp/center/kako_shiken_jouhou/h30/jisshikekka/hyouka_honshiken/chirirekishi.html]で指摘されている点がよく生かされていたと感じる。

 貨幣の写真を示して古い順に並べさせるタイプ(問題番号22)は、類似の問題が1998年の世界史B本試験第3問Aで出題されたが、貨幣の説明文を読み王朝を特定することが必要となっており、今回の問題は読解力を必要とした。

 この問題を見ていて思いだしたのが、平成25年に実施した熊本県の県下一斉テスト(世界史)で出題した問題で、ユーロ導入前のギリシアの貨幣(デモクリトス・ペリクレス・ホメロス・アリストテレス)を活躍した古い順に並べよというものである。並べた順番の選択肢もかなり工夫して、「ペリクレスで始まる選択肢とホメロスで始まる選択肢が二つずつ、ホメロスのほうが古いだろうから答えは二つに絞られ、正解候補の二つのうち片方は最後がアリストテレスでもう片方はペリクレスだから、アレクサンドロスの家庭教師だったアリストテレスが最後だろう」という流れを期待したのだが、寄せられた感想は残念ながら「難しすぎる」というものばかりであった。この問題を選択させた学校は世界史Bを履修しているはずだから、正直「これくらい説明できないような教員なら、やめてほしいんだけど」と思ったものである。


 今回の試行でよかったのは、文章をしっかり読むことを期待する問題が見られたことである(問題番号14、16、26、28)。 また正解が複数あるという問題もあった(問題番号24)。「東ロボくん」の開発者は「東ロボくんは、意味が分からないのに世界史の教科書を読み込んでコンスタントに高得点を出した」と自画自賛していたが、読解力を必要とする問題はAIで解答するには難しいだろう。一方で、昨年の試行問題にみられた「根拠を問う問題」「調べるための資料として適当なものを選ばせる問題」「誰の意見が正しいかを問う問題」などがあってもよかったのではないか。特に、昨年の「アジア・アフリカの民族運動に関する資料を読ませてその共通性を問う」というメタ認識的な問題はあってもよかった(難易度の関係もあったのかもしれないが)。全体としてこれまで実施されてきたセンター試験とあまり変わらず、「高得点をとるためにはアクティブラーニング的な授業など必要ないし、むしろ講義形式のほうが適しているのでは」と感じた。
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玉木俊明『近代ヨーロッパの形成~商人と国家の近代世界システム』(創元社) [歴史関係の本(小説以外)]

 ツィッターに「歴史bot」( https://twitter.com/history_theory/)というアカウントがある。歴史関係の本の一部をそのまま呟くアカウントだが、なかなか面白い。そのツィートで見つけたのがこの本。序章と第一章における研究成果の整理と批判的検討は、読み物としても大変面白い。最初に面白かったのは、ツィッターでも紹介されていた以下の2点(37㌻)。
 ・産業革命は、それまで劣勢であったヨーロッパ経済がアジア経済に追いつき追い越す過程だともいえ、それはエネルギー源を生物由来の有機エネルギーから無機エネルギーへと転換することによって可能となった。
 ・欧米と日本とでは、歴史教育をめぐる状況がかなり異なる。
 
 次にウォーラーステインの世界システム論に関する検討も興味深い。現在ウチの学校で使っている教科書『世界史A』(実教)には、「国際分業体制」というコラムで世界システム論の解説があり、資料集『グローバルワイド最新世界史図説図表』(第一学習社)でも「近代世界システムの形成」という特集ページがあり、(『グローバルワイド』には「妥当性について疑問を呈する意見もある」という記述もあるが)なおウォーラーステインの世界史システム論はなお大きな影響力を持っている。しかし本書によれば、ウォーラーステインの近代世界システム論はヨーロッパではあまり人気がなく、グローバルヒストリアンの中には反ウォーラーステインの論者もいるという。その上でグローバルヒストリーに欠けている従属理論の視点、一方近代世界システム論に欠けている産業革命を考慮しつつ、商人ネットワークによる情報の重要性に対する指摘はなかなか興味深い。

 進学希望者向けの課外授業ならともかく、歴史理論を高校世界史の日常の授業で扱うことはまずない。しかし「大きなストーリー」が頭にあれば、個別具体的な場面を授業で扱うときにも、知らない場合に比べて自分なりに強調したり分かりやすく説明できたりするように感じる。とりわけ第4章には色々と面白い視点が並んでいた。主権国家に税金という視点がはいれば「領土は主権が国民に対して税金を課すことができる範囲」と、主体・対象・範囲で説明することもできる。戦争の重要性にしても然り。教科書的にはウェストファリア条約で主権国家体制が確立したと言われるが、スイスが永世中立国となったことからわかるように、これは戦争を前提とした体制でもある。18世紀にはいって七年戦争などヨーロッパ外での戦争が増えるとともに戦費は増加する一方で、国家財政に占める戦費の割合は増加の一途をたどる。こうした戦争を可能としたのが商人のネットワークを通じた資金の流れであり、また戦争によって国民意識は高まり、フィクションとしての国民国家が形成されていく、と。商人ネットワークの視点があれば、「最も利益を得たのはスペイン人の砂糖プランダーではなく、なぜイギリス商人だったのか」が説明できるような気がする。

 2013年の大阪大学の入試(世界史)と2016年に出された大学入学希望者学力評価テストの問題イメージでは、アンガス・マディソンの『The world economy: a millennial perspective』(邦訳は『経済統計で見る世界経済2000年史』柏書房)所収の統計が示されているが、本書の内容が頭にあれば、生徒にとってより分かりやすい解説ができるのではないだろうか。

 たまたま同時期に読んだのが、江戸川乱歩賞作家である高野史緒氏の『翼竜館の宝石商人』(講談社)。17世紀のアムステルダムを舞台に、「光と影の画家」レンブラントが謎を解く歴史ミステリー。物語の背景は、オランダの商人ネットワークである。おかげでよりよく楽しめた。


近代ヨーロッパの形成:商人と国家の近代世界システム (創元世界史ライブラリー)

近代ヨーロッパの形成:商人と国家の近代世界システム (創元世界史ライブラリー)

  • 作者: 玉木 俊明
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2012/08/21
  • メディア: 単行本



翼竜館の宝石商人

翼竜館の宝石商人

  • 作者: 高野 史緒
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/08/23
  • メディア: 単行本



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長谷川 修一/小澤 実 編著『歴史学者と読む高校世界史: 教科書記述の舞台裏』勁草書房 [歴史関係の本(小説以外)]

 高校で用いられている世界史の教科書を対象に、記述内容と作成プロセスを検討した本である。第Ⅰ部および第Ⅱ部では、古代イスラエル、中世ヨーロッパ、中・東欧、アメリカ合衆国(以上第Ⅰ部)、イスラーム史、日中関係、東南アジア、日本に関する記述(以上第Ⅱ部)を対象に記述内容が批判的に検討されている。視点は様々であり、記述内容の妥当性に対する批判(古代イスラエル)、構成に対する批判(東南アジア)、複数教科書における記述内容の差異や変化(日中関係)、提案(イスラーム史)、整理(日本に関する記述)などがある。これらの内容は「授業で役立つ」というものではないが、それぞれに読んでいて興味深い。とりわけそれぞれの章の「おわりに」は、執筆者の方々のスタンスがよく表れており、高校世界史教員へのメッセージとも言える。

 もう一つ面白かったのが、教科書の記述がなぜ変わらないかという話だ。長谷川修一氏は、第一に内容の大幅な変更を好まない現場の意図に忖度した教科書会社が最低限の記述変更にとどめる傾向が強いこと、第二に学習指導要領の「世界の歴史の大きな枠組みと展開」を理解させることを目的としているため、「ステレオタイプな『出来事』としての理解」が重視されること、第三に厳密な史料批判が行われないまま「『旧約聖書』の本文のみを史料として過去の歴史を再構成する傾向」があったこと、第四に教科書執筆者が「古代イスラエル史」を厳密に研究してこなかったことの四つの複合的要因があるとしている。
 これら四つの要因のうち、三と四は古代イスラエル史固有の問題だが、一つ目と二つ目は他でもあり得る話だろうし、しかも両者には密接な関係があるように思われる。『詳説世界史』の執筆者である東京大学の橋場弦氏によれば、衆愚政という言葉を削除したら現場の教員からクレームが相次いだという[http://todai-umeet.com/article/34727/]。というのも「橋場教授は正しい表現に直したのにすぎないが、現場からすればわかりやすいストーリーが崩されてしまった」からだ。確かに自分自身の授業を考えてみても、因果関係を軸にしたストーリーを展開した方が話しやすい。

 個人的には、第Ⅰ部・第Ⅱ部よりも第Ⅲ部が面白かったが、中でも元教科書調査官の新保良明氏による第10章「世界史教科書と教科書検定制度」と矢部正明氏による第12章「高等学校の現場から見た世界史教科書―教科書採択の実態」は興味深い内容である。第10章は教科書検定とはどのように行われるのか、検定を行う教科書調査官(教科調査官とは異なる)とはどんな人で、どうやったらなれるのかなど興味はつきない。ここでも「おわりに」がリアルだった。よほど腹に据えかねたのだろう。
 「序」にあるように、この本は授業の改善や世界史という科目の在り方に直接「役に立つ」ものではない。であるにせよ、これまで正面から語られることがあまりなかった内容であり、自分自身が当事者であることも相まって、たいへん面白く読むことができた。

1930年度に松山高等学校で出題された世界史の問題はたいへん興味深い。確認できる範囲では、穴埋め問題の初出だとのこと(第11章)。



歴史学者と読む高校世界史: 教科書記述の舞台裏

歴史学者と読む高校世界史: 教科書記述の舞台裏

  • 作者: 長谷川 修一
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2018/06/29
  • メディア: 単行本



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中村高康著『暴走する能力主義』 (ちくま新書) [授業研究・分析]

 「多面的・多角的に考察する力」「課題の解決に向けて構想する力」「考察したり構想したことを効果的に説明する力」「議論する力」。これらの能力は、今回改定された学習指導要領において地理歴史科で身に付けるべきとされている力の一例である。これらの能力は、果たして本当に新しいのだろうか。個人的な感覚では、まったく新しくない。現行の世界史Aの学習指導要領においても、「多面的・多角的に考察」「追究し考察した過程や結果を適切に表現」「課題意識を高め,意欲的に追究」「国際社会に主体的に生きる国家・社会の一員としての責任」といった表現が出てくる。このような教科・科目の内容に関する知識ではない能力の重要性は、今になって主張されてきたわけではない。私が小学生の頃のジャポニカ学習帳のCMソングは「天才秀才ガリ勉くん、点取り虫にはなりたくない」という歌詞だったが、これを思い出しても「知識偏重はよくない」という考えが40年以上前からあったことが分かる。推薦入試やAO入試に集団面接・集団討論が取り入れられていることも「ペーパーテストでは測定できない能力」を重視したためだったように思われる。
 「議論する力」も新しい能力とは思えない。加藤公明先生は討論にもとづく日本史授業を実践して来られた[https://www.jstage.jst.go.jp/article/socialstudies/1996/74/1996_6/_pdf/-char/ja]。ベネッセのサイトで紹介されているモンゴル帝国の授業[https://www.benesse.jp/kosodate/201608/20160816-2.html]は、NHKのEテレ「わくわく授業」で2006年に放送されたものであり(記録は、岩波ブックレット『世界史なんていらない?』と、明治図書『中学・高校の優れた社会科授業の条件』に掲載されている)、新しい授業ではない。グループワークについて故鳥越泰彦先生とお話ししたのも、2007年の日本西洋史学界のことであり、(平成30年に発表された指導要領から数えて)2つ前の学習指導要領の時期に当たる。このことは岡崎勝氏も、アクティブラーニングや主体的・対話的で深い学びという言葉は「以前から教育界で唱えていた「自ら考え、自ら学ぶ」という呪文を言い換えただけ」と指摘している(『現代思想』2017年4月号・特集「教育は誰のものか」84㌻)。

 なぜこうした「今さら」の話しになるのだろうか。以下、本書からの引用である。
 「私たちが「新しい能力」であるかのように議論しているものは、実はどんなコンテクストでも大なり小なり求められる陳腐な、ある意味最初からわかりきった能力にすぎないものなのである。そのように考えてくると、職業に求められる能力の質が大きく変化した結果としてこれらの能力が注目されるようになったと考えるよりは、全体として能力観が転換しているとの根拠のない前提のうえで、「ではどんな新しい能力が必要か」を無理やりひねり出そうとした結果、最大公約数的な陳腐な能力を、あたかも新しいものであるかのように、あるいはあたかも新しい時代に対応する能力であるかのように看板だけかけ替えて、その場を丸くおさめるといったことを繰り返してきたものなのだ、と考えたほうが、私個人は非常にすっきりする。」( p.46)

 昔から重視されてきた能力が、今になって「"新しい"能力」と強調されるようになったのは「いま人々が渇望しているのは、「新しい能力を求めなければいけない」という議論それ自体である。」(24㌻)からだ。このため、「新しい能力」を後づけで探さなくてはいけなくなったということだろう。

 たとえば、「おとなしい、議論もできないような性格では、高校を出てから社会や仕事に十分適応できない」という言説があるとしよう。本書の第2章「能力を測る」を読んで考えたことは、議論する力はどうやれば測定できるのかという疑問である。なかなか難しいことは容易に想像がつくが、測定が困難であるにもかかわらず声高に能力の必要性が叫ばれる理由は、指摘されているように「ダブルスタンダード」である。

