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小針誠『アクティブラーニング 学校教育の理想と現実』(講談社現代新書) [授業研究・分析]

 アクティブラーニングを教育史や教育行政の立場から分析した好著。これまで読んできたいわば実践本とは異なる視点から書かれているため、大変面白く読むことができた。引用される資料が多く、かなり検証されているなという印象。
 まず著者は、アクティブラーニングをめぐる五つの幻想を提示する。これらを検証する中で様々な問題点が指摘されてたが、特に気になったのは、子どもの家庭状況(貧困など)によってはなじめない子どもが出てくるのではないかという指摘。基礎知識がある児童生徒は積極的な参加が期待できるが、そうではない児童生徒はどうなるのか。先日、英語の新テストに使われる民間の外部検定が発表されたが、中には受験料が2万円を超えるものもあった。新テストの採点はベネッセなど民間業者が行うことから、その受験料も気になる。おそらく検定料や受験料の調整はこれから行われるだろうが、しっかりと対応していただきたい。「子どもの貧困」など経済的な格差が、教育格差につながりはしないか。
 興味深かったのが、第二章「近代教育史のアクティブラーニング」で、大正時代に成城小学校で行われたドルトン・プランなどの実際が紹介されている。ドルトン・プランについては、同じく講談社現代新書の『教育の力』など苫野一徳氏の著作でも紹介されているが、実際どのように運用されてどのような問題点があったのかというまとめはとてもわかりやすかった。こうした過去の先行例を見ておくのも、無駄ではあるまい。
 現実問題としていま私が最も気になっているのが、第一章で指摘されている「ゆとり教育」から「ふとり教育」へ移行した結果、授業時間の確保をどうするかという点である。地理歴史科の新科目「世界史探求」は、現行の「世界史B」の4単位から標準3単位となった。「歴史総合」では、日本史関係も世界史関係も両方扱うが、これは2単位である。ディスカッションやグループワーク、探求活動などを行うことを想定すると、教科書の内容は精選されるだろうが、2単位での運用は破綻するような気がしてならない。現在多くの学校では、世界史AとBの時間を合わせて、Bの内容を完結させている例が多いと思うが、カリキュラム・マネジメントの名の下に運用は現場に丸投げされ、「戦時下の国民精神総動員のスローガン「足りぬ足りぬは工夫が足りぬ」を思い出す」(64㌻)という状況を危惧している。
 今を去ること10年以上前、新潟で行われた日本西洋史学会で故鳥越泰彦先生は、「考えさせる」という独特な使役形に対する違和感を表明しておられた。このことは、『新しい世界史教育へ』に収録されている「高校世界史教育からの発信」でも述べられているが、主体的であることを強制するというのは確かに奇妙なことである。本書で引用されている調査結果によれば、学校段階があがるにつれてアクティブラーニングに対する意欲は低下するという(20㌻)。先日、大学に進学した教え子が尋ねてきた折りに、大学での活動を色々尋ねてみた。『地域から考える世界史』の中で、私が紹介している女性である。彼女の話を総合すれば、有名大学であってもそうした傾向は見られるようだ。



アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書)

アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書)

  • 作者: 小針 誠
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/03/15
  • メディア: 新書



新しい世界史教育へ

新しい世界史教育へ

  • 作者: 鳥越 泰彦
  • 出版社/メーカー: 飯田共同印刷
  • 発売日: 2015/03/26
  • メディア: 単行本



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「世界史」をどう語るか~『思想』3月号(岩波書店)より [歴史関係の本(小説以外)]

 岩波書店の『思想』3月号(No.1127)の特集は「<世界史>をいかに語るか-グローバル時代の歴史像-」。『思想』ではかつて2002年5月号でグローバル・ヒストリーの特集が組まれたが、そのときの特集は難解で、正直自分にはあまり理解できなかった。

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 今号の特集では、小川幸司・成田龍一・長谷川貴彦の3名の先生による鼎談「「世界史」をどう語るか」が注目。小川先生は、大著『世界史との対話』(地歴社)の著者であり、私が尊敬する先生の一人である。この鼎談で印象に残ったのは2点で、1点目は成田先生による『世界史との対話』の解題。『世界史との対話』は何度となく読んできた本だが、成田先生の解題を読み、なるほどこういう読み方もあるのかと興味深く拝読。そしてもう1点は、小川先生の「グローバル・ヒストリーのように歴史像が大きくなればなるほど、読み手は受け身となり、歴史と自己が離れてしまう逆説がおこる」という指摘。
 グローバル・ヒストリーについて、「世界の歴史を(ヨーロッパ中心史観に基づかないで)、国民国家の歴史の寄木細工として見るのではなく、ローカル→ナショナル→リージョナル→グローバルと視点を大きくして、特に人・モノ・金・情報・病気など諸地域を結びつける紐帯に注目していこうとする見方」というのが私の理解であった。例えば茶や砂糖といったモノを題材とすることで、生徒は「身近なモノにも歴史あり」と実感できると考えてきた(私がこうしたイメージを持ったのは、大阪大学出版会から出ている『歴史学のフロンティア』、特に第四章「イギリス帝国とヘゲモニー」を読んでからだと思う→『イギリス帝国の歴史』中公新書)。世界史の教科書を見ても、国家の枠組みに拘りすぎるべきではないという考えは一定のコンセンサスを得ていると思う(例えば東京書籍の『世界史A』世A301にある特集「国家と民族」など)。
 その一方でグローバル・ヒストリー全体に感じてきたのは、いいようのない不安定さでもある。帰属意識の危機、とでも言おうか、自分という主体と切り結ぶことができない大きな話は、相手の心に響かないのでは?という不安感である。ではどうすれば、場所も時代も違う話を自分の問題として受け止めることができるのか。そのヒントの一つは、成田先生が最後で指摘している、「いのち」という視点かもしれない。例えば今年の東大世界史第一問でも、「では日本の女性参政権はどうだったのか?君たちの祖母、曾祖母の時代は?」という問いにつなげれば、十分グローバル・ヒストリーたり得る。これから世界史を語るには、「今、ここから」という視点が不可欠だと思われる。「歴史総合」が成功するか否かは、この視点にあるのではないだろうか。
 先日、鹿児島大学文系後期(2016年度)の小論文の添削指導を行っていて、興味深い文章に出会った。課題文は入江 昭氏の『歴史家が見る現代世界』(講談社、2014)で、国際関係を国家を単位で捉えることに警鐘を鳴らし、これまで国同士の対立を助長する傾向があったナショナリズムを、人類共通の諸問題の解決に積極的に関わり、結びつけるようなナショナリズムに転換していくべきことを述べている。明らかにグローバル・ヒストリーの視点を意識した文章で、入江昭氏については本号でも岡本充弘氏が「グローバル・ヒストリーの可能性と問題点――大きな歴史のあり方」の中で触れているが、(32㌻)、岡本氏が本号の別の箇所(「思想の言葉」)で、ナショナリズムのマイナス面を強調してるのは興味深い(入江昭氏については、秋田茂先生も前述の「イギリス帝国とヘゲモニー」で触れている)。
 岡本氏の論考や、岸本美緒氏の「グローバル・ヒストリー論と「カリフォルニア学派」」を読んで感じるのは、グローバル・ヒストリーに対し「反対ではないが、少し整理が必要では」という問題意識であった。高校で世界史を担当する我々も、グローバル・ヒストリー礼賛に終わらず、ツールとして使うまでの工夫が必要なのかもしれない。

 私が書いた文が収録されている『地域から考える世界史』(勉誠出版)との関連では、小川先生が紹介している「下からの」グローバル・ヒストリーの可能性(リン・ハントによる)が興味深い。とはいえ、ローカルとグローバルのつながりといえば聞こえはいいが、一方で他の地域の人にとっては重要な問題とはならないかもしれない。このことに関しては、成田先生が述べている「メタ通史」の考えが参考になる。

 歴史学の成果を歴史教育にどう生かしていくのか。かつて『世界史をどう教えるか』(山川出版社)という本を手の取ったが[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2008-06-15]、私の関心からは少し外れていた。言い換えれば、歴史学と歴史教育はどのような関係にあるべきなのか、というのが私の関心事の一つであり、この点でもこの鼎談は興味深かった。

 先日恩師の退官記念最終講義に出席してきたが、次のように語っていた。
「歴史学には、英国史も日本史もない。あるのは歴史だけだ。ある時期から私はそう語るようになりました。歴史学は、史料の解釈学です。なるほど、史料には地域性があります。しかし、ほとんどのものは、近代に至るまで現代的意味での国境がないのです。歴史家は、とくに海外の歴史を専門とする歴史家は、「帰属意識の危機」を胸に秘めつつ、国境を越えたフラタニティ(兄弟団)を作り、せっかく生き残ってくれた史料を、「死者の声」を、誰もが接近できる共有の「世界遺産」として、必ずしも同じ関係でというわけではないが、共同作業的に解釈を行い、いろいろな言葉で、いろいろな場所で物語っていくべきでしょう。これが私の考える「グローバル・ヒストリー」です。「グローバル・ヒストリー」は、方法論の問題ではありません。それは歴史学者の仕事です。しかし歴史家にとっては、それは態度、あるいは立ち位置、あるいは「考察様式」の問題なのです。」
「史料を残した過去の人々、亡くなった人々は、われわれの解釈を批判し、抗弁できない。だから歴史学は、全身全霊をこめて、自分と過去と現在を疑う批判の徒でなければならないのです。しかし、歴史学は同時に、主知主義的で、観察者の内在的な、心からの「問題」関心を無視した、研究史上のお仕着せの問題意識を解決することも使命としています。歴史学者とはそういうものです。それは否定しない。しかし、わたしは、学界という制度の、いわば研究常識と権威にとらわれず、「自分の頭と足で、問題を発掘する」歴史家(Antiquary)に憧れています。そして残りの人生をかけて、そういう歴史家になれたら本望です。」

 歴史教育に携わる者は、歴史学者による歴史学の成果を尊重しつつ、恩師の言う「歴史家」たるべきなのかもしれない。最終講義では「多様な過去の「世界」に対峙できない者は、未来を見ることはできない」というミヒャエル・エンデの『モモ』の一節が紹介されたが、「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります」というドイツの故ヴァイツゼッカー大統領の有名な演説を思い出す。学部生の頃、教養部のT先生の授業で講読した演説(今年の大阪大学の問題(文学部)で使用された演説は、このとき(1985年5月8日)のものではない)。「過去と真摯に向き合えない人は、現在も未来も見通すことができない、それはなぜ?」という問いに対する答えを、生徒たちがそれぞれに見つけることが出来るような授業、私にはそれができるのだろうか。

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今年の九州大の問題 [大学受験]

[1]
 偶像崇拝と多神教を否定し唯一神を信仰する一神教の成立は、世界史上でもっとも重要な出来事の一つといえる。中東・西アジア地域で誕生した三つの一神教はそれぞれ聖典をもち、いずれも迫害や苦難の中から自己形成を遂げて成立した。その後、強い求心力を持つこれら三つの一神教は人類の歴史のなかで大きな役割を演じ、現在これらの信徒の合計は、世界人口の半数以上を占めるに至っている。これら一神教の成り立ちと性格について適切に理解することは、現代に生きる我々にとって必須の課題であるといえよう。
 以上を踏まえ、これら三つの一神教の成立過程について、以下のキーワードをすべて用いて説明せよ。説明にあたっては、各宗教が既存社会の圧力の中でどのように自己形成を遂げたか、あとから登場した宗教が先行する宗教の聖典をどのように位置づけていたか、に留意すること。説明は600字以内とし、使用したキーワードには波線を引くこと。キーワードは何度用いてもよい。
【キーワード】
 ヒジュラ  モーセ  イスラエル国  ピラト  パリサイ派  啓典の民 ダヴィデ  隣人愛


 問題の要求は、ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教について以下の3点。
 ①成立過程   
 ②既存社会の圧力の中でどのように自己形成を遂げたか
 ③既存社会の圧力の中でどのように自己形成を遂げたか
600字なので、200字・200字・200字の構成プランで進めたい。

【ユダヤ教】
モーセ・・・出エジプト→唯一神ヤハウェによる十戒
パレスチナにヘブライ王国を形成→ダヴィデ王の繁栄
王国分裂→イスラエル国の滅亡→バビロン捕囚
民族的苦難の中でユダヤ教が成立  選民主義と律法主義 「旧約聖書」
【キリスト教】
ナザレのイエス・・・ユダヤ教の律法主義を批判→普遍的な神の愛と隣人愛を説く
ユダヤ教パリサイ派による批判→ローマ帝国の総督ピラトにより処刑→唯一神の子イエスの復活の信仰→使徒による布教→ローマ帝国による迫害→公認と国教化 「新約聖書」
【イスラーム教】
メッカの商人ムハンマド・・・ユダヤ教・キリスト教の影響を受け唯一神アッラーに帰依するイスラーム教を創始→メッカの支配層から迫害→ヒジュラ→メッカ回復
ムハンマドの死後、正統カリフ時代にイスラーム教は拡大・・・啓典の民
         