 本書を貫くキーワードは、「メリトクラシー(能力主義)の再帰性」である。能力は社会的に構成され、常に問い直され批判される性質を持っている。ということは、「新しい能力」は常に求められ、そして求めること自体が自己目的化していくことになるが、「まえがき」で筆者は、何が何でも変えなければならないという強固な「意志」の存在に触れている。その意志は一体どこから生まれてきたのだろうか。
 「時間内に仕事を終えられない、生産性の低い人に残業代という補助金を出すのも一般論としておかしい」「日本の正社員は世界一守られている労働者になった。だから非正規が増えた」「正社員をなくせばいい」といった発言が、教育改革推進協議会という団体の中心メンバーから出てきている。私が「グループワークから逃げる人は社会でもやっていけない」という言説に危惧を感じるのは、この言説が生産性で人間の価値を決めてしまおうという風潮に通じるからだ。「グループワークから逃げる人は社会でもやっていけない」と、誰がどういう基準で調査した結果かはわからないが、私が「教育改革」という言葉に不安を覚えるのは、この点にあるのかもしれない。この不安を解消してもらうため、議論する力の育成やICT環境の充実の前に家庭程の経済状況や居住地域の差異にもとづく学業格差(例えば英語民間試験の受験機会の不平等)を解消してもらいたい。夏休みにスイスの牧場で生活体験をする高校生と、明日学校に持っていく弁当を心配しなければならない高校生が、同じ土俵で「議論する能力」や「高校における活動実績」を比較されてしまうことに私はどうしても違和感を拭えない。

 ある調査によれば、「高校生の半数の資質・能力は大学生になってもあまり変化しない 」そうである。とすれば、確かに「高校時代の授業でグループワークや議論が出来なかった高校生は、社会でやっていけない」という言説は、ある程度の説得力がありそうだ。しかし本書の第2章で述べられているように「グループワークや議論する力」の測定は困難である。にもかかわらず、なぜそれが「将来必要な力」で「出来ない人は将来社会でやっていけない」と言い切れるのだろうか。それに調査結果はあくまで「高校生の半数」であり、また文部科学省による平成29年度学校基本調査(確定値)によれば、「大学(学部)進学率(過年度卒含む)は52.6%(前年度より0.6ポイント上昇)で過去最高」となっている(現役は49.6%)。高校を卒業した生徒の半分は大学には行かないという実態を踏まえれば、大学進学者だけを対象にした調査がさほど重要であるとは思えない。

 小針誠著『アクティブラーニング~学校教育の理想と現実』(講談社現代新書)に中でも、大学におけるアクティブラーニングの導入には経済界からの強い要請があったこと(29㌻~)、これまでもアクティブラーニング型授業は実施されてきたこと(第2章)が述べられている。教育学と社会学、視点は異なるが実に興味深い。


暴走する能力主義 (ちくま新書)

暴走する能力主義 (ちくま新書)

  • 作者: 中村 高康
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2018/06/06
  • メディア: 新書



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「近代化と私たち」の授業 [授業研究・分析]

 新しい学習指導要領によれば、新科目「歴史総合」は①歴史の扉、②近代化と私たち、③国際秩序の変化や大衆化と私たち、④グローバル化と私たち、の4部構成となっている。「近代化」「大衆化」「グローバル化」といった「近現代の歴史の変化」の内容や意義・特色などを理解したうえで、「調べまとめる技能」を身につけ、「多面的・多角的に考察」し、さらに「考察、構想したことを効果的に説明したり、それらを基に議論したりする力」や「よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に追究、解決しようとする態度」まで身につけさせなければならない。何とも盛りだくさんの内容である。

 4つの大項目のうち「近代化と私たち」は、(1) 近代化への問い、(2) 結び付く世界と日本の開国、 (3) 国民国家と明治維新、(4) 近代化と現代的な諸課題の4つの中項目から構成されている。4つの中項目のうち「近代化への問い」では、「交通と貿易、産業と人口、権利意識と政治参加や国民の義務、学校教育、労働と家族、移民などに関する資料を活用し、課題を追究したり解決したりする活動を通して、次の事項を身に付けることができるよう指導する。」となっており、同解説では「交通と貿易」、「産業と人口」、「権利意識と政治参加や国民の義務」、「学校教育」、「労働と家族」、「移民」それぞれについて活用が想定される資料が例示されている。たとえば「交通と貿易を取り上げた場合は、例えば、教師が、貿易額や貿易品目の推移を示す資料、鉄道の敷設距離の推移や航路の拡大と所要日数の推移を示す資料、工場数の推移を示す資料などを提示し、鉄道や蒸気船の急速な普及の理由、貿易によって豊かになった国々の特徴など、生徒が歴史的な見方・考え方を働かせて資料を読み解くことができるように指導を工夫する。」とあるのだが、こうした資料を教師が個人で集めることは不可能であろう。少なくとも学習指導要領解説に例示してある資料は、教科書や資料集などに例示してもらわないと困る。山口県の藤村泰夫先生は、「近代化と私たち」の「結び付く世界と日本の開国」で「綿織物から考える日本と世界」というテーマの授業を提案されているが(平成30年7月開催の高大連携歴史教育研究会・第4回大会)、ほとんどの資料集に掲載されている貿易グラフを除いても、かなり多くの資料を準備されている。

 藤村先生の授業案で面白かったのは、同じく「近代化と私たち」の第一時間目「近代化への問い」の授業プランである。「私たちの生活の中に見る近代化」をテーマに、
起床から就寝までの1日の生活の中で、近代以降生まれたものを前近代の生活と比較しながら考えさせるという授業である。具体的には、目覚まし時計による起床、朝食、衣服、通勤と通学手段、労働と学校、スポーツとクラブ、余暇、近代家族などである。変化を明確にするためには、変わる前と後両方を比べなければならない。あまりに昔と比較しても意味はないので、東京エレクトロンのCM(百年後の日本)をネタに「100年前にはなかったもの」くらいの比較が妥当ではないだろうか。

 藤村先生の「私たちの生活の中に見る近代化」の授業プランを見ていてふと思ったことは、近代になって時間に対する考え方が変化したのではないかということ。これは現行の世界史Aの産業革命あたりでもやれそうだ。

 工業化で機械時計が普及し、時刻が共有化されると、職住分離にともない労働者は工場へ働きに出るため就業時間を守り、公共交通機関も時間通りの運行を求められる。一方で、遅刻の元凶となる酒が敵視され、wikipediaによればイギリスの大手旅行代理店トーマス・クック・グループの「設立者のトーマス・クックはプロテスタントの一派であるバプティスト派の伝道師で、禁酒運動に打ち込んでいた。1841年に開催された禁酒運動の大会に、信徒を数多く送り込むため、列車の切符の一括手配を考えだし、当時高価だった鉄道を割安料金で乗れるようにした。これをきっかけに一般の団体旅行を扱い始めた。」と。時計メーカーのセイコーによるウェブサイトにある、「機械式時計の発達」「初期資本主義の成立」も織り交ぜて使えそうだ。
https://museum.seiko.co.jp/knowledge/relation/relation_03/index.html#addOtherPageAnc03

世界史Aのセンター試験にも使えそうな問題がある。

19世紀後半~20世紀初頭の西欧の家庭や家族について述べた文として最も適当なものを、次の ①~④のうちから一つ選べ。
 ① 庶民階級の子供は、学校教育の対象とはされず、読み書きは専ら家庭で教えられていた。
 ② 中産階級の家庭では、夫婦共働きが理想の家庭と考えられるようになった。
 ③ 家庭は、消費と精神的なやすらぎの場から、生産と消費の場へと変化した。
 ④ 中産階級の家庭では、結婚後の女性が家事や育児に専念する傾向が強まった。
                   (1998年度 本試験 世界史A 第2問C )

次の絵aは、1851年にヨーロッパのある都市で開かれた催しの会場を、絵bは、そこに集まった見物客を描いたものである。これらの絵について述べた文として正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① この催しには、鉄道を利用してやってきた見物客も多かった。
② この催しには、自動車を利用してやってきた見物客も多かった。
③ この催しは、パリで開かれた第一回万国博覧会である。
④ この催しは、ベルリンで開かれた第一回万国博覧会である。
(1998年度 本試験 世界史A 第2問C )

鉄道旅行について述べた次の文の空欄( ア )と( イ )に入れる都市の名と行事の名の組合せとして正しいものを、以下の①~④のうちから一つ選べ。
トマス=クックは、1840年代から鉄道を利用した団体旅行を企画・実施し始め、1851年に( ア )で開催された( イ )にも格安で団体旅行客を送り込んだ。
①ア―パ リ      イ―第1回万国博覧会
②ア―パ リ      イ―第2回万国博覧会
③ア―ロンドン     イ―第1回万国博覧会
④ア―ロンドン     イ―第2回万国博覧会
(2004年度 本試験 世界史A 第2問 A )

 ....という話しをMLで行っていたところ、近代における余暇~レジャーの変化をテーマに、した授業を教えてもらった。著者は愛知県の磯谷正行先生で、産業革命以降、民衆が「規律化(勤勉化)」されて資本家の提供する娯楽を享受するようになった、という変化を授業化したものである。近代以前の娯楽は野蛮であり、労働生産性にマイナスに作用していたのである。トーマス・クックと禁酒法の関係も、この視点から見ると大変興味深い。磯谷先生の授業プランは『歴史と地理』447号(1992年11月)に掲載されている。なお磯谷先生のこの授業は、1992年に開催された全国社会科教育学界(全社学:広島大学系)と日本社会科教育学会(日社学:筑波大系)の合同研究大会で発表されたものである。昔は両学会合同の研究大会などやっていたのか....とちょっとビックリ。

 山川出版社の教科書『新世界史』第Ⅳ部「近代」の冒頭の解説で、近代とは、「現在に近い時代」ではなく、「まとまった一つの時代」であると指摘されている。近代は人々が「進歩」を追求し、技術革新や国民国家、自由主義を実現しようとした時代である、と。その結果さまざまな諸問題もひきおこしたのであるが、この前書きの最後は含蓄に富んでおり、「歴史総合」全体に関わるような提言だと思う。筆者はおそらく小田中直樹先生であろう。

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吉田 裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書) [歴史関係の本(小説以外)]

 アジア・太平洋戦争(この呼称については様々な意見があるが)において、日本軍の兵士が置かれた生活環境から戦争の実態を検証した本(著者の言葉を借りれば、「兵士の目線」を重視し、「兵士の立ち位置」から「死の現場」を再構成する)。内容が極めて興味深く、表現的にも読みやすい。これまでも日本軍の兵士が置かれた厳しい状況については様々な機会に見聞してきたが、この本が便利なのは証言や記録を出典を明らかにした上で一冊にまとめた点にある。さらに、戦場における歯科医療や海没死、装備の劣化など新たな視点を提供してくれた点もあげておきたい。

 以下、本書で興味深かった点。
・日中戦争開戦から終戦まで、満洲を除く中国本土で死亡した日本人の数は、46万5700人
・1941年の開戦から、アジア・太平洋戦争で亡くなった日本人の数は、約310万人
軍人・軍属      約230万人(うち朝鮮半島・台湾出身者 5万人)
   在外一般邦人     約 30万人
   国内で死亡した民間人 約 50万人
・戦没者の多くは、1944年以降に亡くなったと推定される。9割?
・戦死した軍人・軍属のうち餓死者が多い。 藤原彰61%、秦郁彦37%
したがって、戦争末期において、兵の多くは栄養失調の状態であった。
・戦死軍人・軍属のうち海没死は35万8000人と多い。
・米軍の潜水艦作戦は日本に比べて大きな戦果をあげた。
  日本の場合、潜水艦127隻の損失に対して撃沈した艦船は184隻(90万トン)
  これに対して米軍は、潜水艦52隻の損失に対して1314隻(500万2000トン)を撃沈
・艦船が不足していた日本は、恒常的に過積載状態だった。
・日本の輸送船は低速の商船が多く、さらに敵潜水艦の攻撃を避けるため
 ジグザグ航行を行ったため、一層低速となった。
・圧抵傷と水中爆傷
・体当たり攻撃を行う特攻では、機体に装着した爆弾の破壊力は通常より小さくなる。
・硫黄島守備隊の場合、戦死は3割で残り7割のうち自殺が6割くらい。
・戦争末期には兵士の体格が低下し、サイズが小さくて倉庫に眠っていた昔の軍服が使えるようになった。
・当時は一般に販売されていた覚醒剤のヒロポンが、戦場でも多用された。
・物資不足で、鮫皮を使った軍靴が支給された。サメの皮は水を透す。
・軍靴は糸が切れやすい。
・鉄の不足で飯盒も支給されなくなり、孟宗竹を利用した代用飯盒や代用水筒が支給された。
・重い個人装備。インパール作戦のときは40キロくらい。重くて歩けない。


 旧日本軍における飯盒の重要性が説明されていたが、なるほどという感じであった。確かに、第2次世界大戦を題材にした外国映画をみていると、食堂に集まって一列に並び、自分のトレイに入れてもらうシーンをよくみかける。こうした食事が提供できない場合に非常食として携行するレーションも、米軍は充実していたようだ。

第二次大戦中の米軍戦闘糧食
http://10.pro.tok2.com/~phototec/ww2.htm

 一方で、兵士一人一人が飯盒を携行するような自給自足的な補給方針も、様々な問題を生じたと思われる(本書96~98㌻)。



日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)

日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)

  • 作者: 吉田 裕
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/12/20
  • メディア: 新書



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佐藤卓己『キングの時代』(岩波書店) [歴史関係の本(小説以外)]

 山川の『歴史と地理』(2017年5月号、No.704)で目にした第一次世界大戦の授業のレポートを読み、本村靖二『第一次世界大戦』(ちくま新書)を購入した[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2017-06-29]。同書のまえがきでは、第一次世界大戦に対する捉え方が日本と西欧諸国ではかなり異なることが指摘されている。この指摘には既視感を感じていたものの、なかなか思い出せずにいたのだが、ようやく見つけることができた。同じく『歴史と地理』の2003年5月号(No.564)に掲載されている木村靖二先生による「新課程版『詳説世界史』の執筆を振り返って」である。

 ....しかし、第一次世界大戦を現代の起点とするのは、それがなにもヨーロッパ近代に大きな衝撃をあたえ、大戦前との断絶をもたらしたという狭い意味からだけではない。大戦期は現代福祉国家の原点であり、帝国を一掃して国民国家モデルを国際社会の基本単位とする契機になり、さらに現代大衆文化を産みだし、アジアなどでの民族運動・独立運動を本格的に台頭させた。また国際関係の次元でみても、国際連盟という新たな国際調整機関を成立させ、ヨーロッパ一局構造からアメリカ・ソ連の三元構造への移行をうながしている。要するに、大戦期が現代世界、現代国家の基本的仕組みや枠組みをつくり出すうえで、決定的役割を果たしたことが重要なのであって、そこに注目すれば、1914年に現代への転換点を設定するのは十分根拠があると考えた。

 さらに以下のような文章が続いている。

 なお、日本史では現代の始まりを第二次世界大戦後においていて、日本史と西洋史の現代の時期区分の違いはあいかわらず続いているが、最近これに一石を投じる意欲的な研究が出された(佐藤卓己『キングの時代』岩波書店 2002年)。参考にして欲しい。

 佐藤卓己先生の『キングの時代』は400ページを超える大著で、なかなか読み進まなかったが、内容はかなり面白かった。高校の日本史では、大正から昭和初期にかけての大衆文化の項目で創刊号の表紙の写真が掲載されている雑誌『キング』だが、その内容についてはほとんど知らなかったため、「なるほど、こういう雑誌なのか」と初めて知ることができた。女性や子どもを含む大衆の講談社文化と知的エリートの岩波文化という捉え方は面白かったが、著者はこれを再検討したうえで、『キング』のメディアミックス的性格を指摘する。知識人からは攻撃されながらも、「何でもあり」なラジオ的雑誌がトーキー化することで、劇場型による大衆の動員に成功したという流れだと個人的には理解した。大衆の動員という点で思い出したのは、井野瀬久美恵先生の『大英帝国はミュージック・ホールから』(朝日選書)[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2008-04-04]。イギリスではロシア=トルコ戦争や南ア戦争を契機に、ミュージックホールで流れた歌の歌詞を通じて、本国と植民地をつなぐ「大英帝国意識」が形成されていった。娯楽を通じた劇場型による大衆動員という点で、共通点を感じる。

 内容が面白すぎて、木村先生の指摘を確認することが後回しになってしまったが、本書の冒頭で、佐藤先生は木村先生と同じような指摘をしている(第一章第二節)。第一世界大戦後に日本でも現れた大衆を「国民化」し、国民的公共圏をつくりあげていったのが『キング』という図式である(本書18ページの図)。

 ある歴史系授業の研究会で 、著者の佐藤先生とご一緒させていただいたことがある。そのときに私は自分の授業[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2017-09-23]を紹介したうえで 、「『歴史総合』の授業として考えると、戦争がテーマの授業であれば第二次世界大戦よりも第一次世界大戦をとりあげてみたい」と締めくくった。その理由は、一橋大1989年の入試問題「第一次世界大戦の前と後で、日本を取り巻く国際環境はどう変化したか」が頭にあり、「日本史でも世界史でもやれそうだ」と感じたからである。これに対して佐藤先生からは「第一次世界大戦をきっかけに世界は大きく変わったので、授業で取り上げる価値は大きい」とアドバイスを受けたのだが、出席していた日本史の先生方(高校)は、第二次世界大戦の方が適切だろうという意見が大半であった。佐藤先生からは、電気やラジオの普及率を調べると面白い情報が得られるのではないかというアドバイスをいただいたのだが、この本を読んでいればそのときもっと質問が出来たと思う。返す返すも残念だ。


『キング』の時代―国民大衆雑誌の公共性

『キング』の時代―国民大衆雑誌の公共性

  • 作者: 佐藤 卓己
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2002/09/25
  • メディア: ハードカバー



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『山川デジタル指導書 世界史』(山川出版社) [授業研究・分析]

 昨年の実教出版に続いて[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2017-11-18]、今年度は山川出版社がパワポ授業用のICT教材をリリースした。パッケージの名称は『山川デジタル指導書世界史 改訂版』で、「デジタル素材集」と「デジタル教材集」の2枚のDVD-ROMで構成されている。価格は3万8千円。「教材集」にはPDF形式の指導書が収録されているため「教科書の指導書」扱いとなり、基本的には教科書を販売している店でしか購入できない。「素材集」単体なら教科書販売店以外でも購入することが可能で、価格は2万円である。

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 2枚のうち、パワポ教材が収録されているのは「教材集」(「指導書」扱いの方)で、内容は以下の通り。
 ①教科書と指導書のPDFデータ(テキスト抽出可能)
 ②パワポ授業用スライドデータ
 ③デジタルマップ
 ④黒板投影用白地図
 山川出版社は、世界史ABそれぞれ3点計6点の世界史教科書を発行しているが、「教材集」には6点すべての指導書が収録されている。山川の指導書は6種類とも「授業実践編」と「研究編」の2冊セットであるが、「研究編」は6点とも同一なので、「授業実践編」が6点と「研究編」が収録されている。個人的には読むときには紙媒体の方が好みだが、これだけの分量がROM1枚に入っていることを思えば、持ち運びにはデジタルメディアの方が便利なのは言うまでも無い。
 大いに注目だったのがパワポ授業用のスライドデータ。実教よりも後発という点で「王者山川だけに、もっとすごいものを出してくるに違いない」と期待したのだが、実教とはコンセプトが全く異なるものを出してきた。実教版のパワポ教材は、基本的に「板書代わり」である。クリックすると重要事項がアニメーションで表示されていくもので、同内容の書き込みプリント(ワード形式)や一問一答、テスト問題、教科書本文まで用意されており、世界史の授業を初めて担当するという教員も、このスライドに沿って進めていけばだいたい授業の形になる。しかし、そのままだと一方的な説明による講義がメインとなる可能性が高く、工夫が必要である。一方、山川のパワポスライドは、より理解を深めるための説明用であり、テキストが主体の実教版とは異なり、地図や図版が大きなウェイトを占めている。このため教師の語り(説明)が重要な役割を果たすことになり、また生徒に対する問いかけも山川版の方が行いやすい。大まかなイメージとしては実教版よりも経験を積んだ教員向けという気がする。
 「素材集」は、「教材集」のパワーアップキットと考えてよい。「教材集」収録のパワポスライドのデータに、自分でつくったスライドを挿入したり既存のスライドをカスタマイズするときに活用できる素材集である。収録されている素材は、前述の山川出版社が発行している世界史教科書6冊に収録されている図版や表、グラフなどの画像データで、自作のプリントやパワポスライドに挿入できる。画像データは、教科書別、種類別(地図・年表・図・表・グラフ・史料・系図の7種:複数選択可)で関連するデータを検索してPCに保存して使用する。例えば、「すべての教科書」から「アヘン戦争」をキーワードに「すべての種類の画像データ」を検索すると、「三角貿易の概念図」や「アヘンの流入量と銀の流出量の折れ線グラフ」など22種のデータがヒットする。使いたい素材にチェックを入れて、「選択した画像をパソコンに保存」をクリックすれば、任意の場所に画像を保存できる。ただし、同じデータや類似のデータが異なる教科書に掲載されていることもあるため、実際の種類は22よりも少ない。また、肖像画をはじめとする絵画は収録されていない(ウィキメディアをはじめとするフリー素材がネット上で入手できるからであろう)。個人的な感想だが、「素材集」は、かつて株式会社ゼータ(https://www.zeta.co.jp/)が発売していたPCソフト「プリントメーカー」とほぼ同じである。余談だが「プリントメーカー」は収録データに間違いが多く、なかなか困ったソフトであった。指摘するたびに修正はしてくれたが、何度も間違いを指摘したお礼なのか、私の似顔絵画像データを3種類つくってくれた。
 最後に地図ソフトについて触れておく。「教材集」収録データのうち「黒板投影用白地図」は、黒地に白ラインの海岸線がはいった画像データで、国境線がはいっているものとそうでないものが用意されており、西アジアや東アジアなど地域ごとの地図も用意されている。黒板に投影して教師が黄色のチョークでデータを記入していくことができそうだが、活躍する場面はあまりないようにも思われる。また山川版「デジタルマップ」については、特筆すべき点はない。私の使用方法が良くないのか、画面上で線を引こうと思ったら二点間を結ぶ直線になってしまう。第一学習社の「世界史図表DVD-ROM」収録のデジタルマップも線をひくことはできないが、浜島書店の「デジタルアカデミア世界史」はフリーハンドで自在に線を引くことが可能である。黒板に投影すればチョークで線を入れることは可能だが、黒板ではなく大型テレビに投影している場合はチョークを使えないため、やはりアプリ上で線が引ける方が便利だろう。私の場合、世界史のICT教材として活用する機会が最も多いのは、「デジタルアカデミア世界史」になりそうだ。
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小針誠『アクティブラーニング 学校教育の理想と現実』(講談社現代新書) [授業研究・分析]

 アクティブラーニングを教育史や教育行政の立場から分析した好著。これまで読んできたいわば実践本とは異なる視点から書かれているため、大変面白く読むことができた。引用される資料が多く、かなり検証されているなという印象。
 まず著者は、アクティブラーニングをめぐる五つの幻想を提示する。これらを検証する中で様々な問題点が指摘されてたが、特に気になったのは、子どもの家庭状況(貧困など)によってはなじめない子どもが出てくるのではないかという指摘。基礎知識がある児童生徒は積極的な参加が期待できるが、そうではない児童生徒はどうなるのか。先日、英語の新テストに使われる民間の外部検定が発表されたが、中には受験料が2万円を超えるものもあった。新テストの採点はベネッセなど民間業者が行うことから、その受験料も気になる。おそらく検定料や受験料の調整はこれから行われるだろうが、しっかりと対応していただきたい。「子どもの貧困」など経済的な格差が、教育格差につながりはしないか。
 興味深かったのが、第二章「近代教育史のアクティブラーニング」で、大正時代に成城小学校で行われたドルトン・プランなどの実際が紹介されている。ドルトン・プランについては、同じく講談社現代新書の『教育の力』など苫野一徳氏の著作でも紹介されているが、実際どのように運用されてどのような問題点があったのかというまとめはとてもわかりやすかった。こうした過去の先行例を見ておくのも、無駄ではあるまい。
 現実問題としていま私が最も気になっているのが、第一章で指摘されている「ゆとり教育」から「ふとり教育」へ移行した結果、授業時間の確保をどうするかという点である。地理歴史科の新科目「世界史探求」は、現行の「世界史B」の4単位から標準3単位となった。「歴史総合」では、日本史関係も世界史関係も両方扱うが、これは2単位である。ディスカッションやグループワーク、探求活動などを行うことを想定すると、教科書の内容は精選されるだろうが、2単位での運用は破綻するような気がしてならない。現在多くの学校では、世界史AとBの時間を合わせて、Bの内容を完結させている例が多いと思うが、カリキュラム・マネジメントの名の下に運用は現場に丸投げされ、「戦時下の国民精神総動員のスローガン「足りぬ足りぬは工夫が足りぬ」を思い出す」(64㌻)という状況を危惧している。
 今を去ること10年以上前、新潟で行われた日本西洋史学会で故鳥越泰彦先生は、「考えさせる」という独特な使役形に対する違和感を表明しておられた。このことは、『新しい世界史教育へ』に収録されている「高校世界史教育からの発信」でも述べられているが、主体的であることを強制するというのは確かに奇妙なことである。本書で引用されている調査結果によれば、学校段階があがるにつれてアクティブラーニングに対する意欲は低下するという(20㌻)。先日、大学に進学した教え子が尋ねてきた折りに、大学での活動を色々尋ねてみた。『地域から考える世界史』の中で、私が紹介している女性である。彼女の話を総合すれば、有名大学であってもそうした傾向は見られるようだ。



アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書)

アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書)

  • 作者: 小針 誠
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/03/15
  • メディア: 新書



新しい世界史教育へ

新しい世界史教育へ

  • 作者: 鳥越 泰彦
  • 出版社/メーカー: 飯田共同印刷
  • 発売日: 2015/03/26
  • メディア: 単行本



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「世界史」をどう語るか~『思想』3月号(岩波書店)より [歴史関係の本(小説以外)]

 岩波書店の『思想』3月号(No.1127)の特集は「<世界史>をいかに語るか-グローバル時代の歴史像-」。『思想』ではかつて2002年5月号でグローバル・ヒストリーの特集が組まれたが、そのときの特集は難解で、正直自分にはあまり理解できなかった。