【私の解答例】
モーセに率いられてエジプトを脱出したヘブライ人は、唯一神ヤハウェと契約を結び、パレスチナにヘブライ王国をたてた。ダヴィデ、ソロモン王の時期に全盛期を迎えたものの、王国は分裂し、このうちユダ王国は前6世紀に新バビロニア王国に滅ぼされ、バビロン捕囚が起こった。解放後パレスチナに戻ったヘブライ人は選民思想と律法主義を特色とし、「旧約聖書」を聖典とするユダヤ教を形成した。後1世紀、ローマ帝国支配下のパレスチナで、ユダヤ教の律法主義を批判したのがイエスである。普遍的な神の愛と隣人愛を説いた彼は、メシアとみなされたものの、律法を重視するパリサイ派の反感を買い、総督ピラトにより処刑された。しかし唯一神の子イエスの復活を信じる人々により、「旧約聖書」に加えて「新約聖書」を聖典とするキリスト教が形成され、ローマ帝国領に広がった。当初は迫害されたが4世紀初めに公認され、さらに帝国の国教となった。7世紀、アラビア半島のメッカに生まれたムハンマドは、ユダヤ教・キリスト教の影響を受けて、唯一神アッラーへの絶対的帰依を説くイスラーム教を創始した。迫害を受けた彼は、622年にメディナへヒジュラを行い、宗教共同体を形成した。イスラーム教は、「旧約聖書」「新約聖書」も「コーラン」に先んじた預言の書とし、両教徒は「啓典の民」として一定の条件の下、信仰が認められた。

 ユダヤ教のヤハウェ、イエスの父、イスラーム教のアッラーはいずれも同一であることは知っておいた方がよい。元国連事務総長のブトロス=ガーリ氏(任1992-96)はエジプト出身でキリスト教徒(コプト正教会)であるが、母語はアラビア語であり、自らの神を呼ぶときには「アッラー」の呼称を用いた。彼の名「ブトロス」は、十二使徒の一人であるペトロのことである。


 今年の九大世界史は[1]よりも[2]の方が興味深かった。イングランド~イギリス国王の紋章を使った問題である。『週刊朝日百科 世界の歴史』で森護さんによる英国王の紋章の解説を読んで以来紋章(the coat of arms)に興味を持ち、20年くらい前から百年戦争の授業で紋章を使っている[http://www005.upp.so-net.ne.jp/zep/sekaisi/jyugyou/monsyou.html]。3年ほど前には、NHK「ファミリーヒストリー」のプロデューサーという方から「イギリス東部のNorwich(ノリッジ)という地域のイングロットINGLOTT家の紋章を解読して欲しい」という依頼があった。番組を見ていないが、いったい誰のファミリーヒストリーだったのだろう。

[2]の問1
 西欧では、おおよそ12世紀を通じて次第に紋章が確立し、その後現在に至るまで、王家をはじめとする家系や団体等において使用され続けている。資料1の図像(リチャード1世、ヘンリー4世、ジェームズ1世、ジョージ1世、ヴィクトリア女王のそれぞれの紋章)を解説しながら、それぞれの王の系譜、統治の意識について、260字以内で述べなさい。

この問題に対する各予備校の解答例、私の評価
 1位:代ゼミ
 2位:駿台予備校
 3位:河合塾
 河合塾の解答例からは「統治の意識」が読み取れないので、最下位。代ゼミを1位とした理由は、
 ①アイルランド王の紋章について、ジェームズ1世とジョージ1世の違いに触れている
 ②ヴィクトリア女王の紋章に対する説明が、駿台よりも明確である
の2点による。

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今年の東大の問題 [大学受験]

【第1問】  近現代の社会が直面した大きな課題は、性別による差異や差別をどうとらえるかであった。18世紀以降、欧米を中心に啓蒙思想が広がり、国民主権を基礎とする国家の形成が求められたが、女性は参政権を付与されず、政治から排除された。学問や芸術、社会活動など、女性が社会で活躍する事例も多かったが、家庭内や賃労働の現場では、性別による差別は残存し、強まることもあった。  このような状況の中で、19世紀を通じて高まりを見せたのが、女性参政権獲得運動である。男性の普通選挙要求とも並行して進められたこの運動が成果をあげたのは、19世紀末以降であった。国や地域によって時期は異なっていたが、ニュージーランドやオーストラリアでは19世紀末から20世紀初頭に、フランスや日本では第二次世界大戦末期以降に女性参政権が認められた。とはいえ、参政権獲得によって、女性の権利や地位の平等が実現したわけではなかった。その後、20世紀後半には、根強い社会的差別や抑圧からの解放を目指す運動が繰り広げられていくことになる。  以上のことを踏まえ、19~20世紀の男性中心の社会の中で活躍した女性について、また女性参政権獲得の歩みや女性解放運動について、具体的に記述しなさい。解答は、解答欄(イ)に20行以内で記述し、必ず次の8つの語句を一度は用いて、その語句に下線を付しなさい。
キュリー(マリー)  産業革命  女性差別撤廃条約(1979)  人権宣言  総力戦  第4次選挙法改正(1918)  ナイティンゲール フェミニズム




 要求は「19~20世紀の男性中心の社会の中で活躍した女性について」と「女性参政権獲得の歩みや女性解放運動について」具体的に記述すること。中谷臣先生の『世界史論述練習帳』にあるように、「要求されたことは目一杯書く、それ以外は書かない」。したがって、要求へ指定語句を(時には力業ででも)結びつけていく。
 駿台の解答例のように「人権宣言」の語句を肯定的に使うことには疑問を感じる。世界史Aの教科書にも載っているグージュの活動を見れば明らか。裏技的だが、代ゼミの解答例のように「世界人権宣言に男女の同権が盛り込まれたが、実態として女性の社会進出は途上であった」としたほうがずっといい。リード文に「学問や芸術、社会活動など、女性が社会で活躍する事例も多かったが、家庭内や賃労働の現場では、性別による差別は残存し、強まることもあった」とあることから、ナイティンゲールやキュリー夫人も、肯定的には使わなかった。『世界史論述練習帳』にあるように、「課題に合致するデータを集めてくる」べき。
 「産業革命」と女性の地位との関係は、昨年実施された大学入学共通テストのプレテスト問題24が参考になる。[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2017-12-09]
 「フェミニズム」は、駿台の分析にもあるように「ウーマンリブ」と同義語で使うのが書きやすいが、本来ウーマンリブはフェミニズムの一形態であり、各社の資料集に載っているメアリ=ウルストンクラフトやグージュもフェミニストである。



【私の解答例】
女性参政権は近代に入っても認められず、フランス革命の人権宣言は普遍的人権を主張したものの、その対象は男性のみで女性は除外されていたため、フェミニズムが高まった。また産業革命で固定化した職住分離は良妻賢母の専業主婦を理想像とし、一方で女性労働者の賃金は低く抑えられていたため、19世紀前半まで女性の社会的地位は低かった。クリミア戦争で傷病兵の看護に従事し、近代看護学の基礎を築いたとされるナイティンゲールの活躍も、女性の政治的権利の向上には寄与しなかった。こうした状況に変化をもたらしたのは、第一次世界大戦である。第一次世界大戦は総力戦となったため女性の労働力は重要性を増し、このため女性の社会的地位は向上した。女性初のノーベル賞を受賞したキュリー(マリー)も、積極的に戦争に協力した。こうした動きは女性の参政権獲得に道を開き、イギリスでは第4次選挙法改正(1918)で初めて女性参政権が認められ、アメリカでも第一次世界大戦後に認められた。しかし性差による女性への社会的な差別は依然として続いたため、1960年代後半からベトナム反戦運動や公民権運動と並んで、女性を社会的差別から解放しようとするウーマンリブが世界的に広がった。女性差別撤廃条約(1979)はその成果の一つであり、近年ではジェンダーに対する意識も進んでいるが、イスラーム世界など女性の法的地位が男性よりも低い地域もなお残存している。


 一昨年10月、私が2年生の世界史Aでグージュを使って行ったフランス革命の授業の概要は、高大連携歴史教育研究会第二部会の教材共有サイト[https://sites.google.com/site/dai2bukai4all/home]の「ジェンダー史」の項目にアップしてある。


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『ウィンドトーカーズ』から『硫黄島からの手紙』 [授業ネタ]

今年の2年生世界史Aは進度が遅く、19世紀から太平洋戦争まで映画を使って無理矢理駆け抜けたという話。

 19世紀の「アメリカの発展」の部分で例年見せている映画はデンゼル・ワシントン&モーガン・フリーマンの『グローリー』だが、今年は先住民をテーマとしたニコラス・ケイジの『ウィンドトーカーズ』[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2006-12-28]にした。いま話題の福山雅治主演『マン・ハント』のジョン・ウー監督という話題性もある、ということで。
 見せた部分は以下の通り。
・ナバホ族のヤージーが居留地から軍の迎えのバスに乗り込む冒頭のシーン。
・ナバホ族に対する暗号通信訓練のシーン。
・サイパン島で暗号通信を行い、戦艦の艦砲射撃を支援するシーン。
・水浴びをしていたヤージーが、日本人に似ているという理由で殴られるシーン。
・大佐から称賛され勲章を受けるのはエンダースだけでヤージーは無視されるシーン。
・ヤージーが「戦争が終わったら教師になって米国史を教えたい」というシーン。
・サイパン島で日本人が住む村に米軍が拠点をつくるシーン。

本校では実教出版の世界史A教科書を使っているが、太平洋戦争のページにはサイパン島を中心にした地図が掲載されており、サイパン島から硫黄島に矢印が向いている。「これは使える」と思い、予定を変更し『ウィンドトーカーズ』に続いて『硫黄島からの手紙』を見せることにした。
 事前に話した内容は以下の通り。
・サイパン島に日本人が住む村がある理由(マリアナ諸島が日本の委任統治領となった経緯)の説明
・サイパン島の戦略的重要性の説明
・昭和19年7月19日付讀賣報知新聞と毎日新聞のサイパン島玉砕を報じる記事を使い、バンザイクリフ、スーサイドクリフの説明

『硫黄島からの手紙』で見せたのは以下の通り。
・特典映像のアメリカが制作した硫黄島の戦いのドキュメンタリー。
・現代の硫黄島調査隊が何かを掘り出すシーン。
・大便を捨てに行った西郷が米軍の艦隊を見つけるシーン。
・米軍上陸のシーン。
・栗林中将が突撃前に部下に訓辞を行うシーン。
・冒頭で調査隊が掘り出したものの中身がわかるラストシーン。

栗林中将の自決を見届けた西郷の頬を涙が伝うシーンは、『グローリー』でデンゼル・ワシントンが涙を流すシーンと同じくらい胸が詰まるが、見せるのはちょっと生々しいか。


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マルセイユ版①~グリモー版とカモワン版 [コレクター道⑦タロットカード]

 マルセイユ版タロットとは、17世紀ころからヨーロッパで大量生産されはじめたタロットカードで、現在のタロットカードのモデルとなったセットである。様々なヴァリエーションがあるが、なかでもメジャーなのが「グリモー版」と「カモワン版」の二つ。いずれもニコラ・コンヴェル(ニコラス・コンヴァー)が18世紀後半に作ったとされるセットをもとにしている。

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「魔術師」「愚者」の比較。左からグリモー版、カモワン版、ニコラス・コンヴァー版。


「グリモー版」
 フランス・カルタ社から発売されているタロット。20世紀に入り、機械印刷にふさわしいデザインのセットとして同社のポール・マルトーによってつくられた。創業者の名前ポール・グリモーから「グリモー版」と呼ばれる。

「カモワン版」
 フランスのカモワン社から発売されているタロット。婚姻によってニコラ・コンヴェルの版木を継承したカモワン家の末裔フィリップ・カモワンが、タロット研究家である映画監督のアレハンドロ・ホドロフスキーとともにつくったセット。完成は1997年である。描かれた人物の視線を重視するなど、独特の占い方法がある。


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「グリモー版」と「カモワン版」はよく似ているため、私はすぐにわかるように「Grimaud」「Camoin」というタグを作った。



【タロットの古典“グリモー版”】マルセイユタロット(仏文)

【タロットの古典“グリモー版”】マルセイユタロット(仏文)

  • 出版社/メーカー: FRANCE CARTES/France
  • メディア: おもちゃ&ホビー



【タロットの古典“グリモー版”】マルセイユタロット(英文)

【タロットの古典“グリモー版”】マルセイユタロット(英文)

  • 出版社/メーカー: France Cartes/FRANCE
  • メディア: おもちゃ&ホビー



【カモワン家の秘伝タロット】カモワンタロット(カードのみ)

【カモワン家の秘伝タロット】カモワンタロット(カードのみ)

  • 出版社/メーカー: Lo Scarabeo/ITALY
  • メディア: おもちゃ&ホビー









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ヴィスコンティ・スフォルツァ版②~キャリー・イェール・パック [コレクター道⑦タロットカード]