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 今号の特集では、小川幸司・成田龍一・長谷川貴彦の3名の先生による鼎談「「世界史」をどう語るか」が注目。小川先生は、大著『世界史との対話』(地歴社)の著者であり、私が尊敬する先生の一人である。この鼎談で印象に残ったのは2点で、1点目は成田先生による『世界史との対話』の解題。『世界史との対話』は何度となく読んできた本だが、成田先生の解題を読み、なるほどこういう読み方もあるのかと興味深く拝読。そしてもう1点は、小川先生の「グローバル・ヒストリーのように歴史像が大きくなればなるほど、読み手は受け身となり、歴史と自己が離れてしまう逆説がおこる」という指摘。
 グローバル・ヒストリーについて、「世界の歴史を(ヨーロッパ中心史観に基づかないで)、国民国家の歴史の寄木細工として見るのではなく、ローカル→ナショナル→リージョナル→グローバルと視点を大きくして、特に人・モノ・金・情報・病気など諸地域を結びつける紐帯に注目していこうとする見方」というのが私の理解であった。例えば茶や砂糖といったモノを題材とすることで、生徒は「身近なモノにも歴史あり」と実感できると考えてきた(私がこうしたイメージを持ったのは、大阪大学出版会から出ている『歴史学のフロンティア』、特に第四章「イギリス帝国とヘゲモニー」を読んでからだと思う→『イギリス帝国の歴史』中公新書)。世界史の教科書を見ても、国家の枠組みに拘りすぎるべきではないという考えは一定のコンセンサスを得ていると思う(例えば東京書籍の『世界史A』世A301にある特集「国家と民族」など)。
 その一方でグローバル・ヒストリー全体に感じてきたのは、いいようのない不安定さでもある。帰属意識の危機、とでも言おうか、自分という主体と切り結ぶことができない大きな話は、相手の心に響かないのでは?という不安感である。ではどうすれば、場所も時代も違う話を自分の問題として受け止めることができるのか。そのヒントの一つは、成田先生が最後で指摘している、「いのち」という視点かもしれない。例えば今年の東大世界史第一問でも、「では日本の女性参政権はどうだったのか?君たちの祖母、曾祖母の時代は?」という問いにつなげれば、十分グローバル・ヒストリーたり得る。これから世界史を語るには、「今、ここから」という視点が不可欠だと思われる。「歴史総合」が成功するか否かは、この視点にあるのではないだろうか。
 先日、鹿児島大学文系後期(2016年度)の小論文の添削指導を行っていて、興味深い文章に出会った。課題文は入江 昭氏の『歴史家が見る現代世界』(講談社、2014)で、国際関係を国家を単位で捉えることに警鐘を鳴らし、これまで国同士の対立を助長する傾向があったナショナリズムを、人類共通の諸問題の解決に積極的に関わり、結びつけるようなナショナリズムに転換していくべきことを述べている。明らかにグローバル・ヒストリーの視点を意識した文章で、入江昭氏については本号でも岡本充弘氏が「グローバル・ヒストリーの可能性と問題点――大きな歴史のあり方」の中で触れているが、(32㌻)、岡本氏が本号の別の箇所(「思想の言葉」)で、ナショナリズムのマイナス面を強調してるのは興味深い(入江昭氏については、秋田茂先生も前述の「イギリス帝国とヘゲモニー」で触れている)。
 岡本氏の論考や、岸本美緒氏の「グローバル・ヒストリー論と「カリフォルニア学派」」を読んで感じるのは、グローバル・ヒストリーに対し「反対ではないが、少し整理が必要では」という問題意識であった。高校で世界史を担当する我々も、グローバル・ヒストリー礼賛に終わらず、ツールとして使うまでの工夫が必要なのかもしれない。

 私が書いた文が収録されている『地域から考える世界史』(勉誠出版)との関連では、小川先生が紹介している「下からの」グローバル・ヒストリーの可能性(リン・ハントによる)が興味深い。とはいえ、ローカルとグローバルのつながりといえば聞こえはいいが、一方で他の地域の人にとっては重要な問題とはならないかもしれない。このことに関しては、成田先生が述べている「メタ通史」の考えが参考になる。

 歴史学の成果を歴史教育にどう生かしていくのか。かつて『世界史をどう教えるか』(山川出版社)という本を手の取ったが[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2008-06-15]、私の関心からは少し外れていた。言い換えれば、歴史学と歴史教育はどのような関係にあるべきなのか、というのが私の関心事の一つであり、この点でもこの鼎談は興味深かった。

 先日恩師の退官記念最終講義に出席してきたが、次のように語っていた。
「歴史学には、英国史も日本史もない。あるのは歴史だけだ。ある時期から私はそう語るようになりました。歴史学は、史料の解釈学です。なるほど、史料には地域性があります。しかし、ほとんどのものは、近代に至るまで現代的意味での国境がないのです。歴史家は、とくに海外の歴史を専門とする歴史家は、「帰属意識の危機」を胸に秘めつつ、国境を越えたフラタニティ(兄弟団)を作り、せっかく生き残ってくれた史料を、「死者の声」を、誰もが接近できる共有の「世界遺産」として、必ずしも同じ関係でというわけではないが、共同作業的に解釈を行い、いろいろな言葉で、いろいろな場所で物語っていくべきでしょう。これが私の考える「グローバル・ヒストリー」です。「グローバル・ヒストリー」は、方法論の問題ではありません。それは歴史学者の仕事です。しかし歴史家にとっては、それは態度、あるいは立ち位置、あるいは「考察様式」の問題なのです。」
「史料を残した過去の人々、亡くなった人々は、われわれの解釈を批判し、抗弁できない。だから歴史学は、全身全霊をこめて、自分と過去と現在を疑う批判の徒でなければならないのです。しかし、歴史学は同時に、主知主義的で、観察者の内在的な、心からの「問題」関心を無視した、研究史上のお仕着せの問題意識を解決することも使命としています。歴史学者とはそういうものです。それは否定しない。しかし、わたしは、学界という制度の、いわば研究常識と権威にとらわれず、「自分の頭と足で、問題を発掘する」歴史家(Antiquary)に憧れています。そして残りの人生をかけて、そういう歴史家になれたら本望です。」

 歴史教育に携わる者は、歴史学者による歴史学の成果を尊重しつつ、恩師の言う「歴史家」たるべきなのかもしれない。最終講義では「多様な過去の「世界」に対峙できない者は、未来を見ることはできない」というミヒャエル・エンデの『モモ』の一節が紹介されたが、「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります」というドイツの故ヴァイツゼッカー大統領の有名な演説を思い出す。学部生の頃、教養部のT先生の授業で講読した演説(今年の大阪大学の問題(文学部)で使用された演説は、このとき(1985年5月8日)のものではない)。「過去と真摯に向き合えない人は、現在も未来も見通すことができない、それはなぜ?」という問いに対する答えを、生徒たちがそれぞれに見つけることが出来るような授業、私にはそれができるのだろうか。

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今年の九州大の問題 [大学受験]

[1]
 偶像崇拝と多神教を否定し唯一神を信仰する一神教の成立は、世界史上でもっとも重要な出来事の一つといえる。中東・西アジア地域で誕生した三つの一神教はそれぞれ聖典をもち、いずれも迫害や苦難の中から自己形成を遂げて成立した。その後、強い求心力を持つこれら三つの一神教は人類の歴史のなかで大きな役割を演じ、現在これらの信徒の合計は、世界人口の半数以上を占めるに至っている。これら一神教の成り立ちと性格について適切に理解することは、現代に生きる我々にとって必須の課題であるといえよう。
 以上を踏まえ、これら三つの一神教の成立過程について、以下のキーワードをすべて用いて説明せよ。説明にあたっては、各宗教が既存社会の圧力の中でどのように自己形成を遂げたか、あとから登場した宗教が先行する宗教の聖典をどのように位置づけていたか、に留意すること。説明は600字以内とし、使用したキーワードには波線を引くこと。キーワードは何度用いてもよい。
【キーワード】
 ヒジュラ  モーセ  イスラエル国  ピラト  パリサイ派  啓典の民 ダヴィデ  隣人愛


 問題の要求は、ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教について以下の3点。
 ①成立過程   
 ②既存社会の圧力の中でどのように自己形成を遂げたか
 ③既存社会の圧力の中でどのように自己形成を遂げたか
600字なので、200字・200字・200字の構成プランで進めたい。

【ユダヤ教】
モーセ・・・出エジプト→唯一神ヤハウェによる十戒
パレスチナにヘブライ王国を形成→ダヴィデ王の繁栄
王国分裂→イスラエル国の滅亡→バビロン捕囚
民族的苦難の中でユダヤ教が成立  選民主義と律法主義 「旧約聖書」
【キリスト教】
ナザレのイエス・・・ユダヤ教の律法主義を批判→普遍的な神の愛と隣人愛を説く
ユダヤ教パリサイ派による批判→ローマ帝国の総督ピラトにより処刑→唯一神の子イエスの復活の信仰→使徒による布教→ローマ帝国による迫害→公認と国教化 「新約聖書」
【イスラーム教】
メッカの商人ムハンマド・・・ユダヤ教・キリスト教の影響を受け唯一神アッラーに帰依するイスラーム教を創始→メッカの支配層から迫害→ヒジュラ→メッカ回復
ムハンマドの死後、正統カリフ時代にイスラーム教は拡大・・・啓典の民
         
【私の解答例】
モーセに率いられてエジプトを脱出したヘブライ人は、唯一神ヤハウェと契約を結び、パレスチナにヘブライ王国をたてた。ダヴィデ、ソロモン王の時期に全盛期を迎えたものの、王国は分裂し、このうちユダ王国は前6世紀に新バビロニア王国に滅ぼされ、バビロン捕囚が起こった。解放後パレスチナに戻ったヘブライ人は選民思想と律法主義を特色とし、「旧約聖書」を聖典とするユダヤ教を形成した。後1世紀、ローマ帝国支配下のパレスチナで、ユダヤ教の律法主義を批判したのがイエスである。普遍的な神の愛と隣人愛を説いた彼は、メシアとみなされたものの、律法を重視するパリサイ派の反感を買い、総督ピラトにより処刑された。しかし唯一神の子イエスの復活を信じる人々により、「旧約聖書」に加えて「新約聖書」を聖典とするキリスト教が形成され、ローマ帝国領に広がった。当初は迫害されたが4世紀初めに公認され、さらに帝国の国教となった。7世紀、アラビア半島のメッカに生まれたムハンマドは、ユダヤ教・キリスト教の影響を受けて、唯一神アッラーへの絶対的帰依を説くイスラーム教を創始した。迫害を受けた彼は、622年にメディナへヒジュラを行い、宗教共同体を形成した。イスラーム教は、「旧約聖書」「新約聖書」も「コーラン」に先んじた預言の書とし、両教徒は「啓典の民」として一定の条件の下、信仰が認められた。

 ユダヤ教のヤハウェ、イエスの父、イスラーム教のアッラーはいずれも同一であることは知っておいた方がよい。元国連事務総長のブトロス=ガーリ氏(任1992-96)はエジプト出身でキリスト教徒(コプト正教会)であるが、母語はアラビア語であり、自らの神を呼ぶときには「アッラー」の呼称を用いた。彼の名「ブトロス」は、十二使徒の一人であるペトロのことである。


 今年の九大世界史は[1]よりも[2]の方が興味深かった。イングランド~イギリス国王の紋章を使った問題である。『週刊朝日百科 世界の歴史』で森護さんによる英国王の紋章の解説を読んで以来紋章(the coat of arms)に興味を持ち、20年くらい前から百年戦争の授業で紋章を使っている[http://www005.upp.so-net.ne.jp/zep/sekaisi/jyugyou/monsyou.html]。3年ほど前には、NHK「ファミリーヒストリー」のプロデューサーという方から「イギリス東部のNorwich(ノリッジ)という地域のイングロットINGLOTT家の紋章を解読して欲しい」という依頼があった。番組を見ていないが、いったい誰のファミリーヒストリーだったのだろう。

[2]の問1
 西欧では、おおよそ12世紀を通じて次第に紋章が確立し、その後現在に至るまで、王家をはじめとする家系や団体等において使用され続けている。資料1の図像(リチャード1世、ヘンリー4世、ジェームズ1世、ジョージ1世、ヴィクトリア女王のそれぞれの紋章)を解説しながら、それぞれの王の系譜、統治の意識について、260字以内で述べなさい。

この問題に対する各予備校の解答例、私の評価
 1位:代ゼミ
 2位:駿台予備校
 3位:河合塾
 河合塾の解答例からは「統治の意識」が読み取れないので、最下位。代ゼミを1位とした理由は、
 ①アイルランド王の紋章について、ジェームズ1世とジョージ1世の違いに触れている
 ②ヴィクトリア女王の紋章に対する説明が、駿台よりも明確である
の2点による。

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今年の東大の問題 [大学受験]

【第1問】  近現代の社会が直面した大きな課題は、性別による差異や差別をどうとらえるかであった。18世紀以降、欧米を中心に啓蒙思想が広がり、国民主権を基礎とする国家の形成が求められたが、女性は参政権を付与されず、政治から排除された。学問や芸術、社会活動など、女性が社会で活躍する事例も多かったが、家庭内や賃労働の現場では、性別による差別は残存し、強まることもあった。  このような状況の中で、19世紀を通じて高まりを見せたのが、女性参政権獲得運動である。男性の普通選挙要求とも並行して進められたこの運動が成果をあげたのは、19世紀末以降であった。国や地域によって時期は異なっていたが、ニュージーランドやオーストラリアでは19世紀末から20世紀初頭に、フランスや日本では第二次世界大戦末期以降に女性参政権が認められた。とはいえ、参政権獲得によって、女性の権利や地位の平等が実現したわけではなかった。その後、20世紀後半には、根強い社会的差別や抑圧からの解放を目指す運動が繰り広げられていくことになる。  以上のことを踏まえ、19~20世紀の男性中心の社会の中で活躍した女性について、また女性参政権獲得の歩みや女性解放運動について、具体的に記述しなさい。解答は、解答欄(イ)に20行以内で記述し、必ず次の8つの語句を一度は用いて、その語句に下線を付しなさい。
キュリー(マリー)  産業革命  女性差別撤廃条約(1979)  人権宣言  総力戦  第4次選挙法改正(1918)  ナイティンゲール フェミニズム




 要求は「19~20世紀の男性中心の社会の中で活躍した女性について」と「女性参政権獲得の歩みや女性解放運動について」具体的に記述すること。中谷臣先生の『世界史論述練習帳』にあるように、「要求されたことは目一杯書く、それ以外は書かない」。したがって、要求へ指定語句を(時には力業ででも)結びつけていく。
 駿台の解答例のように「人権宣言」の語句を肯定的に使うことには疑問を感じる。世界史Aの教科書にも載っているグージュの活動を見れば明らか。裏技的だが、代ゼミの解答例のように「世界人権宣言に男女の同権が盛り込まれたが、実態として女性の社会進出は途上であった」としたほうがずっといい。リード文に「学問や芸術、社会活動など、女性が社会で活躍する事例も多かったが、家庭内や賃労働の現場では、性別による差別は残存し、強まることもあった」とあることから、ナイティンゲールやキュリー夫人も、肯定的には使わなかった。『世界史論述練習帳』にあるように、「課題に合致するデータを集めてくる」べき。
 「産業革命」と女性の地位との関係は、昨年実施された大学入学共通テストのプレテスト問題24が参考になる。[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2017-12-09]
 「フェミニズム」は、駿台の分析にもあるように「ウーマンリブ」と同義語で使うのが書きやすいが、本来ウーマンリブはフェミニズムの一形態であり、各社の資料集に載っているメアリ=ウルストンクラフトやグージュもフェミニストである。



【私の解答例】
女性参政権は近代に入っても認められず、フランス革命の人権宣言は普遍的人権を主張したものの、その対象は男性のみで女性は除外されていたため、フェミニズムが高まった。また産業革命で固定化した職住分離は良妻賢母の専業主婦を理想像とし、一方で女性労働者の賃金は低く抑えられていたため、19世紀前半まで女性の社会的地位は低かった。クリミア戦争で傷病兵の看護に従事し、近代看護学の基礎を築いたとされるナイティンゲールの活躍も、女性の政治的権利の向上には寄与しなかった。こうした状況に変化をもたらしたのは、第一次世界大戦である。第一次世界大戦は総力戦となったため女性の労働力は重要性を増し、このため女性の社会的地位は向上した。女性初のノーベル賞を受賞したキュリー(マリー)も、積極的に戦争に協力した。こうした動きは女性の参政権獲得に道を開き、イギリスでは第4次選挙法改正(1918)で初めて女性参政権が認められ、アメリカでも第一次世界大戦後に認められた。しかし性差による女性への社会的な差別は依然として続いたため、1960年代後半からベトナム反戦運動や公民権運動と並んで、女性を社会的差別から解放しようとするウーマンリブが世界的に広がった。女性差別撤廃条約(1979)はその成果の一つであり、近年ではジェンダーに対する意識も進んでいるが、イスラーム世界など女性の法的地位が男性よりも低い地域もなお残存している。


 一昨年10月、私が2年生の世界史Aでグージュを使って行ったフランス革命の授業の概要は、高大連携歴史教育研究会第二部会の教材共有サイト[https://sites.google.com/site/dai2bukai4all/home]の「ジェンダー史」の項目にアップしてある。


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『ウィンドトーカーズ』から『硫黄島からの手紙』 [授業ネタ]

今年の2年生世界史Aは進度が遅く、19世紀から太平洋戦争まで映画を使って無理矢理駆け抜けたという話。

 19世紀の「アメリカの発展」の部分で例年見せている映画はデンゼル・ワシントン&モーガン・フリーマンの『グローリー』だが、今年は先住民をテーマとしたニコラス・ケイジの『ウィンドトーカーズ』[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2006-12-28]にした。いま話題の福山雅治主演『マン・ハント』のジョン・ウー監督という話題性もある、ということで。
 見せた部分は以下の通り。
・ナバホ族のヤージーが居留地から軍の迎えのバスに乗り込む冒頭のシーン。
・ナバホ族に対する暗号通信訓練のシーン。
・サイパン島で暗号通信を行い、戦艦の艦砲射撃を支援するシーン。
・水浴びをしていたヤージーが、日本人に似ているという理由で殴られるシーン。
・大佐から称賛され勲章を受けるのはエンダースだけでヤージーは無視されるシーン。
・ヤージーが「戦争が終わったら教師になって米国史を教えたい」というシーン。
・サイパン島で日本人が住む村に米軍が拠点をつくるシーン。

本校では実教出版の世界史A教科書を使っているが、太平洋戦争のページにはサイパン島を中心にした地図が掲載されており、サイパン島から硫黄島に矢印が向いている。「これは使える」と思い、予定を変更し『ウィンドトーカーズ』に続いて『硫黄島からの手紙』を見せることにした。
 事前に話した内容は以下の通り。
・サイパン島に日本人が住む村がある理由(マリアナ諸島が日本の委任統治領となった経緯)の説明
・サイパン島の戦略的重要性の説明
・昭和19年7月19日付讀賣報知新聞と毎日新聞のサイパン島玉砕を報じる記事を使い、バンザイクリフ、スーサイドクリフの説明

『硫黄島からの手紙』で見せたのは以下の通り。
・特典映像のアメリカが制作した硫黄島の戦いのドキュメンタリー。
・現代の硫黄島調査隊が何かを掘り出すシーン。
・大便を捨てに行った西郷が米軍の艦隊を見つけるシーン。
・米軍上陸のシーン。
・栗林中将が突撃前に部下に訓辞を行うシーン。
・冒頭で調査隊が掘り出したものの中身がわかるラストシーン。

栗林中将の自決を見届けた西郷の頬を涙が伝うシーンは、『グローリー』でデンゼル・ワシントンが涙を流すシーンと同じくらい胸が詰まるが、見せるのはちょっと生々しいか。


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マルセイユ版①~グリモー版とカモワン版 [コレクター道⑦タロットカード]

 マルセイユ版タロットとは、17世紀ころからヨーロッパで大量生産されはじめたタロットカードで、現在のタロットカードのモデルとなったセットである。様々なヴァリエーションがあるが、なかでもメジャーなのが「グリモー版」と「カモワン版」の二つ。いずれもニコラ・コンヴェル(ニコラス・コンヴァー)が18世紀後半に作ったとされるセットをもとにしている。

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「魔術師」「愚者」の比較。左からグリモー版、カモワン版、ニコラス・コンヴァー版。


「グリモー版」
 フランス・カルタ社から発売されているタロット。20世紀に入り、機械印刷にふさわしいデザインのセットとして同社のポール・マルトーによってつくられた。創業者の名前ポール・グリモーから「グリモー版」と呼ばれる。

「カモワン版」
 フランスのカモワン社から発売されているタロット。婚姻によってニコラ・コンヴェルの版木を継承したカモワン家の末裔フィリップ・カモワンが、タロット研究家である映画監督のアレハンドロ・ホドロフスキーとともにつくったセット。完成は1997年である。描かれた人物の視線を重視するなど、独特の占い方法がある。


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「グリモー版」と「カモワン版」はよく似ているため、私はすぐにわかるように「Grimaud」「Camoin」というタグを作った。



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【タロットの古典“グリモー版”】マルセイユタロット(英文)

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  • 出版社/メーカー: France Cartes/FRANCE
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ヴィスコンティ・スフォルツァ版②~キャリー・イェール・パック [コレクター道⑦タロットカード]

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 アメリカのイェール大学(コネチカット州)のベイネック図書館が所有しているデッキ。キャリー家のトランプ・コレクションのひとつだったことから、「キャリー・イェール・パック」ともよばれる。このパックはミラノ公フィリッポ・マリア・ヴィスコンティ(1392~1447)の依頼で作られたという説があり、彼は「ピアポント・モルガン・パック(ベルガモ・パック)」を作らせたとされるフランチェスコ・スフォルツァ(1401~1466)の舅にあたる。フィリッポ・マリア・ヴィスコンティの娘ビアンカ・マリア・ヴィスコンティとフランチェスコ・スフォルツァが結婚したことで「ヴィスコンティ・スフォルツァ」となった次第。以上の来歴から、「キャリー・イェール・パックは、ピアポント・モルガン・パックよりも古い」という説もあり、だとするとこの「ヴィスコンティ・スフォルツァ版のキャリー・イェール・パックが最古のタロット」ということになる。しかし大アルカナは11枚しか残存せず、全67枚がすべてで、私が持っているU.S.GAME社製も別のカードを補ってある。キャリー・イェール・パックとピアポント・モルガン・パックを並べてみると、同じヴィスコンティ・スフォルツァ版でも「似てるけど違う」という感じが興味深い。

イェール大学ベイネック図書館のキャリー・イェール・パック
http://beinecke.library.yale.edu/collections/highlights/visconti-tarot


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キャリー・イェール・パックとピアポント・モルガン・パックの「魔術師」と「恋人」。いずれも左側(若干サイズが大きい方)がキャリー・イェール・パック。魔術師の服のデザインや、恋人の頭上のクピド(キューピッド)などはよく似ている。 キャリー・イェール・パックの「恋人」には、パラソルにヴィスコンティ家の紋章ピジョ-ネ(人を飲み込む大蛇)が見える。このピジョーネの紋章はスフォルツァ家に受け継がれ、ミラノに本社を置く自動車メーカー、アルファロメオの社章にも使われている。





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「アメリカ合衆国の発展」の授業 [授業ネタ]

 昨日(2018年1月7日)の新聞に掲載されていた「世界名作味の旅⑩~『大草原の小さな家』のアップルパイ」は、興味深い記事だった。これまで「アップルパイはイギリスのお菓子」というイメージがあったため、アメリカのソウルフード的存在だとは知らなかった。Wikipediaによれば「アップルパイはアメリカを代表するデザートで、「アップルパイのようにアメリカ的だ ('As American as apple pie') 」という慣用句があり、日本人にとっての味噌汁同様に「おふくろの味」を連想させる。」そうだ。
 『マザーグースの絵本Ⅱ~アップルパイは食べないで』(ケイト=グリーナウェイ絵、岸田理生訳、新書館)という本が手元にあるので、「アップルパイ=イギリス」というイメージを勝手に持っていたのだが、私が思い浮かべるアップルパイはアメリカタイプだったようだ。

 19世紀後半のアメリカ合衆国を扱う「アメリカ合衆国の発展」の項目は、色々と触れておきたいことが多くて大変だ。西部への領土的な拡大のプロセスと、南北戦争をへて、19世紀末にはフロンティアが消滅して世界最大の工業国になるまでが骨組みで、これにプラスしていくことになる。例えば「アメリカ合衆国では,19世紀前半に,アメリカ労働総同盟(AFL)が結成された。」(2004年度世界史A追試)とか、「20世紀に、アメリカ労働総同盟が結成された。」(2015年度世界史B本試験)などセンター試験で問われるAFLの結成時期(1886年)については、「アメリカが世界最大の工業国となった時期を考える」ということでおさえることは可能だろう。
 19世紀後半のアメリカでプラスしたいのは、先住民問題とアフリカ系の問題。最近は「インディアン」とか「黒人」という語句を使わなくなってることも切り口としてはいいかも。とはいうものの、体系化してまとめるのは、なかなか難しく感じている(アメリカ出身のALTによれば、「日本の世界史の資料集は、アメリカの高校生が使っている歴史の教科書よりずっと詳しい」そうだ)。
 『タペストリー』(帝国書院)、『グローバルワイド』(浜島書店)、『世界史のミュージアム』(とうほう)など年表にアフリカ系・先住民関連事項を時系列で並べて別枠で組み込んでいる資料集もあり、少し工夫すればうまく構成できるような気もする。『グローバルワイド』も「国民国家アメリカへの統合」という特集ページで、先住民問題と奴隷解放の写真記事が掲載されているが、補足のネタとしては、『ミューアジアム』が、「映画に描かれた先住民と黒人奴隷」というコラムで紹介している『グローリー』と『ダンス・ウィズ・ウルブズ』を使いたいところ。浜島書店の『NEW STAGE』では、以前『ソルジャー・ブルー』が紹介されていたが、授業で使うのは少々難しい気がする[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2009-10-20]。私が持っていた『グローリー』(SUPERBIT版)は日本語吹替がはいってない版だったので、最近吹替収録版を購入(中古市場では非常に安価だった)。以前紹介した、山川の『歴史と地理』432号(1991年8月)に掲載されている『グローリー』を用いた授業遊展開例(「歴史を観る-映画を駆使した授業」)が、うまく使えそうだ。