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 アメリカのイェール大学(コネチカット州)のベイネック図書館が所有しているデッキ。キャリー家のトランプ・コレクションのひとつだったことから、「キャリー・イェール・パック」ともよばれる。このパックはミラノ公フィリッポ・マリア・ヴィスコンティ(1392~1447)の依頼で作られたという説があり、彼は「ピアポント・モルガン・パック(ベルガモ・パック)」を作らせたとされるフランチェスコ・スフォルツァ(1401~1466)の舅にあたる。フィリッポ・マリア・ヴィスコンティの娘ビアンカ・マリア・ヴィスコンティとフランチェスコ・スフォルツァが結婚したことで「ヴィスコンティ・スフォルツァ」となった次第。以上の来歴から、「キャリー・イェール・パックは、ピアポント・モルガン・パックよりも古い」という説もあり、だとするとこの「ヴィスコンティ・スフォルツァ版のキャリー・イェール・パックが最古のタロット」ということになる。しかし大アルカナは11枚しか残存せず、全67枚がすべてで、私が持っているU.S.GAME社製も別のカードを補ってある。キャリー・イェール・パックとピアポント・モルガン・パックを並べてみると、同じヴィスコンティ・スフォルツァ版でも「似てるけど違う」という感じが興味深い。

イェール大学ベイネック図書館のキャリー・イェール・パック
http://beinecke.library.yale.edu/collections/highlights/visconti-tarot


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キャリー・イェール・パックとピアポント・モルガン・パックの「魔術師」と「恋人」。いずれも左側(若干サイズが大きい方)がキャリー・イェール・パック。魔術師の服のデザインや、恋人の頭上のクピド(キューピッド)などはよく似ている。 キャリー・イェール・パックの「恋人」には、パラソルにヴィスコンティ家の紋章ピジョ-ネ(人を飲み込む大蛇)が見える。このピジョーネの紋章はスフォルツァ家に受け継がれ、ミラノに本社を置く自動車メーカー、アルファロメオの社章にも使われている。





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「アメリカ合衆国の発展」の授業 [授業ネタ]

 昨日(2018年1月7日)の新聞に掲載されていた「世界名作味の旅⑩~『大草原の小さな家』のアップルパイ」は、興味深い記事だった。これまで「アップルパイはイギリスのお菓子」というイメージがあったため、アメリカのソウルフード的存在だとは知らなかった。Wikipediaによれば「アップルパイはアメリカを代表するデザートで、「アップルパイのようにアメリカ的だ ('As American as apple pie') 」という慣用句があり、日本人にとっての味噌汁同様に「おふくろの味」を連想させる。」そうだ。
 『マザーグースの絵本Ⅱ~アップルパイは食べないで』(ケイト=グリーナウェイ絵、岸田理生訳、新書館)という本が手元にあるので、「アップルパイ=イギリス」というイメージを勝手に持っていたのだが、私が思い浮かべるアップルパイはアメリカタイプだったようだ。

 19世紀後半のアメリカ合衆国を扱う「アメリカ合衆国の発展」の項目は、色々と触れておきたいことが多くて大変だ。西部への領土的な拡大のプロセスと、南北戦争をへて、19世紀末にはフロンティアが消滅して世界最大の工業国になるまでが骨組みで、これにプラスしていくことになる。例えば「アメリカ合衆国では,19世紀前半に,アメリカ労働総同盟(AFL)が結成された。」(2004年度世界史A追試)とか、「20世紀に、アメリカ労働総同盟が結成された。」(2015年度世界史B本試験)などセンター試験で問われるAFLの結成時期(1886年)については、「アメリカが世界最大の工業国となった時期を考える」ということでおさえることは可能だろう。
 19世紀後半のアメリカでプラスしたいのは、先住民問題とアフリカ系の問題。最近は「インディアン」とか「黒人」という語句を使わなくなってることも切り口としてはいいかも。とはいうものの、体系化してまとめるのは、なかなか難しく感じている(アメリカ出身のALTによれば、「日本の世界史の資料集は、アメリカの高校生が使っている歴史の教科書よりずっと詳しい」そうだ)。
 『タペストリー』(帝国書院)、『グローバルワイド』(浜島書店)、『世界史のミュージアム』(とうほう)など年表にアフリカ系・先住民関連事項を時系列で並べて別枠で組み込んでいる資料集もあり、少し工夫すればうまく構成できるような気もする。『グローバルワイド』も「国民国家アメリカへの統合」という特集ページで、先住民問題と奴隷解放の写真記事が掲載されているが、補足のネタとしては、『ミューアジアム』が、「映画に描かれた先住民と黒人奴隷」というコラムで紹介している『グローリー』と『ダンス・ウィズ・ウルブズ』を使いたいところ。浜島書店の『NEW STAGE』では、以前『ソルジャー・ブルー』が紹介されていたが、授業で使うのは少々難しい気がする[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2009-10-20]。私が持っていた『グローリー』(SUPERBIT版)は日本語吹替がはいってない版だったので、最近吹替収録版を購入(中古市場では非常に安価だった)。以前紹介した、山川の『歴史と地理』432号(1991年8月)に掲載されている『グローリー』を用いた授業遊展開例(「歴史を観る-映画を駆使した授業」)が、うまく使えそうだ。

 『大草原の小さな家』に関しては、『タペストリー』と『アカデミア』に紹介されているが、いずれも肯定的なニュアンス。したがって、新聞記事にある「物語の中には、先住民に対する蔑視や偏見がにじんだ表現もある」という視点で、当時の人々に見られた一般的な先住民観を紹介する材料としたい。福音館から発行されている『大草原の小さな家』を読んでみたが、収録されている全26話のうち6つのエピソードが「インディアン」の語句を含むタイトルになっている。巻末に「アメリカ・インディアンのこと」という解説が収録されているが、筆者は故清水知久先生。小学生向けの文章ながら、筆致は鋭い。清水先生の文章の中に、「おかあさんといっしょ」で流れていた「インディアンが通る」という歌について触れてあるが、youtubeで聴いて私も思い出した。


 とはいえ、断罪するだけで終わるのは不十分な気がする。異質なものを否定し排除しようと姿勢は、現在でも見られるのではないか?と問いかける材料にしたい。
 
 年末休み中に読んだ、小田中直樹編『世界史 / 今、ここから』(山川出版社)の終章に以下のような記述があり、とても心に残った。

 好むと好まざるとにかかわらずグルーバル化の波に巻き込まれ、その結果、さまざまな側面で「わたしたち」と異なる「彼ら」と接触し、共存せざるをえない「21世紀の世界の一部としての日本」という時空間に生きる者にとって、何よりも大切なのは「私たちが正しい」という自己万能観でもなく、「彼らが正しい」という劣等感でもなく、さらにいえば「みんな違ってみんないい」(金子みすゞ)という単純な相対主義でもなく、「わたしたち」の常識も「彼ら」の言い分もいったん疑ったうえで、可能な限り適切な根拠と論理に基づいて自分の立場を選び取る、というスタンスである。その際、通常は「彼ら」の言い分を疑うことは簡単だから、まずもって意識的に試みるべきは「わたしたち」の常識を疑うことである。そのために必要な能力こそ、わたしたちが身につけるべき教養の一環をなし、さらにいえばその中核をなす。

 「可能な限り適切な根拠と論理に基づいて自分の立場を選び取る」ために必要な努力を惜しまないようにしたい。



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『母をたずねて三千里』 [授業ネタ]

 イタリアの少年マルコが、アルゼンチンに出稼ぎに行った母を探す物語「母をたずねて三千里」は、「移民の世紀」と呼ばれる19世紀の時代状況を反映したものである。①当時、イタリアでは大きな政治的・社会的変動が生じており、多くの人々が、②南北アメリカ大陸へ移住した。とりわけアルゼンチンのイタリア系移民は、パンパと呼ばれる大平原において、工業化で人口増加が進むヨーロッパ向けの小麦や牛肉を生産し、独立後の国家の経済を支えた。さらに、タンゴやサッカーといった文化の発展に影響を与えるなど、③アルゼンチンの歴史に大きな足跡を残している。

問1 下線部①に関連して、19世紀のイタリアで起こった出来事について述べた次の文章中の空欄( ア )と( イ )に入れる語の組合わせとして正しいものを、下の①~④のうちから一つ選べ。

 イタリアは、( ア )王国を中心に統一されたが、新しい政治体制や社会の変化に反発した人も少なくなかった。特に( イ )の赤シャツ隊によって軍事的に征服された南部からは、貧困問題もあって、多くの人々が移民として流出した。

 ①  ア-サルデーニャ   イ-ガリバルディ
 ②  ア-サルデーニャ   イ-マッツィーニ
 ③  ア-両シチリア    イ-ガリバルディ
 ④  ア-両シチリア    イ-マッツィーニ
2016年度センター試験 世界史A 本試験 第3問A


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 アニメ「母をたずねて三千里」はフジテレビ系で日曜午後7時30分から放送されていた「世界名作劇場」の一本として、1976年1月~同年12月まで、52回にわたって放送された。場面設定・レイアウトに宮崎駿、監督は「アルプスの少女ハイジ」の高畑勲という強力なスタッフである。イタリアのジェノバに住む少年マルコが、アルゼンチンに出稼ぎに行った母親アンナを探して白い猿のアメデオとともに旅に出るというストーリーだが、個人的にはマルコの父、ピエトロの声を演じた川久保潔氏が、NHKの人形劇「新八犬伝」で「忠」の珠を持つ火遁の術の達人、犬山道節の声を担当していたので好きだった。主題歌を歌う大杉久美子氏は、「ハイジ」や「フランダースの犬」、「あらいぐまラスカル」などのテーマも歌ってた。

 アニメ「母をたずねて三千里」は、浜島書店の世界史資料集『NEW STAGE 世界史総覧』にも紹介されていた。原作はイタリアの作家エドモンド・デ・アミーチスによって1886年に書かれた愛国小説『クオレ』で、「三千里」はこの中の一章分を脚色した作品。このアミーチスという人、結構な愛国者で、14歳にしてガリバルディの千人隊(赤シャツ隊)に志願したほど。(ただし幼すぎとして断わられたとか)。

 実際小説版(「アペニーノ山脈からアンデス山脈まで」という副題がついている)を読んでみたが、なんとなく暗い感じのストーリー展開である。『クオレ』全体が道徳的な雰囲気を持っているが、「ロンバルディアの少年監視兵」「ガリバルディ」といったタイトルの短編は、日本の小学生には難しいのではないだろうか。前者の書き出しなど、「1859年、ロンバルディア解放のための戦争のとき、ソルフェリーノとサン・マルティーノの戦争で、フランスとイタリアの連合軍がオーストリア軍をうちやぶってから数日ののち....」という具合だ。

 なぜイタリアからアルゼンチン?このアニメの時代設定は、1882年となっている。この時期アルゼンチンでは、冷凍船の発明によってパンパでの放牧がさかんとなり、ヨーロッパ向けの食肉輸出が増加する。アンモニア冷凍設備をつけた食肉運搬船が就航したのは1876年だそうだが、まもなく冷凍施設付きの屠殺場も普及、また鉄道網が発達したことから肉の輸出も容易となった。政府は外国からの移民の土地取得を容易にするなど、移民の受入れに積極的だったことが、アルゼンチンへの移民が増えた理由のようである。こうした農畜産業の大規模な発展を理由に、ヨーロッパ(特にスペイン・イタリア)からの大量の移民が増えたということらしい。「工業化で人口増加が進むヨーロッパ向けの小麦や牛肉を生産」とは、まさに世界的な分業体制=世界システム。ただ、一般に世界システム論では「周辺は中核に従属する」と考えるので、中核から周辺に出稼ぎというのも少々違和感が残る。しかし、かつてアルゼンチン共和国大使館のウェブサイトには、

 「20世紀の初頭、アルゼンチンは経済的に成功した国となりました。年平均経済成長率が6%という時期が30年間続いた結果、ヨ-ロッパの人々が移住先としてアルゼンチンとアメリカ合衆国のどちらを選ぶか迷う程魅力的な国へと成長したのです。」

 「19世紀末頃には、イタリア、スペインをはじめとするヨーロッパからの移民が大幅に増加し、政治の世界でも大衆の代表を増やすよう求める声が強くなっていきました。」

という記述があった(現在は削除されてる)。移民の誘致政策がとられるようになった1860年代後半から以後の50年間に、ヨーロッパから約250万人の移民がアルゼンチンを訪れたということなので、大変な数だ。「三千里」でも、アルゼンチンに到着したマルコが「イタリア語ともロンバルディア語ともつかないことば」で話しかけられたり、移民たちが集う「イタリアの星」という宿屋でイタリア系移民たちからカンパしてもらうシーンがある。
 
 紹介したセンター試験のリード文に「タンゴやサッカーといった文化の発展に影響を与える」とある。移民から好まれたタンゴには、イタリア語からの借用語が多いという。これをルンファルド(Lunfardo)とよび、移民が多かったブエノスアイレスで使われることが多いらしい。イタリア系アルゼンチン人のサッカー選手といえば、なんといってもリオネル・メッシ。それに現ローマ教皇フランシスコもイタリア系アルゼンチン人。サッカーW杯は近いし、先日教皇フランシスコが「焼き場に立つ少年」の写真を配付するよう指示したというニュースが流れた。「サッカーアルゼンチン代表メッシと、ローマ教皇フランシスコの共通点は?」という問いかけからスタートして、最後は映画「山猫」を見せてイタリア統一の授業をしめくくりたい。設問の文章「新しい政治体制や社会の変化に反発した人も少なくなかった」「赤シャツ隊によって軍事的に征服された南部」という言葉が実感できるだろう。


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ヴィスコンティ・スフォルツァ版 [コレクター道⑦タロットカード]

 最初にタロットに触れたのは、大学時代に天野喜孝の画集で彼が描いたタロットのシリーズを目にしたときで、最初に買ったタロットも天野氏がデザインしたカードセットだった。

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 本格的な占いをやるわけではないが、タロットの不思議な図柄には魅了される。タロットには様々なヴァリエーションがあるが、現在手元にあるのは大きく分類すると以下の3種類。

(1)ヴィスコンティ・スフォルツァ版
 イタリアのミラノ公フランチェスコ・スフォルツァ(ヴィスコンティ家の娘を妃に迎えた)の注文によって作られたとされるタロットで、現存する最古のタロットとされる。十数個のセットが残されているが、いくつかのヴァリエーションがあり、また現在のデッキと比較するといずれも欠落がある。

(2)マルセイユ版
 16世紀頃からフランス・マルセイユを中心に生産されていたタロット。古典的なタロットであるが、もともとは賭博用であり、占いに使われるようになったのは後のことだと言われている。

(3)ウェイト版(ウェイト=スミス版、ライダー版)
 魔術研究家アーサー・エドワード・ウェイト(1857~1942)がデザインし、パメラ・コールマン・スミス(1878~1951)がイラストを描いたタロット。1909年にロンドンのライダー社から発売されたことから、ライダー版とも呼ばれる。最も広く普及しているタロット。


 「現存する最古のタロット」とされるヴィスコンティ・スフォルツァ版を作らせたミラノ公フランチェスコ・スフォルツァの名を最初に知ったのは、高階秀爾氏の『ルネッサンス夜話』(平凡社)であった。フランチェスコ・スフォルツァは傭兵隊長から身を興し、ミラノ公にまでのし上がった人物である。傭兵隊長というと三十年戦争や佐藤賢一氏の小説などで、粗野な荒くれ者というイメージが強いが、彼は武勇に優れたのみならず、人間としても魅力的な英雄だったという。高階氏曰く「傭兵隊長の花の時代の最後をを飾る存在」だった。「ルネサンス」という言葉を定着させたブルクハルトや、マキャヴェリも『君主論』で彼を高く評価している。フランチェスコ・スフォルツァの息子ルドヴィコ(1452〜1508)の時代にミラノでは文芸がおおいに栄え、レオナルド=ダ=ヴィンチもルドヴィコの宮廷に招かれた。ダ=ヴィンチはルドヴィコの依頼で、フランチェスコの偉業をたたえる騎馬像を作成しようとしたが、未完成におわり現存していない(名古屋国際会議場に復元された象がある)。このような文芸を好む雰囲気が当時は強かったので、アートとしてのタロットが作られたことも頷ける。

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 現存するヴィスコンティ・スフォルツァ版は3種類あるが、アメリカのモルガン図書館(ピアポント・モルガン・ライブラリー)などが収蔵してる「ピアポント・モルガン・パック(ピエールポント・モルガン・パック)」を復刻したデッキ。この版は「フランチェスコ・スフォルツァ・パック」とか「ベルガモ・パック」とも呼ばれており、「悪魔」など4枚のカードが失われている。現在「ヴィスコンティ・スフォルツァ版」と称して売られているタロットは、このデッキがモデルになっており、欠落した4枚のカードも別デザインで補填されているため実際の占いにも使用可能である(しかしサイズが大きく実用向きではない)。復刻したのは、イタリアのIl Meneghello社。823/1000というナンバーがはいっている。


モルガン図書館に収蔵されているヴィスコンティ・スフォルツァ版データ
http://www.themorgan.org/collection/tarot-cards

Il Meneghello社のフェイスブック
https://www.facebook.com/IlMeneghello/

名古屋国際会議場のフランチェスコ・スフォルツァ像
http://www.nagoya-congress-center.jp/organizer/about_us/



【最古のタロットカードの復刻版】ヴィスコンティ・スフォルツァ版タロット

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  • 出版社/メーカー: U.S. GAMES SYSTEMS, INC./U.S.A.
  • メディア: おもちゃ&ホビー









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『ルートヴィッヒ』(ルキーノ・ヴィスコンティ監督、1972年、イタリア・フランス・西ドイツ合作) [歴史映画]

【映画について】
 19世紀南ドイツのバイエルン王ルートヴィヒ2世の即位から死までを史実に沿った形で描く歴史大作。ヴィスコンティ作品に見られる絢爛豪華な貴族趣味が最も端的に表現された、耽美的で重厚な作品。オリジナルは4時間もの大作であったが、監督自身の手で3時間に短縮された。劣化したフィルムが修復され、現在はオリジナル版がDVDにも収められている。

【ストーリー】
https://movie.walkerplus.com/mv49045/

【見所など】
 手元にある高校世界史の資料集における「ドイツの統一」の項目を見ると、いずれもルートヴィヒ2世についての記述とノイッシュヴァンシュタイン城の写真が掲載されている(第一学習社の『グローバルワイド』、帝国の『タペストリー』、浜島の『アカデミア』) 。おそらく、ノイッシュヴァンシュタイン城が東京ディズニーランドのシンデレラ城のモデルとなったからだろう。『グローバルワイド』だけルートヴィヒ2世の肖像が掲載されていないが、奇妙なヘアスタイルを含めて、ヘルムート・バーガー演じるルートヴィヒ2世は、現在残されている写真を見ると、実物そっくりである。
 ヴィスコンティ作品では、『山猫』がイタリアの統一をテーマとしており、この『ルートヴィヒ』はドイツの統一がテーマ。ということでこの2本、私の中では同時代のヨーロッパを描いた2本セットの映画である。冒頭ルートヴィヒのバイエルン王戴冠式のシーンでは、プロイセンやオーストリアの大使が訪れていることから、まだ統一前であることがわかり、ローマ教皇が参列していることからは、彼がカトリックであることもわかる。一方彼の母、マリー王太后はプロイセン出身ゆえプロテスタント。普墺戦争のシーンで、「オーストリアは同盟国だが、プロイセンは身内だ」言ってるのはそのため。作品中、ゾフィーに結婚の申し込みをする際、マリー王太后は「自分がプロテスタントだから相手が嫌がるかもしれないので、あなた(カトリックのホフマン神父)も一緒に来てください」と言っているが、ゾフィーもバイエルンの王族出身でカトリック。南ドイツではプロテスタントよりもカトリックが優勢であったことがよくわかる。ビスマルクの文化闘争の背景として使えそう。ゾフィーはルートヴィッヒとの婚約が解消された後、フランス七月王政のルイ=フィリップの孫と結婚した。
 授業で一番使えるのは、使者がビスマルクの意向を伝えにくるシーン。経済的支援とひきかえにドイツ帝国(連邦制国家である)への参加を要求され、苦悩するルートヴィッヒ。オーストリアとプロイセンの戦争など、ドイツ統一のいきさつを知らないと意味がわからないかもしれないが、ここが授業での使いどころという気がする。イタリアやドイツといった国民国家の形成からまだ200年もたっていないし、『山猫』『ルートヴィッヒ』を観る限り、一概に統一賛成が多かったわけではなかったようだ。

【その他】
①ヘルムート=バーガーは、1994年公開の映画『ルードウィッヒ1881』で再びルートヴィッヒ2世を演じた。
 ②ルートヴィッヒがオーストリア皇后エリザベートと久々に再会したとき、彼女は室内で馬に乗っている。もしかすると、オーストリア=ハプスブルク家に伝わる有名なスペイン式馬術(馬のバレエ)の練習中だったのか。『グローバルワイド』と『タペストリー』には、当時ヨーロッパ宮廷で最も美しいと言われたこのエリザベートの肖像画が掲載されているので(『アカデミア』には皇帝夫妻の写真が掲載されている)、作品中エリザベートを演じたロミー=シュナイダー(アラン=ドロンの元妻)を見せるのもいい。Wikipediaのエリザベート(エリーザベト)の項目には、ナポレオン3世妃ウージェニーとの興味深いエピソードが紹介されているが、『タペストリー』にはウージェニーの肖像画も掲載されており、なかなか使える。二人の肖像画を描いたヴィンターハルターは、センター試験や新テストの試行テストに使われたヴィクトリア女王一家の肖像画を描いた宮廷画家である。
 ③エリザベートの夫、オーストリア皇帝フランツ=ヨーゼフ1世については、第一学習社の『グローバルワイド』にエリザベートともに詳しい記述がある。イタリア統一戦争・普墺戦争に連敗、エリザベートやサライェヴォ事件など相次ぐ不幸にもかかわらずセルビアに宣戦して第一次世界大戦を始めた「不死鳥」。シャーロック=ホームズと同時代の彼は、エピソード「ボヘミアの醜聞」が起こった当時(1888年)のボヘミア(ベーメン)王だが、事件当時ヨーゼフ帝はすでに50歳代後半であるため、年齢的には適合しない。


ルートヴィヒ デジタル修復版 [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
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ルートヴィヒ デジタル完全修復版 [DVD]

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小田中直樹・帆刈浩之編『世界史 / いま、ここから』(山川出版社) [歴史関係の本(小説以外)]

 山川の『歴史と地理』No.708の書評を見て購入。高校世界史レベルの教養を広く一般向けに広げるために書かれた本である。雑誌『日経ビジネス』2013年2月号に、ビジネスパーソンの多くが歴史の知識を「身につけるべき教養」としてあげているという記事があったが、佐藤優氏も「基礎知識を身につける最高の本は、じつは高校の教科書と学習参考書」(『読書の技法』)と言っていた。
 本書が高校の世界史教科書と一線を画すのは、時代区分であり、以下の5つの時代で区分され、通史として叙述されている。
 1章 西アジアの時代(有史~6世紀前後)
 2章 東アジアの時代(6世紀~15世紀)
 3章 世界史の一体化の時代(15世紀~18世紀)
 4章 欧米の時代(18世紀~19世紀)
 5章 破局の時代(20世紀~今日)
 いずれの章も人・モノ・情報の移動、宗教、科学技術と環境 の3つの視点から叙述されており、2002年以降に東大世界史で出題されてきた各問題を思い出す。この3つの視点は、現代社会が直面している諸問題であり、世界の各地で起こっている対立の原因になっているため、「いま、ここから」考える上で現在的な視点だと思われる。教科書でおなじみの人名はあまり出てこないが、一方で映画、食物、地名など教科書には登場しないが心に残る記述が所々にあり、筆者陣の思いや趣味が見えるようで楽しく、またハッとさせられる。
 固有名詞を並べ立てて難しい説明をする本ではないが、内容は高水準という好著で、気がつけばここ数年間同じ授業を続けているような自分には実に刺激的な内容であった。大学入試にウェイトを置いた指導を続けていると、ともすれば大きな流れを見失いがちになってしまうが、そういった時にもよき指針となるように思える。編者の小田中先生はご自身のブログで「もともとは高等学校世界史B教科書『新世界史』のスピンオフ企画」と述べておられるので、本書で大きな流れを体感し、その後で高校の世界史教科書を読んでみると理解が深まるだろう。
 『歴史と地理』の書評で「終章から読むのもお勧め」とあったので、終章から読んでみた。歴史は役に立つのかという問題意識、また現在の歴史教育に対する問題意識は、小田中先生がこれまで発表してきた著書(『歴史学って何だ?』や『世界史の教室から』など)から続いているものだ。中でも私が印象に残ったのは、現在のグローバル化は国民国家の存在を前提として進められた非グローバル化にストップがかかった状態であるという指摘だった。私が『地域から考える世界史』に書いたことに少なからず通じる点であり、私が熊本で考えたことが「いま、ここから」の世界史であったことを誇らしく感じている。

 もっとも心に残ったのは、わたしたちにとっての教養を「「わたしたち」の常識を疑う力」と定義してみよう」という言葉であった。




世界史/いま、ここから

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  • 出版社/メーカー: 山川出版社
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『山猫』(ルキーノ・ヴィスコンティ監督、1963年、イタリア) [歴史映画]