 『大草原の小さな家』に関しては、『タペストリー』と『アカデミア』に紹介されているが、いずれも肯定的なニュアンス。したがって、新聞記事にある「物語の中には、先住民に対する蔑視や偏見がにじんだ表現もある」という視点で、当時の人々に見られた一般的な先住民観を紹介する材料としたい。福音館から発行されている『大草原の小さな家』を読んでみたが、収録されている全26話のうち6つのエピソードが「インディアン」の語句を含むタイトルになっている。巻末に「アメリカ・インディアンのこと」という解説が収録されているが、筆者は故清水知久先生。小学生向けの文章ながら、筆致は鋭い。清水先生の文章の中に、「おかあさんといっしょ」で流れていた「インディアンが通る」という歌について触れてあるが、youtubeで聴いて私も思い出した。


 とはいえ、断罪するだけで終わるのは不十分な気がする。異質なものを否定し排除しようと姿勢は、現在でも見られるのではないか?と問いかける材料にしたい。
 
 年末休み中に読んだ、小田中直樹編『世界史 / 今、ここから』(山川出版社)の終章に以下のような記述があり、とても心に残った。

 好むと好まざるとにかかわらずグルーバル化の波に巻き込まれ、その結果、さまざまな側面で「わたしたち」と異なる「彼ら」と接触し、共存せざるをえない「21世紀の世界の一部としての日本」という時空間に生きる者にとって、何よりも大切なのは「私たちが正しい」という自己万能観でもなく、「彼らが正しい」という劣等感でもなく、さらにいえば「みんな違ってみんないい」(金子みすゞ)という単純な相対主義でもなく、「わたしたち」の常識も「彼ら」の言い分もいったん疑ったうえで、可能な限り適切な根拠と論理に基づいて自分の立場を選び取る、というスタンスである。その際、通常は「彼ら」の言い分を疑うことは簡単だから、まずもって意識的に試みるべきは「わたしたち」の常識を疑うことである。そのために必要な能力こそ、わたしたちが身につけるべき教養の一環をなし、さらにいえばその中核をなす。

 「可能な限り適切な根拠と論理に基づいて自分の立場を選び取る」ために必要な努力を惜しまないようにしたい。



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『母をたずねて三千里』 [授業ネタ]

 イタリアの少年マルコが、アルゼンチンに出稼ぎに行った母を探す物語「母をたずねて三千里」は、「移民の世紀」と呼ばれる19世紀の時代状況を反映したものである。①当時、イタリアでは大きな政治的・社会的変動が生じており、多くの人々が、②南北アメリカ大陸へ移住した。とりわけアルゼンチンのイタリア系移民は、パンパと呼ばれる大平原において、工業化で人口増加が進むヨーロッパ向けの小麦や牛肉を生産し、独立後の国家の経済を支えた。さらに、タンゴやサッカーといった文化の発展に影響を与えるなど、③アルゼンチンの歴史に大きな足跡を残している。

問1 下線部①に関連して、19世紀のイタリアで起こった出来事について述べた次の文章中の空欄( ア )と( イ )に入れる語の組合わせとして正しいものを、下の①~④のうちから一つ選べ。

 イタリアは、( ア )王国を中心に統一されたが、新しい政治体制や社会の変化に反発した人も少なくなかった。特に( イ )の赤シャツ隊によって軍事的に征服された南部からは、貧困問題もあって、多くの人々が移民として流出した。

 ①  ア-サルデーニャ   イ-ガリバルディ
 ②  ア-サルデーニャ   イ-マッツィーニ
 ③  ア-両シチリア    イ-ガリバルディ
 ④  ア-両シチリア    イ-マッツィーニ
2016年度センター試験 世界史A 本試験 第3問A


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 アニメ「母をたずねて三千里」はフジテレビ系で日曜午後7時30分から放送されていた「世界名作劇場」の一本として、1976年1月~同年12月まで、52回にわたって放送された。場面設定・レイアウトに宮崎駿、監督は「アルプスの少女ハイジ」の高畑勲という強力なスタッフである。イタリアのジェノバに住む少年マルコが、アルゼンチンに出稼ぎに行った母親アンナを探して白い猿のアメデオとともに旅に出るというストーリーだが、個人的にはマルコの父、ピエトロの声を演じた川久保潔氏が、NHKの人形劇「新八犬伝」で「忠」の珠を持つ火遁の術の達人、犬山道節の声を担当していたので好きだった。主題歌を歌う大杉久美子氏は、「ハイジ」や「フランダースの犬」、「あらいぐまラスカル」などのテーマも歌ってた。

 アニメ「母をたずねて三千里」は、浜島書店の世界史資料集『NEW STAGE 世界史総覧』にも紹介されていた。原作はイタリアの作家エドモンド・デ・アミーチスによって1886年に書かれた愛国小説『クオレ』で、「三千里」はこの中の一章分を脚色した作品。このアミーチスという人、結構な愛国者で、14歳にしてガリバルディの千人隊(赤シャツ隊)に志願したほど。(ただし幼すぎとして断わられたとか)。

 実際小説版(「アペニーノ山脈からアンデス山脈まで」という副題がついている)を読んでみたが、なんとなく暗い感じのストーリー展開である。『クオレ』全体が道徳的な雰囲気を持っているが、「ロンバルディアの少年監視兵」「ガリバルディ」といったタイトルの短編は、日本の小学生には難しいのではないだろうか。前者の書き出しなど、「1859年、ロンバルディア解放のための戦争のとき、ソルフェリーノとサン・マルティーノの戦争で、フランスとイタリアの連合軍がオーストリア軍をうちやぶってから数日ののち....」という具合だ。

 なぜイタリアからアルゼンチン?このアニメの時代設定は、1882年となっている。この時期アルゼンチンでは、冷凍船の発明によってパンパでの放牧がさかんとなり、ヨーロッパ向けの食肉輸出が増加する。アンモニア冷凍設備をつけた食肉運搬船が就航したのは1876年だそうだが、まもなく冷凍施設付きの屠殺場も普及、また鉄道網が発達したことから肉の輸出も容易となった。政府は外国からの移民の土地取得を容易にするなど、移民の受入れに積極的だったことが、アルゼンチンへの移民が増えた理由のようである。こうした農畜産業の大規模な発展を理由に、ヨーロッパ(特にスペイン・イタリア)からの大量の移民が増えたということらしい。「工業化で人口増加が進むヨーロッパ向けの小麦や牛肉を生産」とは、まさに世界的な分業体制=世界システム。ただ、一般に世界システム論では「周辺は中核に従属する」と考えるので、中核から周辺に出稼ぎというのも少々違和感が残る。しかし、かつてアルゼンチン共和国大使館のウェブサイトには、

 「20世紀の初頭、アルゼンチンは経済的に成功した国となりました。年平均経済成長率が6%という時期が30年間続いた結果、ヨ-ロッパの人々が移住先としてアルゼンチンとアメリカ合衆国のどちらを選ぶか迷う程魅力的な国へと成長したのです。」

 「19世紀末頃には、イタリア、スペインをはじめとするヨーロッパからの移民が大幅に増加し、政治の世界でも大衆の代表を増やすよう求める声が強くなっていきました。」

という記述があった(現在は削除されてる)。移民の誘致政策がとられるようになった1860年代後半から以後の50年間に、ヨーロッパから約250万人の移民がアルゼンチンを訪れたということなので、大変な数だ。「三千里」でも、アルゼンチンに到着したマルコが「イタリア語ともロンバルディア語ともつかないことば」で話しかけられたり、移民たちが集う「イタリアの星」という宿屋でイタリア系移民たちからカンパしてもらうシーンがある。
 
 紹介したセンター試験のリード文に「タンゴやサッカーといった文化の発展に影響を与える」とある。移民から好まれたタンゴには、イタリア語からの借用語が多いという。これをルンファルド(Lunfardo)とよび、移民が多かったブエノスアイレスで使われることが多いらしい。イタリア系アルゼンチン人のサッカー選手といえば、なんといってもリオネル・メッシ。それに現ローマ教皇フランシスコもイタリア系アルゼンチン人。サッカーW杯は近いし、先日教皇フランシスコが「焼き場に立つ少年」の写真を配付するよう指示したというニュースが流れた。「サッカーアルゼンチン代表メッシと、ローマ教皇フランシスコの共通点は?」という問いかけからスタートして、最後は映画「山猫」を見せてイタリア統一の授業をしめくくりたい。設問の文章「新しい政治体制や社会の変化に反発した人も少なくなかった」「赤シャツ隊によって軍事的に征服された南部」という言葉が実感できるだろう。


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ヴィスコンティ・スフォルツァ版 [コレクター道⑦タロットカード]

 最初にタロットに触れたのは、大学時代に天野喜孝の画集で彼が描いたタロットのシリーズを目にしたときで、最初に買ったタロットも天野氏がデザインしたカードセットだった。

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 本格的な占いをやるわけではないが、タロットの不思議な図柄には魅了される。タロットには様々なヴァリエーションがあるが、現在手元にあるのは大きく分類すると以下の3種類。

(1)ヴィスコンティ・スフォルツァ版
 イタリアのミラノ公フランチェスコ・スフォルツァ(ヴィスコンティ家の娘を妃に迎えた)の注文によって作られたとされるタロットで、現存する最古のタロットとされる。十数個のセットが残されているが、いくつかのヴァリエーションがあり、また現在のデッキと比較するといずれも欠落がある。

(2)マルセイユ版
 16世紀頃からフランス・マルセイユを中心に生産されていたタロット。古典的なタロットであるが、もともとは賭博用であり、占いに使われるようになったのは後のことだと言われている。

(3)ウェイト版(ウェイト=スミス版、ライダー版)
 魔術研究家アーサー・エドワード・ウェイト(1857~1942)がデザインし、パメラ・コールマン・スミス(1878~1951)がイラストを描いたタロット。1909年にロンドンのライダー社から発売されたことから、ライダー版とも呼ばれる。最も広く普及しているタロット。


 「現存する最古のタロット」とされるヴィスコンティ・スフォルツァ版を作らせたミラノ公フランチェスコ・スフォルツァの名を最初に知ったのは、高階秀爾氏の『ルネッサンス夜話』(平凡社)であった。フランチェスコ・スフォルツァは傭兵隊長から身を興し、ミラノ公にまでのし上がった人物である。傭兵隊長というと三十年戦争や佐藤賢一氏の小説などで、粗野な荒くれ者というイメージが強いが、彼は武勇に優れたのみならず、人間としても魅力的な英雄だったという。高階氏曰く「傭兵隊長の花の時代の最後をを飾る存在」だった。「ルネサンス」という言葉を定着させたブルクハルトや、マキャヴェリも『君主論』で彼を高く評価している。フランチェスコ・スフォルツァの息子ルドヴィコ(1452〜1508)の時代にミラノでは文芸がおおいに栄え、レオナルド=ダ=ヴィンチもルドヴィコの宮廷に招かれた。ダ=ヴィンチはルドヴィコの依頼で、フランチェスコの偉業をたたえる騎馬像を作成しようとしたが、未完成におわり現存していない(名古屋国際会議場に復元された象がある)。このような文芸を好む雰囲気が当時は強かったので、アートとしてのタロットが作られたことも頷ける。

DSCF3264.jpg


 現存するヴィスコンティ・スフォルツァ版は3種類あるが、アメリカのモルガン図書館(ピアポント・モルガン・ライブラリー)などが収蔵してる「ピアポント・モルガン・パック(ピエールポント・モルガン・パック)」を復刻したデッキ。この版は「フランチェスコ・スフォルツァ・パック」とか「ベルガモ・パック」とも呼ばれており、「悪魔」など4枚のカードが失われている。現在「ヴィスコンティ・スフォルツァ版」と称して売られているタロットは、このデッキがモデルになっており、欠落した4枚のカードも別デザインで補填されているため実際の占いにも使用可能である(しかしサイズが大きく実用向きではない)。復刻したのは、イタリアのIl Meneghello社。823/1000というナンバーがはいっている。


モルガン図書館に収蔵されているヴィスコンティ・スフォルツァ版データ
http://www.themorgan.org/collection/tarot-cards

Il Meneghello社のフェイスブック
https://www.facebook.com/IlMeneghello/

名古屋国際会議場のフランチェスコ・スフォルツァ像
http://www.nagoya-congress-center.jp/organizer/about_us/



【最古のタロットカードの復刻版】ヴィスコンティ・スフォルツァ版タロット

【最古のタロットカードの復刻版】ヴィスコンティ・スフォルツァ版タロット

  • 出版社/メーカー: U.S. GAMES SYSTEMS, INC./U.S.A.
  • メディア: おもちゃ&ホビー









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『ルートヴィッヒ』(ルキーノ・ヴィスコンティ監督、1972年、イタリア・フランス・西ドイツ合作) [歴史映画]

【映画について】
 19世紀南ドイツのバイエルン王ルートヴィヒ2世の即位から死までを史実に沿った形で描く歴史大作。ヴィスコンティ作品に見られる絢爛豪華な貴族趣味が最も端的に表現された、耽美的で重厚な作品。オリジナルは4時間もの大作であったが、監督自身の手で3時間に短縮された。劣化したフィルムが修復され、現在はオリジナル版がDVDにも収められている。