【映画について】
 自らもイタリアの貴族である巨匠ヴィスコンティが、これまたイタリア貴族であるジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサの小説を映画化した作品。イタリア統一戦争の波が押し寄せるシチリア島の貴族サリーナ公爵を中心に、変化する社会とそれに抗いつつも順応していこうとする貴族の生活を描いた、滅びの美学を余すところなく伝える一大叙事詩である。主演のサリーナ公爵ドン・ファブリツィオ役は、名優バート・ランカスター、彼の甥タンクレディは若き日のアラン・ドロン。他、日本では彼の名前をつけたバイク「ジェンマ」が発売されるほど人気だった、ジュリアーノ・ジェンマも出演。第16回カンヌ国際映画祭(1963年)でパルム・ドールを受賞した。音楽は、『道』をはじめとするフェリーニ作品や、『ゴッドファーザー』を手がけたニーノ・ロータ。
  オリジナルは185分という長さであったため、161分の「英語国際版」が作成され、日本公開時もこの国際版が使用された。その後ヴィスコンティ没後の1981年に、イタリア語オリジナル版が公開された。しかしオリジナルのフィルムは経年劣化を起こしていたため、イタリア政府により修復されることになり、撮影監督ジュゼッペ・ロトゥンノ(フェリーニの『ひまわり』や、『オール・ザット・ジャズ』も手がけた)自らの監修により、40周年を期した『山猫―イタリア語・完全復元版』(187分)が2003年につくられた。そして2010年には、マーティン・スコセッシ監督率いるザ・フィルム・ファンデーションがイタリアのブランドGUCCIの支援のもとリマスタリングを行った「4K修復版」がつくられた。現行ブルーレイはこのマスターと、セイゲン・オノがリマスタリングした音声が使用されているが、音声にはまさかの日本語吹替(71年にテレビ朝日で使用されたもの)を収録。画面の美しさはすばらしく、後半の舞踏会のシーンでは、バート・ランカスターとアラン・ドロンの髭の一本一本や額や頬を流れる汗の粒までハッキリ見える。


【ストーリー】
1860年、イタリア統一戦争の波は、ブルボン家の王が支配するシチリア島(両シチリア王国)にも押し寄せる。そのシチリア島の名門貴族で“山猫”の紋章を持つサリーナ公爵家の当主ドン・ファブリツィオ(バート・ランカスター)は、時代の変革を実感しながらも、これまで通り優雅な生活を送っていた。一方、彼が目をかけていた甥のタンクレディ(アラン・ドロン)はカリバルディの赤シャツ隊に参加し、片目を負傷する。休暇の出たタンクレディは、避暑に向かうサリーナ公爵一家と合流し、そこで新興ブルジョワジーの娘アンジェリカと出会い恋に落ちるのだった。周囲の反対を抑え、若い二人の婚約を後押しするサリーナ公爵。それは公爵家の存続と将来を見据えた上での決断であった。

【見所など】
 いったい制作費はいくらかかったんだろうという豪華な作品。 シチリアの風景は「何かの映画で観た記憶があるな」と思ったら、ケネス・ブラナーの『から騒ぎ』(1993年)だった。ガリバルディをはじめイタリア統一戦争の概略が頭にはいっていないと、意味がわからないかもしれない。授業で紹介したいシーンとしては、①タンクレディがサリーナ公爵に、ガリバルディの革命軍に参加すると告げるシーン(前のシーンがテレビ版ではカットされていたため、一部吹き替えが実際のセリフとあっていない)、②ガリバルディ軍と両シチリア王国軍との戦闘(ガリバルディ軍はみな赤シャツを着用している)。統一イタリア王国への編入を決める国民投票のシーン(教科書などでよくみるガリバルディの肖像画が見える)も面白いが、少々長い。その他気になったシーンがいくつかあった。①ピクニックに行ったとき、公爵一行が食事をしている間、従者たちは馬を引いて歩かせていた理由、②教会で少年が「振り香炉」を使っている、③舞踏会で、女性が白いものを踊る人に投げている理由、といったところ。Wikipediaに出てる「変らずに生きてゆくためには、自分が変らねばならない」というタンクレディの言葉を探したが、見つからなかった。どのシーンで言ったのだろう。
 絢爛豪華な舞踏会の合間、涙目で鏡に映った自分の顔を見るサリーナ公爵の哀愁と、かつて戦友だったガリバルディ軍の兵士の処刑を笑顔で語るタンクレディ(なぜか人相がよくない)。姻戚関係を結んだ新興ブルジョワジーのドン・カロージェロは、スペイン製の豪華な燭台を観て、土地に換算するとどれくらいになるかを話題にする(一方で貴族の家柄にあこがれを持っている)。ラストシーンで、祈りを捧げ、立ち上がって暗い通りに姿を消す公爵。後に残った野良猫は、山猫のその後を暗示するかのよう。バート・ランカスターの名演技が心に残る。



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軍事郵便(日露戦争) [コレクター道⑤古いポストカード]

 郵便コレクターで「エンタイア」という用語は、「配達された郵便物で切手や消印が残っているアイテム」を意味し、当時の資料としてなかなか興味深い。日本の古いポストカードのエンタイアで、軍事郵便は意外と多い。軍事郵便とは、戦地に赴いた兵士・軍属と祖国に残った家族がやりとりした手紙類で、家族からは所属部隊名と名前だけで届くという制度である。基本的に国内と同じ料金である。

軍事郵便について https://wararchive.yahoo.co.jp/gunjiyubin/

 日本国内から国外の兵士宛に出された手紙の場合、先の大戦は戦況の厳しさ故にあまり残っておらず、むしろ日露戦争時のアイテムをよく見かける。兵士のほとんどが男性だったゆえか、女性をデザインした絵葉書が多いようだ。中でも珍品は、明治の水着女性と看護師の女性の絵葉書。今も昔も、男性の憧れは同じのよう。

DSCF3254.jpg

女性看護師の写真を使ったポストカード。おそらく手彩色だろう。コメントに「無事のお顔が早くみたい」「当地気候不順」など。日付は明治38年7月と10月。

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左は珍しい水着姿の女性。

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上の2枚の宛名書き。赤で囲った部分、「山」の下に「々」??と思ったら「出」で「出征」。この頃の軍事郵便には、「出」を「山」の字を重ねた字体が多い。日露戦争時の軍事郵便は、戦地から出す場合は無料で、日本から出す場合は切手が必要だったようだ。


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勝利への脱出(ジョン・ヒューストン、1981年、アメリカ) [歴史映画]

【概要】
 第二次世界大戦中にドイツ占領地域で行われた、連合軍の捕虜とドイツ軍とのサッカーの試合を題材とした映画。主演はシルベスター・スタローンで、米軍の捕虜で元アメリカン・フットボールの選手という設定である。サッカーの王様ペレを始め、1966年W杯優勝イングランドの主将でMVPとなったボビー・ムーア、78年W杯優勝アルゼンチンの中心選手だったオズワルド・アルディレス(元清水エスパルス、東京ヴェルディ監督)ら往年の名選手が出演している。

【ストーリー】
 第二次世界大戦中のドイツ軍の捕虜収容所で、サッカーを楽しんでいた連合軍捕虜を見ていたドイツ軍のフォン・シュタイナー少佐は、自分自身が元サッカー選手だったこともあり、捕虜チームとドイツチームとの試合を思いつく。話は大きくなり、全連合軍捕虜VSドイツナショナルチームとの試合としてパリで行われることになった。試合の裏側ではレジスタンスの手引きにより、大規模な脱走作戦が進んでいた。

【見所など】
 2018 FIFAワールドカップ(ロシア大会)の組み合わせで、日本はグループHとなったが、同組のポーランドは2017年11月のFIFAランキングで7位の強豪(同ランキングで日本は55位)。人口が4千万人に満たない国ながら、ショパン、コペルニクス、キュリー夫人などの人物を輩出したこの国は、典型的な「大国に囲まれた小国の悲劇」の国でもある。
 サッカーW杯で日本がポーランドと同組になったというニュースを見て思い出したのが、この映画だった。B級映画と侮るなかれ、なかなか面白い映画である。Wikipediaによれば、実際に第二次世界大戦中実際に行われた試合「The Death Match」をモデルにしているという。


 連合軍捕虜チームのリーダーである元イングランドのサッカー選手コルビー大尉は、チーム編成のためにナチス側に「ポーランドとチェコの選手も探して欲しい」と要求するが、ナチス側は渋る。東欧出身の捕虜は強制労働の収容所に送られていたのである。連れてこられた5人の選手を見たコルビーは、彼らの痛々しい姿を見て愕然とする。現行DVDの字幕では「東欧の選手は?」となっているが、実際は「What about the Poles and the Czechs?」と言っている。私は高校生の頃この映画をテレビで見たが、そのときは「ポーランド」と言っていた記憶がある。チェコ(映画の時代はチェコスロヴァキア)は、2017年のFIFAランキングでは48位だが、2006年には2位まであがった東欧の強豪である。



 
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大学入学共通テスト(世界史) プレテスト [大学受験]

 現在のセンター試験は2020年から「大学入学共通テスト」に移行する。11月中旬から下旬にかけて試行調査(プレテスト)が行われ、先日問題と採点結果の速報が公開された。問題数は36で現行のセンター試験と同じだが、印象は大きく異なっていた。

 問い方では、 問題番号3の「下線部②の説について、どのような根拠が想定できるか。想定できる根拠として適当でないものを選べ」という設問が目をまず引く。また、3人の会話文から「①伸之が誤っている ②エレーナが誤っている ③ひとみが誤っている ④全員正しい」という選択肢がつくられているのも面白い(問題番号8)。この問い方だと、「①○○が正しい....④全員誤っている」という問い方も可能となる。その他4つの短文から正しいもの2つの組み合わせを選ぶという形式(問題番号21・24)もこれまでにない問い方であり、センター試験ではおなじみの年代整序問題も、絵画資料を使った新しい問い方であった(問題番号14)。絵画資料につけられた説明には歴史用語を一切使用せず、図版による看図アプローチで情報を補うという問い方であり、絵画資料そのものを問題とした問題番号5ともども、興味深い問題であった。公平を期すためには、使用する図版には注意を払う必要がある。しかし、これまでセンター試験で使われた図版には問題そのものとはあまり関係ない資料が多かったので、絵画資料そのものが問題と直結している点は評価したい。 2016年世界史Bではホルバインが描いたエラスムスの絵を使った問題が出題されていたので、このような問題はセンター試験でも出題されるのではないだろうか。

 会話文を使った問題も多かったが、中でも問題番号9は会話文と統計資料がヒントとして生かされており、よい問題である(ただし正答率は19.8%と低かった)。会話文には、外国ルーツと思われる生徒も登場しており、よく配慮されていた。グラフをはじめとした資料が多く提示されているのも大きな特徴であったが、折れ線グラフも現行センター試験のように「年号でなんとかなる」という問題ではなく、中国の人口動態の折れ線グラフで人口が増加している時期が二つ示され、それぞれの時期で人口増加した正しい理由を説明している組み合わせを選ばせるという、思考力を必要とする問題であった。系図を用いた問題番号21の正答率は45.4%とやや低かったが、これはある程度の知識も必要とするため、知識と読み取りを組みあわせることが難しかったと思われる。これまで系図そのものが問題となったのは、共通一次時代(84年本試験)にモンゴル帝国の系図が出題されたが、系図の一部が空欄となっており、そこにはいる人名を答えるというものであった。こうした問題を体験してきた世代としては、今回のプレテストは隔世の感がある。

その他、印象に残った問題は以下の通り。
・問題番号4・6:長い資料文である。読み取れる内容を答える文としては、1988年12月に実施されたセンター試験試行問題で孟子を扱った問題が出題されたことがあったが、今回の試行問題の方がやや難しかった。問題番号6の正答率は48.2%。
・問題番号18:上位概念を問う問題として、評価できる問題。しかし正答率は17.1%と最も低い。こうした問題は重要だと思うのだが。
・問題番号22:ジャガイモ飢饉が題材となっている。今でこそジャガイモ飢饉という語句は『世界史用語集』にも載っているが、私がジャガイモ飢饉のことを初めて知ったのは1995年の東大第3問で、『旺文社全国大学入試問題』の解答例では「じゃがいも疫病による大飢饉」となっていた。その後2003年の千葉大で論述問題の指定語句となり、2007年の東大第1問でも、指定語句に準じる扱いになった。2007年の東大第1問では、「アイルランド」「穀物法」が指定語句になっているが、ジャガイモ飢饉と穀物法の関係で面白い文章を読んだことがある。ジャガイモ飢饉に対して当時のピール内閣は米国からトウモロコシを輸入して対応しようとしたが、穀物法によってそれが難しかったため、廃止の機運が盛りがったという。だたし、その頃のアイルランドの農民たちはトウモロコシを粉に挽く手段がなかったため、トウモロコシは飢饉を救うことができなかったらしい。
・問題番号24:ヴィクトリア女王一家の肖像を見て、「この肖像画の背景には、女性が良き妻・母であることを理想とする家族観があると考えられる」という文章の正誤を判断する問題。19世紀ヨーロッパの家族観については、これまでにも出題されたことがあるが(1998年度 本試験 世界史A 第2問C)、絵画を使用して精神的な部分を読み取らせる点が斬新である。この問題で使われているヴィクトリア女王一家の肖像画(ヴィンターハルター作「1846年のロイヤル=ファミリー」)は、2013年世界史B本試(第4問C)にも使用された。ヴィクトリア時代のイメージ戦略という観点は同じだが、2013年センターではリード文に「女王は「貞淑な妻」「慈悲深い母」を演じた」という説明があり、解答そのものに関わる扱いではなかった。これまでのセンター試験と新テストとの違いを考える上で、よい比較となる問題である。
・問題番号25:センテンスを完成させる問題も、論理的な説明という点で評価できる。

 短期間でよくこれだけの問題をつくりあげたものだと感服する。作成担当の方々には、本当に大変なご苦労があったと拝察する。
 知識を活用した上で判断するという作業が必要なため、解答には現行のセンター試験よりも多くの時間が必要だったと思われる。面倒くさく感じた受験生も少なくなかったのではないだろうか。



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ハン・ソロのエラー・フィギュア [コレクター道⑥スター・ウォーズ]

 帝国書院が発行している高校世界史の資料集『タペストリー』では、かつて映画『スターウォーズ』が紹介されていた。「レーガン大統領による戦略防衛構想(SDI)はこの映画にちなんで「スターウォーズ計画」とよばれた」という説明とともに、米ソ両国の軍事支出を示す折れ線グラフも同枠内に示されていた。グラフから「スターウォーズ」の第1作(エピソード4)が公開された70年代後半(映画公開は77年)から、「デタント」がおわって米国の軍事支出が急上昇することが読み取れる、たいへんよい記事であった。ソ連のブレジネフ政権がアフガニスタンに侵攻するのは79年で、これに対して米国は翌80年のモスクワ五輪をボイコット、日本も同調して不参加であった。ソ連はこれに対する報復として次回84年のロサンゼルス五輪をボイコットし、東欧諸国もどれに同調するなど、『タペストリー』が述べている「新冷戦」の時代である。ボイコット合戦のオリンピックでは、モスクワ五輪に西側から参加したイギリスの陸上中距離選手セバスチャン・コー(ロンドンオリンピック組織委員会委員長)や、ロサンゼルス五輪に東側から唯一参加したルーマニアの女子体操選手エカリーナ・サボーが記憶に残っている。『タペストリー』の八訂版はスターウォーズのほか、グリューネヴァルトの「イーゼルハイムの祭壇画」が掲載されるなど、かなりディープであった。

 映画『スターウォーズ』シリーズは、VHSビデオ時代からビデオ購入して繰り返して見てきた。リマスター版のDVDも何度となく見てきたため、シリーズ合計でいえば『ブレードランナー』を見た回数を超えるかもしれない。しかし『スターウォーズ』が『ブレードランナー』と決定的に違うのは、『スターウォーズ』はトイ系のコレクターが多いということで、私も一応スターウォーズのコレクターである。私の場合はおもにエピソード4~6のいわゆる「オリジナル・トリロジー」に登場するキャラクターで、ハズブロー/ケナー社のベーシック・フィギュアを集めてきた。
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 ベーシック・フィギュアは子ども向けの製品であり、値段も安価である。箱ではなく、紙の台紙にフィギュア本体が透明プラスチックでカバーされ販売されている。そのため初期は、「開封して遊ぶ用」「保存用」「トレード等予備用」と3個買っていた時期もあったが、よほど気に入ったアイテムでない限り「開封用」「保存用」の2個買いということで落ち着いた。いまヤフオクをみると購入時からプレミアがついているのはほとんどない。当時は色々と苦労して集めたが、いまネットで買った方が手間もかからず安く手にはいると思う。

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 熊本地震で最も被害を受けたのは、フィギュアだった。アプローズ社製限定版ダース・ベイダーのヘルメットが紛失するなど大小様々な被害があったが、痛恨の極みはビートルズのフィギュアが大破したことである。ポールのマイクは折れ、ヴァイオリン・ベースのストラップは切れてしまった。リンゴのドラム・スティックも折れ、シンバルも1個行方不明。
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 あまりプレミアがつかないスターウォーズのベーシックフィギュアだが、エラーモノは少しプレミアがつく。エピソード5『帝国の逆襲』で、炭素冷凍されたハン・ソロのフィギュアである。これはフィギュア本体にエラーがあったわけではなく、台紙の表記に間違いがあり、後に修正されたというエラー。初期ロットの表記は「HAN SOLO IN CARBONITE with CARBONITE FREEZING CHAMBER」(右)だったが、この「CARBONITE FREEZING CHAMBER」は冷凍装置自体を指すため、2ndロットから「HAN SOLO IN CABONITE BLOCK」(左)に変更された。米アマゾンのマーケットプレイスみると$16.75で出品されているので、たいしたプレミアではない
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 DVD持ってるのにテレビで放送があるとつい視てしまう『スターウォーズ』。そしてそのたびにフィギュアを引っ張り出す。
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今年の慶應義塾大学(商学部)の問題 [大学受験]

 『地域から考える世界史』(勉誠出版)で私が紹介している女性は、慶應義塾大学に進学した。慶大商学部の入試で今年出題された問題は、これからの入試問題を考える上で注目したい問題であった。

 人口減少社会に突入した日本にとって移民とどう向き合うかは喫緊の課題といえる。日本への移民受け入れに関して留意すべき点について、本文の内容を踏まえて、50字以内で述べなさい。ただし、本文中に登場する「摩擦」、「労働力不足」、「共生社会」の3語を必ず用いること。

 もちろん、世界史の問題である。「人口減少社会に突入した日本」という言葉があるので、「受け入れる」という前提で考えていきたい。

少子化による労働力不足を補うため移民を受け入れるには、摩擦を克服して多文化共生社会目指すことが重要。 50字

これから考えていかなければならないのは、どうすれば摩擦を克服できるかということ。
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チベット仏教のガウ [コレクター道①神仏像]

 チベット仏教には「ガウ」と呼ばれる携帯型の仏具がある。 仏像やお守りを入れて持ち運ぶケースだが、ペンダントトップのロケットタイプや大きめの祭壇タイプなどがある。
ガウに収める仏像を「ツァツァ(擦擦)」=「(仏様の)複製」と呼ぶが、多くは粘土を焼いて作った塼仏(せんぶつ)である。

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 このガウは祭壇タイプで、ガウは首に提げることが多いらしいが、このサイズだと邪魔になりそう。中の仏像の大きさは約3㌢。緑青が出ているので、ケースは銅製だと思われる。布製ケースのつくりもしっかりしており、かなり頑丈なつくりである。常に持ち歩くには、これ位の丈夫さが必要なのだろう。
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センター世界史雑感 [大学受験]

 大学の歴史学の先生が「高校歴史が嫌われる理由の一つは、受験勉強のコスパが悪いこと」とコメントしていたが、正直そのとおりだと思う。中でも世界史Aは地歴科目の中で、総合的に最もコスパが悪い。熊本大学の場合、理系と教育学部は地歴A科目でも受験できるが、文学部と法学部はA科目不可である(教育学部でも社会専攻はB指定でいいと思うのだが)。鹿児島大学も同様で、法文学部はB科目のみである。このように「A科目では受験できない場合がある」となれば、A科目受験者が少ないのは当然であり、なかでも世界史Aのセンター試験受験者数は例年最下位争いをしている。今年(平成29年度)の世界史A受験者は、英語以外の外国語を除けば最少であった。

 4単位標準の世界史Bに比べて、2単位標準の世界史Aの難易度が低いかと言われれば、確かに難易度は低い。が、桁違いにやさしいというわけではない。世界史Aで高得点がとれる受験生は、Bで受験してもある程度の点数をとれる受験生だろう。おまけに受験生が少ないため、対策用の問題集もほとんどない。本試験の解説が旺文社の『大学入試問題正解 世界史』に掲載されるくらい。

 しかし、センター世界史Aは様々な点で頑張っていると思う。以前はBと共通問題があったが、最近はまったく見られない。「世界史Aは世界史Bの内容を薄めたものではない」という意見(確か歴教協?)も読んだ記憶があるが、(現場の実際の感覚はともかく)確かにその通りで、その点からすればAB共通問題がないのは、あるべき姿だと感じている。

世界史Aにはハッとする問題もあり、中でも特に印象に残っているのは、次の3つ。
(1) 鉄道の営業キロ数を示したグラフを使った問題
    http://zep.blog.so-net.ne.jp/2007-08-08
    (1999年度 本試験)
(2) 産業革命における綿織物のイノベーション
    http://zep.blog.so-net.ne.jp/2007-06-12
(2001年度 追試験)
(3)下線部⑧の時期(20世紀後半)の時期の科学や文化について述べた文として正しいものを、次の①~④から一つ選べ。
  ① ビートルズの音楽が流行した。
  ② レントゲンが、X線を発見した。
  ③ ゲーテが、文学者として活躍した。
  ④ ピカソが、「ゲルニカ」を描いた。
(2014年度 本試験)

「SENSEI NOTE」という教員向けSNSで「世界史Bの授業進度」というトピが立った時、高校で世界史を教えている教員でも世界史Aのセンター試験を見たことがない人がいるということでちょっと驚いたが、よく考えてみると確かにそうかもしれない。かつてセンター試験の会場では、問題冊子をもらうことができたため、世界史Aの問題をその日のうちに見ることが可能であった。しかしいまは配布がないため、大学入試センターのウェブサイトにアップされるのを待つしかない。B問題は各予備校が速報でアップしてくれるが、A問題をアップしてくれるところはほとんどない。

 そうした厳しい状況の中で、ベネッセ・駿台マークは唯一世界史Aの模試問題を作成しており、本当に頭が下がる。今年の11月マークもよくできた問題だった。年表を使った問題、地図を使った問題、グラフを使った問題いずれもセンター試験世界史Aレベルと形式をしっかりと踏まえた問題であった。

 世界史Aに限った話ではないが、模試と本番の問題で一番大きな差を感じるのは、リード文と資料である。リード文で印象に残っているのは、2006年本試験におけるAB共通問題の『千夜一夜物語』のリード文と、翌2007年世界史B本試験で紹介された中国の秘密結社「紅灯照」を紹介したリード文である。いずれも、「もっと知りたい」と思わされる文章であった。「リード文と設問の関係が薄い」と批判する意見も散見されたが、こうした専門性が高いリード文と関係が深い設問を作ろうとすると、設問の難易度が上がってしまい、また出題できる問題の内容も限定的になってしまう。結果としてセンター試験そのものの趣旨にそぐわない問題になってしまう可能性もあり、妥協は致し方ないと感じる。

 資料については、「アジア向け艤装船舶数の推移」(2016年世界史B本試 http://zep.blog.so-net.ne.jp/2016-01-27 )、「15~20世紀の植民地数の増減」(2017年世界史A本試)、「1921年~2001年のポーランドとハンガリーの小麦生産量の推移」(2017年世界史A追試)など、よくもまぁこんな統計資料を見つけてくるものだと感心する。これらの資料がすぐれているのは、より深い学習が可能となる点である。「15~20世紀の植民地数の増減」については、「植民地の数よりも、面積を示すほうがよいのではないか」という意見があったが、私はそうは思わない。確かに、宗主国側の視点では面積の方が重要かもしれないが、植民地側からすれば独立することのほうが重要だろう。このグラフだからこそ、植民地数の減少=独立国の増加という点が読み取りやすい。「19世紀はじめに独立した国が増えた背景」や「帝国主義の時代」を感じさせるよい資料だと思う。「1921年~2001年のポーランドとハンガリーの小麦生産量の推移」については、「冷戦の終結後、ポーランドがハンガリーを、生産高で常に上回っている」のはなぜだろうという疑問が出てくるが、農業中心のポーランドと工業にシフトしたハンガリーの違いという理解でよいのだろうか?