【ストーリー】
https://movie.walkerplus.com/mv49045/

【見所など】
 手元にある高校世界史の資料集における「ドイツの統一」の項目を見ると、いずれもルートヴィヒ2世についての記述とノイッシュヴァンシュタイン城の写真が掲載されている(第一学習社の『グローバルワイド』、帝国の『タペストリー』、浜島の『アカデミア』) 。おそらく、ノイッシュヴァンシュタイン城が東京ディズニーランドのシンデレラ城のモデルとなったからだろう。『グローバルワイド』だけルートヴィヒ2世の肖像が掲載されていないが、奇妙なヘアスタイルを含めて、ヘルムート・バーガー演じるルートヴィヒ2世は、現在残されている写真を見ると、実物そっくりである。
 ヴィスコンティ作品では、『山猫』がイタリアの統一をテーマとしており、この『ルートヴィヒ』はドイツの統一がテーマ。ということでこの2本、私の中では同時代のヨーロッパを描いた2本セットの映画である。冒頭ルートヴィヒのバイエルン王戴冠式のシーンでは、プロイセンやオーストリアの大使が訪れていることから、まだ統一前であることがわかり、ローマ教皇が参列していることからは、彼がカトリックであることもわかる。一方彼の母、マリー王太后はプロイセン出身ゆえプロテスタント。普墺戦争のシーンで、「オーストリアは同盟国だが、プロイセンは身内だ」言ってるのはそのため。作品中、ゾフィーに結婚の申し込みをする際、マリー王太后は「自分がプロテスタントだから相手が嫌がるかもしれないので、あなた(カトリックのホフマン神父)も一緒に来てください」と言っているが、ゾフィーもバイエルンの王族出身でカトリック。南ドイツではプロテスタントよりもカトリックが優勢であったことがよくわかる。ビスマルクの文化闘争の背景として使えそう。ゾフィーはルートヴィッヒとの婚約が解消された後、フランス七月王政のルイ=フィリップの孫と結婚した。
 授業で一番使えるのは、使者がビスマルクの意向を伝えにくるシーン。経済的支援とひきかえにドイツ帝国(連邦制国家である)への参加を要求され、苦悩するルートヴィッヒ。オーストリアとプロイセンの戦争など、ドイツ統一のいきさつを知らないと意味がわからないかもしれないが、ここが授業での使いどころという気がする。イタリアやドイツといった国民国家の形成からまだ200年もたっていないし、『山猫』『ルートヴィッヒ』を観る限り、一概に統一賛成が多かったわけではなかったようだ。

【その他】
①ヘルムート=バーガーは、1994年公開の映画『ルードウィッヒ1881』で再びルートヴィッヒ2世を演じた。
 ②ルートヴィッヒがオーストリア皇后エリザベートと久々に再会したとき、彼女は室内で馬に乗っている。もしかすると、オーストリア=ハプスブルク家に伝わる有名なスペイン式馬術(馬のバレエ)の練習中だったのか。『グローバルワイド』と『タペストリー』には、当時ヨーロッパ宮廷で最も美しいと言われたこのエリザベートの肖像画が掲載されているので(『アカデミア』には皇帝夫妻の写真が掲載されている)、作品中エリザベートを演じたロミー=シュナイダー(アラン=ドロンの元妻)を見せるのもいい。Wikipediaのエリザベート(エリーザベト)の項目には、ナポレオン3世妃ウージェニーとの興味深いエピソードが紹介されているが、『タペストリー』にはウージェニーの肖像画も掲載されており、なかなか使える。二人の肖像画を描いたヴィンターハルターは、センター試験や新テストの試行テストに使われたヴィクトリア女王一家の肖像画を描いた宮廷画家である。
 ③エリザベートの夫、オーストリア皇帝フランツ=ヨーゼフ1世については、第一学習社の『グローバルワイド』にエリザベートともに詳しい記述がある。イタリア統一戦争・普墺戦争に連敗、エリザベートやサライェヴォ事件など相次ぐ不幸にもかかわらずセルビアに宣戦して第一次世界大戦を始めた「不死鳥」。シャーロック=ホームズと同時代の彼は、エピソード「ボヘミアの醜聞」が起こった当時(1888年)のボヘミア(ベーメン)王だが、事件当時ヨーゼフ帝はすでに50歳代後半であるため、年齢的には適合しない。


ルートヴィヒ デジタル修復版 [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
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ルートヴィヒ デジタル完全修復版 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • メディア: DVD



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小田中直樹・帆刈浩之編『世界史 / いま、ここから』(山川出版社) [歴史関係の本(小説以外)]

 山川の『歴史と地理』No.708の書評を見て購入。高校世界史レベルの教養を広く一般向けに広げるために書かれた本である。雑誌『日経ビジネス』2013年2月号に、ビジネスパーソンの多くが歴史の知識を「身につけるべき教養」としてあげているという記事があったが、佐藤優氏も「基礎知識を身につける最高の本は、じつは高校の教科書と学習参考書」(『読書の技法』)と言っていた。
 本書が高校の世界史教科書と一線を画すのは、時代区分であり、以下の5つの時代で区分され、通史として叙述されている。
 1章 西アジアの時代(有史~6世紀前後)
 2章 東アジアの時代(6世紀~15世紀)
 3章 世界史の一体化の時代(15世紀~18世紀)
 4章 欧米の時代(18世紀~19世紀)
 5章 破局の時代(20世紀~今日)
 いずれの章も人・モノ・情報の移動、宗教、科学技術と環境 の3つの視点から叙述されており、2002年以降に東大世界史で出題されてきた各問題を思い出す。この3つの視点は、現代社会が直面している諸問題であり、世界の各地で起こっている対立の原因になっているため、「いま、ここから」考える上で現在的な視点だと思われる。教科書でおなじみの人名はあまり出てこないが、一方で映画、食物、地名など教科書には登場しないが心に残る記述が所々にあり、筆者陣の思いや趣味が見えるようで楽しく、またハッとさせられる。
 固有名詞を並べ立てて難しい説明をする本ではないが、内容は高水準という好著で、気がつけばここ数年間同じ授業を続けているような自分には実に刺激的な内容であった。大学入試にウェイトを置いた指導を続けていると、ともすれば大きな流れを見失いがちになってしまうが、そういった時にもよき指針となるように思える。編者の小田中先生はご自身のブログで「もともとは高等学校世界史B教科書『新世界史』のスピンオフ企画」と述べておられるので、本書で大きな流れを体感し、その後で高校の世界史教科書を読んでみると理解が深まるだろう。
 『歴史と地理』の書評で「終章から読むのもお勧め」とあったので、終章から読んでみた。歴史は役に立つのかという問題意識、また現在の歴史教育に対する問題意識は、小田中先生がこれまで発表してきた著書(『歴史学って何だ?』や『世界史の教室から』など)から続いているものだ。中でも私が印象に残ったのは、現在のグローバル化は国民国家の存在を前提として進められた非グローバル化にストップがかかった状態であるという指摘だった。私が『地域から考える世界史』に書いたことに少なからず通じる点であり、私が熊本で考えたことが「いま、ここから」の世界史であったことを誇らしく感じている。

 もっとも心に残ったのは、わたしたちにとっての教養を「「わたしたち」の常識を疑う力」と定義してみよう」という言葉であった。




世界史/いま、ここから

世界史/いま、ここから

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 2017/04/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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『山猫』(ルキーノ・ヴィスコンティ監督、1963年、イタリア) [歴史映画]

【映画について】
 自らもイタリアの貴族である巨匠ヴィスコンティが、これまたイタリア貴族であるジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサの小説を映画化した作品。イタリア統一戦争の波が押し寄せるシチリア島の貴族サリーナ公爵を中心に、変化する社会とそれに抗いつつも順応していこうとする貴族の生活を描いた、滅びの美学を余すところなく伝える一大叙事詩である。主演のサリーナ公爵ドン・ファブリツィオ役は、名優バート・ランカスター、彼の甥タンクレディは若き日のアラン・ドロン。他、日本では彼の名前をつけたバイク「ジェンマ」が発売されるほど人気だった、ジュリアーノ・ジェンマも出演。第16回カンヌ国際映画祭(1963年)でパルム・ドールを受賞した。音楽は、『道』をはじめとするフェリーニ作品や、『ゴッドファーザー』を手がけたニーノ・ロータ。
  オリジナルは185分という長さであったため、161分の「英語国際版」が作成され、日本公開時もこの国際版が使用された。その後ヴィスコンティ没後の1981年に、イタリア語オリジナル版が公開された。しかしオリジナルのフィルムは経年劣化を起こしていたため、イタリア政府により修復されることになり、撮影監督ジュゼッペ・ロトゥンノ(フェリーニの『ひまわり』や、『オール・ザット・ジャズ』も手がけた)自らの監修により、40周年を期した『山猫―イタリア語・完全復元版』(187分)が2003年につくられた。そして2010年には、マーティン・スコセッシ監督率いるザ・フィルム・ファンデーションがイタリアのブランドGUCCIの支援のもとリマスタリングを行った「4K修復版」がつくられた。現行ブルーレイはこのマスターと、セイゲン・オノがリマスタリングした音声が使用されているが、音声にはまさかの日本語吹替(71年にテレビ朝日で使用されたもの)を収録。画面の美しさはすばらしく、後半の舞踏会のシーンでは、バート・ランカスターとアラン・ドロンの髭の一本一本や額や頬を流れる汗の粒までハッキリ見える。


【ストーリー】
1860年、イタリア統一戦争の波は、ブルボン家の王が支配するシチリア島(両シチリア王国)にも押し寄せる。そのシチリア島の名門貴族で“山猫”の紋章を持つサリーナ公爵家の当主ドン・ファブリツィオ(バート・ランカスター)は、時代の変革を実感しながらも、これまで通り優雅な生活を送っていた。一方、彼が目をかけていた甥のタンクレディ(アラン・ドロン)はカリバルディの赤シャツ隊に参加し、片目を負傷する。休暇の出たタンクレディは、避暑に向かうサリーナ公爵一家と合流し、そこで新興ブルジョワジーの娘アンジェリカと出会い恋に落ちるのだった。周囲の反対を抑え、若い二人の婚約を後押しするサリーナ公爵。それは公爵家の存続と将来を見据えた上での決断であった。

【見所など】
 いったい制作費はいくらかかったんだろうという豪華な作品。 シチリアの風景は「何かの映画で観た記憶があるな」と思ったら、ケネス・ブラナーの『から騒ぎ』(1993年)だった。ガリバルディをはじめイタリア統一戦争の概略が頭にはいっていないと、意味がわからないかもしれない。授業で紹介したいシーンとしては、①タンクレディがサリーナ公爵に、ガリバルディの革命軍に参加すると告げるシーン(前のシーンがテレビ版ではカットされていたため、一部吹き替えが実際のセリフとあっていない)、②ガリバルディ軍と両シチリア王国軍との戦闘(ガリバルディ軍はみな赤シャツを着用している)。統一イタリア王国への編入を決める国民投票のシーン(教科書などでよくみるガリバルディの肖像画が見える)も面白いが、少々長い。その他気になったシーンがいくつかあった。①ピクニックに行ったとき、公爵一行が食事をしている間、従者たちは馬を引いて歩かせていた理由、②教会で少年が「振り香炉」を使っている、③舞踏会で、女性が白いものを踊る人に投げている理由、といったところ。Wikipediaに出てる「変らずに生きてゆくためには、自分が変らねばならない」というタンクレディの言葉を探したが、見つからなかった。どのシーンで言ったのだろう。
 絢爛豪華な舞踏会の合間、涙目で鏡に映った自分の顔を見るサリーナ公爵の哀愁と、かつて戦友だったガリバルディ軍の兵士の処刑を笑顔で語るタンクレディ(なぜか人相がよくない)。姻戚関係を結んだ新興ブルジョワジーのドン・カロージェロは、スペイン製の豪華な燭台を観て、土地に換算するとどれくらいになるかを話題にする(一方で貴族の家柄にあこがれを持っている)。ラストシーンで、祈りを捧げ、立ち上がって暗い通りに姿を消す公爵。後に残った野良猫は、山猫のその後を暗示するかのよう。バート・ランカスターの名演技が心に残る。



山猫 4K修復版 [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • メディア: Blu-ray



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軍事郵便(日露戦争) [コレクター道⑤古いポストカード]

 郵便コレクターで「エンタイア」という用語は、「配達された郵便物で切手や消印が残っているアイテム」を意味し、当時の資料としてなかなか興味深い。日本の古いポストカードのエンタイアで、軍事郵便は意外と多い。軍事郵便とは、戦地に赴いた兵士・軍属と祖国に残った家族がやりとりした手紙類で、家族からは所属部隊名と名前だけで届くという制度である。基本的に国内と同じ料金である。

軍事郵便について https://wararchive.yahoo.co.jp/gunjiyubin/

 日本国内から国外の兵士宛に出された手紙の場合、先の大戦は戦況の厳しさ故にあまり残っておらず、むしろ日露戦争時のアイテムをよく見かける。兵士のほとんどが男性だったゆえか、女性をデザインした絵葉書が多いようだ。中でも珍品は、明治の水着女性と看護師の女性の絵葉書。今も昔も、男性の憧れは同じのよう。

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女性看護師の写真を使ったポストカード。おそらく手彩色だろう。コメントに「無事のお顔が早くみたい」「当地気候不順」など。日付は明治38年7月と10月。

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左は珍しい水着姿の女性。

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上の2枚の宛名書き。赤で囲った部分、「山」の下に「々」??と思ったら「出」で「出征」。この頃の軍事郵便には、「出」を「山」の字を重ねた字体が多い。日露戦争時の軍事郵便は、戦地から出す場合は無料で、日本から出す場合は切手が必要だったようだ。


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勝利への脱出(ジョン・ヒューストン、1981年、アメリカ) [歴史映画]