 いつも言ってることだが、やはりセンター試験の過去問は何度解いてもいいと思う。
http://zep.blog.so-net.ne.jp/2015-12-28
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中東の水タバコ [コレクター道④喫煙具]

 英グラナダテレビ版「シャーロック・ホームズの冒険」は、いずれのエピソードも名作である。ピューリタン革命のエピソードでは、「マスグレーブ家の儀式書」の一部を見せているが、ファンの間で人気が高い作品の一つが「四人の書名」。この作品の見所の一つは、 サディアス・ショルトー役のロナルド・レイシー(故人)の怪演だろう。彼の演技で最も有名なものは、ハリソン・フォード主演『レイダース~失われたアーク』で、アークを探すナチスのゲシュタポ、アーノルド・エルンスト・トート役。

 グラナダ版「四人の書名」で、ショルトーが愛用していたのが水タバコである。「これを吸うと落ち着く」と鎮静剤代わりに使っていたが、彼の風変わりな様子と水タバコがなんとも奇妙にマッチしていた。

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 これはヤフオクで1000円で購入したもので、高さは約80㌢。アラビア語らしきシールが貼ってあるが、どこの国のものかは不明。熊本地震でバラバラになってしまい、なんとかパーツを拾い集めて組み立ててみたが、たぶんこんな感じだったと思う。もしかすると、部分的に欠けているかもしれない。

 『歴史地理教育』2014年7月号に、一度だけお会いしたことがある千葉県の先生がサマルカンドで水タバコを体験したことを書いておられる。一度使ってみたいものだが、残念ながら私はノン・スモーカー。見て楽しむだけ。
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木彫りの釈迦座像 [コレクター道①神仏像]

 大学生の頃は、当時住んでいた黒髪のアパートから街中まで歩いて行ってた。新市街で映画→上通のレコード屋「WOODPECKER」「Oh!」→コーヒーショップ「BAUHAUS」で一服→舒文堂河島書店というのが基本のコース。30年くらい前だと、オールナイトの映画館は丑三つ時になると受付も無人になって出入り自由な感じで、そのまま映画館で夜明かしも出来たし、今は亡き交通センターには「センターシネマ」という地下の映画館があって、『薔薇の名前』だのケン・ラッセルの『ゴシック』だのカルトな映画がかかっていた。『ゴシック』はよほど入りが悪かったのか、しばらくして『薔薇の名前』と二本立て興行になり、バラで観ていた私は内心舌打ちしながら、「観なきゃ損だろ」と思ってまた観に行ったものである。店名は忘れたが、河島書店よりアーケード寄りの古本屋のおじさん(ちょっと体が不自由だった)はとても優しくて、いつも割引してくれた。廃業してずいぶん経つ。

 熊本市上通の並木坂では、かつて大型連休中に骨董市が開かれていた。古美術というよりも古民具やガラクタに近いモノが多く「蚤の市」という雰囲気で、毎年楽しみしていたものである。

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 この釈迦座像は並木坂の骨董市で買ったモノで、4千円を3200円に値切って買ったと記憶している。高さ約24㌢。


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 洗練されていない荒い雰囲気は一刀彫だと思われるが、柔和な表情である。所々に残る金箔が、よい風合いとなっている。写真ではフラッシュの加減で金箔がかなり残っているように見えるものの、光背にかなり残っているが、本体に残っているのは極わずかである。


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パワポで世界史の授業 [授業研究・分析]

 マイクロソフト社のプレゼンテーションソフト、「パワーポイント」(以下パワポ)を使い始めたのは、10年ちょっと前のこと。島根県立松江教育センターでの「授業力向上セミナー」(2007年)とか、九州高等学校歴史教育研究協議会大分大会(2009年)の時にはパワポを使ったプレゼンを行ってきたが、授業で使ったことは全くなかった。NHKの「わくわく授業」収録の時には、「テレビに映るんだから、カッコいい授業をしたい」と思ってパワポ使おうとしたら、NHKのディレクターさんからストップがかかった。現在はどうなっているか知らないが、10年くらい前はパワポ使う場面が番組に映り込むとマイクロソフト社からクレームがきていたらしい。

 今年の九州高等学校歴史教育研究協議会(長崎大会)の全体会で、開催県である長崎県からは、パネルディスカッションの報告が行われた。「歴史教育におけるICT活用について」というテーマのパネルディスカッションである。ディスカッションの前に事前のアンケートもとられているが、集計結果を見る限り「ICT活用の効果は認める」が、「機器の整備や活用スキルの問題から、なかなか使えていない」「あくまで手段であり、本質ではない」という考えが見えてくる。後者の意見に関して言うと、ICTというよりもパソコン関係一般についても言えることかもしれない。柳原伸洋先生は「インターネットと世界史教育は相性がよくない」「多くの教育者は、インターネットを敵視しているきらいがある」と指摘しているが(「インターネット時代と世界史」、勉誠出版『地域から考える世界史』に収録)、さきほどの「ICT機器の活用はあくまで手段であり、本質ではない」という考えに通じるような気がする。

 私自身について言えば、パワポは使ってないが、機器の活用には熱心な部類だと思う。3年生の授業は、プロジェクターが使える教室が空いているときはそちらの教室を使うようにしている。
ブログの過去記事から
「ICTを使った世界史の授業」http://zep.blog.so-net.ne.jp/2014-07-25
「新聞記事を使ったアクティブラーニング:現代社会
http://zep.blog.so-net.ne.jp/2015-07-28

 ICT機器を使った授業を、生徒はどう感じているのだろうか。私が熊本北高校で担任していた3年1組の学級日誌に、男子生徒が以下のような文を書いていた(原文のまま)

平成27年7月31日 雨   今日の世界史は電子黒板を使った授業でした。昨日から楽しみにしていて、その期待を裏切らない性能でただ驚くばかりでした。今日、一部マスコミで騒がれている、教育のデジタル化。ある知識人は「百害あって一利なし」と言っておられました。私は今回の授業のように、先生方のみ使用するのであれば導入してもよいと思います。なぜなら生徒ひとりずつに配ると、必ず機械を無駄に触る者が出てくるからです。パソコン室での授業がよい例でしょう。先生方のみが使用するのであれば上のようなことは起こらないと思います。

 これは夏休みの課外授業の際、浜島書店の『デジタルアカデミア』を使ってみたときの生徒の感想であるが、生徒一般の意見として、地図の拡大縮小や移動方向の図示、美術作品の解説はとてもわかりやすいとのこと。

 現在使っているのは浜島書店の『デジタルアカデミア』だけであり、あくまで「理解を助ける」という目的である。授業そのものをICTで行っているわけではない。授業は穴埋めプリントと板書で行っている。しかし最近は、社会系の授業でパワポを使っている先生も多いようだ。「パワポ世界史」で検索してみると、様々なコンテンツがヒットする。

 私自身は、これまで授業でパワポを使ったことはない。できればやってみたいとは思っているのだが、「スライド作るのが億劫」という実に後ろ向きの理由が、使っていない理由である。一枚のスライドにはいる文字数には限りがある。一時間の授業で必要なスライドの枚数は、いったいどれくらいになるのか。もし挫折して年度途中から板書に逆戻りになったらカッコ悪いし....など様々な不安が頭をよぎる。

 そして今年購入したのが、実教出版の「教育支援デジタルコンテンツ 世界史共通」である。正直、「今の若い先生たちは楽チンでいいね」と皮肉の一つも言いたくなるほどの収録内容であった。これまでも、一問一答や定期考査問題例、白地図ワーク、教科書本文などは各社の教師用ROMに収録されていたが、パワーポイント用スライドを収録した商品は、初めて目にした。「黒板用(背景が文字は白、重要事項の文字は黄色)」と「ノーマル版」の内容が同じスライドが2種類、スライドに対応した穴埋めプリント&解答も収録されている。その他、「各国史プリント」「テーマ史プリント」(いずれも問題形式)など課外授業でも使えるだろう。いずれもWord形式のファイルなので、自分用にカスタマイズできる。スライド中の「Link」をクリックすると画像データに飛び、さらに重要部分は拡大される。例えば「大航海時代」だと、Linkでコロンブスの航路データに飛び、さらに航路部分が拡大されるという流れ。実教さん、勝負に出たな!という感じだが、横綱山川も来年3月にパワポ教材を発売するとのこと。

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メニューはこんな感じ


 先日、「パワーポイントのスライドを使った授業が恐ろしくつまらない理由」という記事[http://blog.share-wis.com/?p=457]を目にしたが、「つまらない理由」は「追体験を発揮しづらい」という指摘だった。この指摘に関して言うと、世界史の場合は空欄とアニメーションを使って十分クリアできるのではないかと思う。3年生から中国史の解説をして欲しいという要望があるので、そこで実教世界史のパワポをテスト使用してみようかと考えている。

 現時点では、浜島の『デジタルアカデミア』が世界史関係ではベストだと思っているが、先日、ある会社から「『デジタルアカデミア』のような資料集ソフトに動画や音声を入れた商品に魅力を感じるか」と尋ねられた。大いに感じる。
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ボックス入りコンパス [コレクター道②コンパス(羅針盤)]

 アメリカのJohn E. Hand & Sons Company(フィラデルフィア)製の船舶用コンパス。銅製のボックスに固定されている。高さ約20センチ。

 アメリカンなゴツい感じが好き。ハコの傷や凹みも、使い込まれた感が出てて味がある。

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『ショア』(クロード・ランズマン監督、1985年、フランス) [歴史映画]

 クロード・ランズマン監督の『ショア(SHOAH)』は、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)をテーマにしたインタビュー映画である。強制収容所から奇跡的に生還したユダヤ人、彼らを日常的に目撃していたポーランド人、そしてユダヤ人を死に追いやる側だった元ナチスのドイツ人たちといった、生き残った人びとへのインタビューから構成されている。タイトルの「ショア(ショアー)」は、「絶滅」を意味するヘブライ語で、ランズマン監督はいずれの国においても公開の際はこのタイトルにするよう強く主張したという。確かに、祝祭的なニュアンスを持つ「ホロコースト」よりも、直接的でふさわしいように思われる。

 本国フランスで公開されたのは1985年で、日本ではそれからちょうど10年後の1995年に日仏学院で初めて公開され、1997年には商業上映された。上映時間9時間30分。ブルーレイ・ディスクは3枚組である。撮影フィルムは350時間に及んだという。

 私はこの映画のことを知ったのは、小川幸司先生の『世界史との対話』であった。2012年当時『ショア』の日本版DVDは入手困難で、中古であっても高額で取引されていた。テキスト版(日本語)を購入して読んでみたが、読者のイマジネーションにすべてをゆだねるという点においてひとつの作品であり、訳者による解説も読み応えがある。しかし、映画版の衝撃はテキスト版をはるかに凌駕していた。

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 ポーランドのヘウムノ村で歌っていた歌、ヘウムノ村からの生還者が語りながら見せる微笑み、インタビューを取り巻くポーランド人たちが見せる笑顔.....中でも印象深いのはトレブリンカ駅における機関車のエピソード(日本語版テキストのカバー写真と、DVDボックスのケース写真に使われている)だった。言葉はないのでテキスト版本文に記述はないが、解説で紹介されている。「ガフコフスキは、思わず手を喉にあて、「首を切られるぞ」という合図をする」。その合図は3回。テキスト版を読んでから映画を見ると、より理解が深まると思う。

 9時間半という長さにもかかわらず、思わず見入ってしまうのは、場面の変わりが早いこと、(撮影当時の)ヨーロッパの風景の寒い美しさ、そしてランズマン監督の容赦のなさ。元SS隊員に対して容赦ないのはともかく、彼は生き残ったユダヤ人に対しても容赦しない。とりわけ印象深いのが、トレブリンカ収容所でユダヤ人女性の髪を切る仕事に従事していた男性へのインタビューだった。まるで無理矢理当時に引き戻すかのように、理髪師として働く彼に、ランズマン監督は客の髪を切らせながらインタビューする。彼が悲しみで沈黙してる間もカメラを回し、さらに「さあ、話して」「話すんだ」と要求するランズマン監督の姿勢には執念を感じる。私にはとても真似できない。
 この床屋の男性のエピソードは、ユベール・ティゾン「フランスでショアーを教えること」(『歴史地理教育』2017年3月増刊号「文学・絵画・映画で学ぶアジア太平洋戦争」)の中で、「クロード・ランズマン監督の『ショアー』に出てくる理髪師の証言は、シークエンスとして厳しすぎる。流す映像は13分を超えるべきではないだろう。」と触れられている。約20分である。
 
 
 ランズマンがインタビューの最後で語っている「私はすべてを語るべきではなく、人々が自らに問いかけるべきなのだと思ったのです」という言葉が心に残っている(『現代思想』1995年7月号)。主体的、対話的そして深く歴史と関わるためには、ランズマン監督が「いったい何があったのだろう」と疑問を持ったように、過去へ主体的に問いかける(疑問をもつ)ことから始めなければならないように思われる。


 私が購入したのは、ブルーレイのボックスセット『クロード・ランズマン決定版BOX』。セットの内容は以下の通り。

①「SHOAH ショア」ディスク1~3
②「ソビブル、1943年10月14日午後4時」ディスク4
「ショア」の後半で語られる、ソビブル収容所におけるユダヤ人による武装蜂起の計画と挫折。
③「不正義の果て」ディスク5
アドルフ・アイヒマンが大戦中、世界を欺く為に設立した「模範収容所」テレージエンシュタットの真実を、同収容所の生還者の証言で明らかにした作品。




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  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
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SHOAH ショア(デジタルリマスター版) [Blu-ray]

SHOAH ショア(デジタルリマスター版) [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • メディア: Blu-ray



SHOAH ショア(デジタルリマスター版) [DVD]

SHOAH ショア(デジタルリマスター版) [DVD]

  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • メディア: DVD



ショアー

ショアー

  • 作者: クロード ランズマン
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 1995/06
  • メディア: 単行本



『ショアー』の衝撃

『ショアー』の衝撃

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 未来社
  • 発売日: 1995/06/01
  • メディア: 単行本



声の回帰―映画『ショアー』と「証言」の時代 (批評空間叢書)

声の回帰―映画『ショアー』と「証言」の時代 (批評空間叢書)