【概要】
 第二次世界大戦中にドイツ占領地域で行われた、連合軍の捕虜とドイツ軍とのサッカーの試合を題材とした映画。主演はシルベスター・スタローンで、米軍の捕虜で元アメリカン・フットボールの選手という設定である。サッカーの王様ペレを始め、1966年W杯優勝イングランドの主将でMVPとなったボビー・ムーア、78年W杯優勝アルゼンチンの中心選手だったオズワルド・アルディレス(元清水エスパルス、東京ヴェルディ監督)ら往年の名選手が出演している。

【ストーリー】
 第二次世界大戦中のドイツ軍の捕虜収容所で、サッカーを楽しんでいた連合軍捕虜を見ていたドイツ軍のフォン・シュタイナー少佐は、自分自身が元サッカー選手だったこともあり、捕虜チームとドイツチームとの試合を思いつく。話は大きくなり、全連合軍捕虜VSドイツナショナルチームとの試合としてパリで行われることになった。試合の裏側ではレジスタンスの手引きにより、大規模な脱走作戦が進んでいた。

【見所など】
 2018 FIFAワールドカップ(ロシア大会)の組み合わせで、日本はグループHとなったが、同組のポーランドは2017年11月のFIFAランキングで7位の強豪(同ランキングで日本は55位)。人口が4千万人に満たない国ながら、ショパン、コペルニクス、キュリー夫人などの人物を輩出したこの国は、典型的な「大国に囲まれた小国の悲劇」の国でもある。
 サッカーW杯で日本がポーランドと同組になったというニュースを見て思い出したのが、この映画だった。B級映画と侮るなかれ、なかなか面白い映画である。Wikipediaによれば、実際に第二次世界大戦中実際に行われた試合「The Death Match」をモデルにしているという。


 連合軍捕虜チームのリーダーである元イングランドのサッカー選手コルビー大尉は、チーム編成のためにナチス側に「ポーランドとチェコの選手も探して欲しい」と要求するが、ナチス側は渋る。東欧出身の捕虜は強制労働の収容所に送られていたのである。連れてこられた5人の選手を見たコルビーは、彼らの痛々しい姿を見て愕然とする。現行DVDの字幕では「東欧の選手は?」となっているが、実際は「What about the Poles and the Czechs?」と言っている。私は高校生の頃この映画をテレビで見たが、そのときは「ポーランド」と言っていた記憶がある。チェコ(映画の時代はチェコスロヴァキア)は、2017年のFIFAランキングでは48位だが、2006年には2位まであがった東欧の強豪である。



 
勝利への脱出 [DVD]

勝利への脱出 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • メディア: DVD



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大学入学共通テスト(世界史) プレテスト [大学受験]

 現在のセンター試験は2020年から「大学入学共通テスト」に移行する。11月中旬から下旬にかけて試行調査(プレテスト)が行われ、先日問題と採点結果の速報が公開された。問題数は36で現行のセンター試験と同じだが、印象は大きく異なっていた。

 問い方では、 問題番号3の「下線部②の説について、どのような根拠が想定できるか。想定できる根拠として適当でないものを選べ」という設問が目をまず引く。また、3人の会話文から「①伸之が誤っている ②エレーナが誤っている ③ひとみが誤っている ④全員正しい」という選択肢がつくられているのも面白い(問題番号8)。この問い方だと、「①○○が正しい....④全員誤っている」という問い方も可能となる。その他4つの短文から正しいもの2つの組み合わせを選ぶという形式(問題番号21・24)もこれまでにない問い方であり、センター試験ではおなじみの年代整序問題も、絵画資料を使った新しい問い方であった(問題番号14)。絵画資料につけられた説明には歴史用語を一切使用せず、図版による看図アプローチで情報を補うという問い方であり、絵画資料そのものを問題とした問題番号5ともども、興味深い問題であった。公平を期すためには、使用する図版には注意を払う必要がある。しかし、これまでセンター試験で使われた図版には問題そのものとはあまり関係ない資料が多かったので、絵画資料そのものが問題と直結している点は評価したい。 2016年世界史Bではホルバインが描いたエラスムスの絵を使った問題が出題されていたので、このような問題はセンター試験でも出題されるのではないだろうか。

 会話文を使った問題も多かったが、中でも問題番号9は会話文と統計資料がヒントとして生かされており、よい問題である(ただし正答率は19.8%と低かった)。会話文には、外国ルーツと思われる生徒も登場しており、よく配慮されていた。グラフをはじめとした資料が多く提示されているのも大きな特徴であったが、折れ線グラフも現行センター試験のように「年号でなんとかなる」という問題ではなく、中国の人口動態の折れ線グラフで人口が増加している時期が二つ示され、それぞれの時期で人口増加した正しい理由を説明している組み合わせを選ばせるという、思考力を必要とする問題であった。系図を用いた問題番号21の正答率は45.4%とやや低かったが、これはある程度の知識も必要とするため、知識と読み取りを組みあわせることが難しかったと思われる。これまで系図そのものが問題となったのは、共通一次時代(84年本試験)にモンゴル帝国の系図が出題されたが、系図の一部が空欄となっており、そこにはいる人名を答えるというものであった。こうした問題を体験してきた世代としては、今回のプレテストは隔世の感がある。

その他、印象に残った問題は以下の通り。
・問題番号4・6:長い資料文である。読み取れる内容を答える文としては、1988年12月に実施されたセンター試験試行問題で孟子を扱った問題が出題されたことがあったが、今回の試行問題の方がやや難しかった。問題番号6の正答率は48.2%。
・問題番号18:上位概念を問う問題として、評価できる問題。しかし正答率は17.1%と最も低い。こうした問題は重要だと思うのだが。
・問題番号22:ジャガイモ飢饉が題材となっている。今でこそジャガイモ飢饉という語句は『世界史用語集』にも載っているが、私がジャガイモ飢饉のことを初めて知ったのは1995年の東大第3問で、『旺文社全国大学入試問題』の解答例では「じゃがいも疫病による大飢饉」となっていた。その後2003年の千葉大で論述問題の指定語句となり、2007年の東大第1問でも、指定語句に準じる扱いになった。2007年の東大第1問では、「アイルランド」「穀物法」が指定語句になっているが、ジャガイモ飢饉と穀物法の関係で面白い文章を読んだことがある。ジャガイモ飢饉に対して当時のピール内閣は米国からトウモロコシを輸入して対応しようとしたが、穀物法によってそれが難しかったため、廃止の機運が盛りがったという。だたし、その頃のアイルランドの農民たちはトウモロコシを粉に挽く手段がなかったため、トウモロコシは飢饉を救うことができなかったらしい。
・問題番号24:ヴィクトリア女王一家の肖像を見て、「この肖像画の背景には、女性が良き妻・母であることを理想とする家族観があると考えられる」という文章の正誤を判断する問題。19世紀ヨーロッパの家族観については、これまでにも出題されたことがあるが(1998年度 本試験 世界史A 第2問C)、絵画を使用して精神的な部分を読み取らせる点が斬新である。この問題で使われているヴィクトリア女王一家の肖像画(ヴィンターハルター作「1846年のロイヤル=ファミリー」)は、2013年世界史B本試(第4問C)にも使用された。ヴィクトリア時代のイメージ戦略という観点は同じだが、2013年センターではリード文に「女王は「貞淑な妻」「慈悲深い母」を演じた」という説明があり、解答そのものに関わる扱いではなかった。これまでのセンター試験と新テストとの違いを考える上で、よい比較となる問題である。
・問題番号25:センテンスを完成させる問題も、論理的な説明という点で評価できる。

 短期間でよくこれだけの問題をつくりあげたものだと感服する。作成担当の方々には、本当に大変なご苦労があったと拝察する。
 知識を活用した上で判断するという作業が必要なため、解答には現行のセンター試験よりも多くの時間が必要だったと思われる。面倒くさく感じた受験生も少なくなかったのではないだろうか。



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ハン・ソロのエラー・フィギュア [コレクター道⑥スター・ウォーズ]

 帝国書院が発行している高校世界史の資料集『タペストリー』では、かつて映画『スターウォーズ』が紹介されていた。「レーガン大統領による戦略防衛構想(SDI)はこの映画にちなんで「スターウォーズ計画」とよばれた」という説明とともに、米ソ両国の軍事支出を示す折れ線グラフも同枠内に示されていた。グラフから「スターウォーズ」の第1作(エピソード4)が公開された70年代後半(映画公開は77年)から、「デタント」がおわって米国の軍事支出が急上昇することが読み取れる、たいへんよい記事であった。ソ連のブレジネフ政権がアフガニスタンに侵攻するのは79年で、これに対して米国は翌80年のモスクワ五輪をボイコット、日本も同調して不参加であった。ソ連はこれに対する報復として次回84年のロサンゼルス五輪をボイコットし、東欧諸国もどれに同調するなど、『タペストリー』が述べている「新冷戦」の時代である。ボイコット合戦のオリンピックでは、モスクワ五輪に西側から参加したイギリスの陸上中距離選手セバスチャン・コー(ロンドンオリンピック組織委員会委員長)や、ロサンゼルス五輪に東側から唯一参加したルーマニアの女子体操選手エカリーナ・サボーが記憶に残っている。『タペストリー』の八訂版はスターウォーズのほか、グリューネヴァルトの「イーゼルハイムの祭壇画」が掲載されるなど、かなりディープであった。

 映画『スターウォーズ』シリーズは、VHSビデオ時代からビデオ購入して繰り返して見てきた。リマスター版のDVDも何度となく見てきたため、シリーズ合計でいえば『ブレードランナー』を見た回数を超えるかもしれない。しかし『スターウォーズ』が『ブレードランナー』と決定的に違うのは、『スターウォーズ』はトイ系のコレクターが多いということで、私も一応スターウォーズのコレクターである。私の場合はおもにエピソード4~6のいわゆる「オリジナル・トリロジー」に登場するキャラクターで、ハズブロー/ケナー社のベーシック・フィギュアを集めてきた。
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 ベーシック・フィギュアは子ども向けの製品であり、値段も安価である。箱ではなく、紙の台紙にフィギュア本体が透明プラスチックでカバーされ販売されている。そのため初期は、「開封して遊ぶ用」「保存用」「トレード等予備用」と3個買っていた時期もあったが、よほど気に入ったアイテムでない限り「開封用」「保存用」の2個買いということで落ち着いた。いまヤフオクをみると購入時からプレミアがついているのはほとんどない。当時は色々と苦労して集めたが、いまネットで買った方が手間もかからず安く手にはいると思う。

IMG2724.jpg

 熊本地震で最も被害を受けたのは、フィギュアだった。アプローズ社製限定版ダース・ベイダーのヘルメットが紛失するなど大小様々な被害があったが、痛恨の極みはビートルズのフィギュアが大破したことである。ポールのマイクは折れ、ヴァイオリン・ベースのストラップは切れてしまった。リンゴのドラム・スティックも折れ、シンバルも1個行方不明。
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 あまりプレミアがつかないスターウォーズのベーシックフィギュアだが、エラーモノは少しプレミアがつく。エピソード5『帝国の逆襲』で、炭素冷凍されたハン・ソロのフィギュアである。これはフィギュア本体にエラーがあったわけではなく、台紙の表記に間違いがあり、後に修正されたというエラー。初期ロットの表記は「HAN SOLO IN CARBONITE with CARBONITE FREEZING CHAMBER」(右)だったが、この「CARBONITE FREEZING CHAMBER」は冷凍装置自体を指すため、2ndロットから「HAN SOLO IN CABONITE BLOCK」(左)に変更された。米アマゾンのマーケットプレイスみると$16.75で出品されているので、たいしたプレミアではない
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 DVD持ってるのにテレビで放送があるとつい視てしまう『スターウォーズ』。そしてそのたびにフィギュアを引っ張り出す。
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今年の慶應義塾大学(商学部)の問題 [大学受験]

 『地域から考える世界史』(勉誠出版)で私が紹介している女性は、慶應義塾大学に進学した。慶大商学部の入試で今年出題された問題は、これからの入試問題を考える上で注目したい問題であった。

 人口減少社会に突入した日本にとって移民とどう向き合うかは喫緊の課題といえる。日本への移民受け入れに関して留意すべき点について、本文の内容を踏まえて、50字以内で述べなさい。ただし、本文中に登場する「摩擦」、「労働力不足」、「共生社会」の3語を必ず用いること。

 もちろん、世界史の問題である。「人口減少社会に突入した日本」という言葉があるので、「受け入れる」という前提で考えていきたい。

少子化による労働力不足を補うため移民を受け入れるには、摩擦を克服して多文化共生社会目指すことが重要。 50字

これから考えていかなければならないのは、どうすれば摩擦を克服できるかということ。
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チベット仏教のガウ [コレクター道①神仏像]

 チベット仏教には「ガウ」と呼ばれる携帯型の仏具がある。 仏像やお守りを入れて持ち運ぶケースだが、ペンダントトップのロケットタイプや大きめの祭壇タイプなどがある。
ガウに収める仏像を「ツァツァ(擦擦)」=「(仏様の)複製」と呼ぶが、多くは粘土を焼いて作った塼仏(せんぶつ)である。

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 このガウは祭壇タイプで、ガウは首に提げることが多いらしいが、このサイズだと邪魔になりそう。中の仏像の大きさは約3㌢。緑青が出ているので、ケースは銅製だと思われる。布製ケースのつくりもしっかりしており、かなり頑丈なつくりである。常に持ち歩くには、これ位の丈夫さが必要なのだろう。
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