  • 作者: ショシャナ フェルマン
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 1995/09
  • メディア: 単行本



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アンティークなポストカード [コレクター道⑤古いポストカード]

 「100年前のモノ」というと高価なアンティークが思い浮かぶが、私が集めているのは絵ハガキ。当時書かれた内容がそのまま残っているものが好きで、ebayやヤフオクで良いモノがあれば時々購入している。値段は1枚100円~高くても1000円程度なので、値段的にも手頃である。同僚の結婚式の引き出物(カタログギフト)が入ったアルバムがちょうど収納に良かった。

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 当時の人は本当に綺麗な字を書く。書いてある内容が分かれば、なお楽しいんだろうけど。達筆すぎて分からない。消印を見るのも楽しい。「1914」「1917」「1919」といった大きな事件が起こった年の消印を見つけると嬉しくなる。

 
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桃木至朗 監修/藤村泰夫・岩下哲典 編『地域から考える世界史~日本と世界を結ぶ』 [歴史関係の本(小説以外)]

 高校の世界史は、「何でもあり」である。文化史では理系の学問も扱うので、理系の知識があるに越したことはない。「17~18世紀のヨーロッパ文化」の項目で、気体力学のボイルという科学者の名が出てくる。十数年前、愛媛県の伊方原発の見学に行った際、途中立ち寄った(たぶん)道の駅で不思議な水槽を見た。水槽本体からお椀を半分に切った形状の飛び出しがあり、魚が泳いでいる。魚に触れようと思えば、触れることができる。ところが蓋ははないのにその部分から水が溢れてこない。なぜ?と私が首をひねっていると、ある先生が「ボイルの法則」で空気の圧力が蓋代わりになっていることを教えてくれた。それ以来、授業ではこのエピソードでボイルの法則を説明している。

 自分が書いた文章が掲載されている本で恐縮だが、高校世界史の「何でもあり」感を、いい意味で示しているのがこの本だと自負している。貧困や自然災害といった現代社会が直面している問題から、「こんな授業をやってみた」という実践まで内容は多岐にわたるが、いずれも「いま自分が住んでいる身近な空間と、世界史のつながりを考察することで、多文化共生社会を実現したい」という共通意識は読者の方々に伝わると感じている。特に第3章の4論考は、教科としての世界史が直面してる諸課題を明快に示している。執筆陣は大先輩から私よりも10歳以上若い先生まで幅広いが、それぞれに示唆に富む内容だ。中でも柳原伸洋先生の「インターネット時代の世界史」は、われわれ世界史教師がインターネットとどう向き合うかという問題を提起しており、実に興味深い。先日も国語の先生が、ネットから拾ってきた古典の訳を書いて提出した生徒を怒鳴りつけていたが、正直私はその生徒に感心したものである。また篠塚明彦先生の「世界史未履修問題に見る世界史教育の現実」は、大学や大学院で開発された授業が、実際の現場ではほとんど関心を持たれていないのはなぜか?という問いに答える論考。先日ある首都圏の大学の歴史の先生からは、「前近代しか習っていないという学生は多い」という話を聞いた。世界史Aの看板で、世界史Bをやってる学校はまだまだ多いようだ。「のど元過ぎれば云々」の現状と背景もよく示されている。
 大規模校でも世界史担当の教員は2人程度だと思われる。なかなか授業や教科教育について語り合う機会はないだろう。原田智仁先生は本書で「世界史は滅亡前のオスマン帝国のような瀕死の病人」と表現しているが、確かに高校世界史はとくに進学校(最近は「自称進学校」という不愉快な言葉を教師自ら使っているが)で不良債権化しつつある。そうした状況下で、何のために世界史の授業をやるのかを再考する機会として、本書を読み込んでいきたい。


 
【目次】
監修者はしがき 桃木至朗
序言 藤村泰夫
【特別寄稿】グローバル社会に求められる世界史 出口治明

第1章 中高生による地域再発見
・ダブルプリズナーの記憶―生徒に受け継がれる「思考の連鎖」― 野村泰介
・戦争遺跡・亀島山地下工場の掘りおこし―「地域」と「民族」の発見― 難波達興
・アフガニスタンから山口へ―尾崎三雄氏の事例から― 鈴木均
・「山口から考える中東・イスラーム」高校生プロジェクト 磯部賢治
・「青少年近代史セミナ-」の意義―世界史をどこまで実感するか― 川上哲正
・地域の歴史から日中交流へ―熊本県荒尾市における宮崎滔天兄弟顕彰事業の取組― 山田雄三・山田良介

第2章 多様な地域と多様な「教室」
・日本海は地中海か?―網野善彦から託された海がつなぐ歴史・文化の学び― 竹田和夫
・ムスリムに貼られた「レッテル」の再考―東京ジャーミイを事例として― 松本高明
・ALTを通して学ぶ世界史 百々稔
・日米双方の教科書を用いて学ぶ戦後史―アメラジアンの子どもたちとともに― 北上田・源世界遺産から考える地域と世界史 祐岡武志
・博物館と歴史研究をつなぐ 赤澤明
・地域における歴史的観光資源の開発と活用―観光系大学学部ゼミナールでの教育実践からの考察― 岩下哲典

第3章 世界史教育の現在と未来
・二一世紀の世界史学習の在り方―自主的な世界史像の形成をめざして― 二谷貞夫
・世界史未履修問題に見る世界史教育の現実 篠塚明彦
・社会知・実践知としての世界史をもとめて 原田智仁
・インターネット時代の世界史―その問題性と可能性― 柳原伸洋

第4章 地域から多文化共生社会を考える
・多文化共生社会をつくる―「地域から世界が見える」― 三浦知人
・地域における多文化共生と世界史教育―熊本県における事例から― 平井英徳
・塾「寺子屋」の可能性―横浜華僑華人子弟の教育― 符順和
・在日外国人生徒交流会の成果と課題 吉水公一

第5章 現代社会が抱える問題に向き合う
・地元志向と歴史感覚―内閉化に抗う歴史教育― 土井隆義
・世界史のなかの貧困問題―「貧困の語り」をとらえる 中西新太郎
・日本人の聖地伊勢神宮から考える世界史―自然と歴史の相関関係 深草正博
・災害と人類の歴史 平川新
・ヒロシマ・ナガサキからイラク・フクシマへ―核の脅威を考える― 井ノ口貴史

終論 桜井祥行
あとがき 原田智仁




地域から考える世界史―日本と世界を結ぶ

地域から考える世界史―日本と世界を結ぶ

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 勉誠出版
  • 発売日: 2017/10/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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『ぞうれっしゃがやってきた』と『猫は生きている』~2冊の絵本 [授業ネタ]

 『文学・絵画・映画で学ぶアジア太平洋戦争』(『歴史地路教育』2017年3月臨時増刊号)巻末の「教材と資料」の一覧表を見て、様々な思いにとらわれる。それぞれに名作だと思うが、中でも私の心に残っているのが、『ぞうれっしゃがやってきた』と『猫は生きている』の二冊の絵本だ。

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 インディラ=ガンディーの説明として正しいものを一つ選べ。
  ① 夫はセイロン(スリランカ)首相であった。
  ② 夫はバングラデシュ大統領であった。
  ③ 父はパキスタン大統領であった。
  ④ 父はインド首相であった。
               (1996年 世界史 本試第4問)

 南アジアの女性政治家の多くは,有力な政治家の妻や娘であり,例えばインディラ=ガンディーは,インドの初代首相であった写真の人物(次図参照)の娘であった。写真の人物について述べた文として正しいものを,以下の①~④のうちから一つ選べ。
  ① 毛沢東とともに平和五原則を発表した。
  ② 首相在任中,中印国境紛争が起こった。
  ③ プールナ=スワラージ(完全独立)を要求する決議に反対した。
  ④ インド国民会議の創設に参加した。
               (2003年 世界史B 本試 第4問B)



 「インディラ」といえば、戦後ネルー首相が日本に贈った象の名前だが、ネルー首相が象を贈るきっかけの一つは、戦後まもなく、象を見るために全国から名古屋の東山動物園(戦争中も2頭の象を飼育し、戦後まで飼育を続けていた)を目指してやってきた象列車であったという。私は象列車と象のインディラのことは知っていたが、この二つの出来事に関係があったことは、以下の文章を読むまで知らなかった。
http://spijcr.mithila-museum.com/topics/zou/zou.html

 事実は小説よりもドラマティック。絵本では「ぞうのおりのつうろに、軍馬のえさが、つみこまれました。しいくがかりのおじさんたちは、それをこっそりぬきとり、ぞうにあたえました。」とあるだけだが、当時の東山動物園で軍馬を飼育していた獣医の三井高孟氏(軍属で階級は大尉)は飼育員が兵糧の中から象の餌となるフスマを盗んでいたのを黙認し、さらに兵士に命じてわざと象舎の通路にそれらの穀物が入った袋を置き忘れさせた事もあったという。 http://mi84ta.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/3-96bb.html


 もう一冊、『猫は生きている』は早乙女勝元さん原作の絵本で、絵は田島征三さん。東京大空襲を題材にした絵本である。野良猫「稲妻」母子と、猫一家を見守る昌男一家(父親は出征中)の強さと優しさ、たくましさが、田島さんの迫力ある絵と相まって印象深い秀作である。私は小学生の頃学校の体育館で、この絵本を元にした人形劇映画を観たが、稲妻が子猫たちとともに飛び上がるシーンが今でも心に残っている。いま読み返すと、野良猫一家を絶対家にはあげない厳しい母親だが、それもわが子を思えばこそ。猫一家の奮闘を見て「ちゅんと鼻水をすすりあげ」、空襲でともに子どもを連れて逃げる稲妻の頭をなで、稲妻の姿を思い出しわが子を守ろうとする母。この絵本の主人公は、稲妻と昌男の母親だろう。
 私が最近好きなマンガは、深谷かほるさんの『夜廻り猫』と、武田一義さんの『ペリリュー~楽園のゲルニカ』だが、『夜廻り猫』で主人公の野良猫、遠藤平蔵が(「おまえ」ではなく)「おまいら」「おまいさん」というセリフを口にするたび、『猫は生きている』のラストを思い出し、胸が熱くなる。最後の力を振り絞って猫一家を助けようと「行け、おまいたち!」と言葉をかける昌男。猫一家の無事を確認した昌男は力尽き、安堵したように川の流れに身をまかせ水の中に消えていく。昌男のおかげで難を逃れた猫一家は、彼の母親を発見し....『ぞうれっしゃ』と異なり、非情な結末ではあるが、子ども向けのこうした絵本も貴重だと感じる。昌男の母親の顔をなめる猫一家の部分は、50歳を過ぎた私が読んでも目頭が熱くなる。
 人形劇映画DVD推薦のことばで、作者の早乙女さんは次のように述べている。
http://www.hminc.jp/lineup/neko/nekokaisetu.html
「私は「猫は生きている」を子供たちに見せるにあたって、戦争の悲惨さはもちろんのことですが、実はそれよりも先に、子を思う母の気持ちを、その愛の強さと尊さを、きちんと伝えたいのです。子を思う母の気持ちは、必ずしも人間ばかりではありません。その辺のどこかの家の床下に住む猫チャンだって同じです。人間のみならず、他の生物の愛情まで否定するのが戦争なのでしょうか。それならば、戦争勢力をうちのめす強い愛もなくてはなりません。それが、今日の本物の人間愛ともいえるのではないでしょうか。」

心に残る言葉だ。


ぞうれっしゃがやってきた (絵本ノンフィクション 23)

ぞうれっしゃがやってきた (絵本ノンフィクション 23)

  • 作者: 小出 隆司
  • 出版社/メーカー: 岩崎書店
  • 発売日: 1983/02/25
  • メディア: 大型本



猫は生きている (理論社のカラー版愛蔵本)

猫は生きている (理論社のカラー版愛蔵本)

  • 作者: 早乙女 勝元
  • 出版社/メーカー: 理論社
  • 発売日: 1973/10/01
  • メディア: 単行本



文学・絵画・映画で学ぶアジア太平洋戦争 2017年 03 月号 [雑誌]: 歴史地理教育 増刊

文学・絵画・映画で学ぶアジア太平洋戦争 2017年 03 月号 [雑誌]: 歴史地理教育 増刊

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 歴史教育者協議会
  • 発売日: 2017/03/14
  • メディア: 雑誌



夜廻り猫(1) (ワイドKC モーニング)

夜廻り猫(1) (ワイドKC モーニング)

  • 作者: 深谷 かほる
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/03/23
  • メディア: コミック



夜廻り猫(2) (ワイドKC モーニング)

夜廻り猫(2) (ワイドKC モーニング)

  • 作者: 深谷 かほる
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/03/23
  • メディア: コミック



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世界史の定期テスト問題 [その他]

 数年前に比べると、最近の『社会科教育』はおもしろい。昔は対象がよくわからない中途半端な記事も多かったが、最近は執筆陣のレベルも上がっており、高校教師向けの記事も増えている。11月号は、「考える力を高める難問・良問チャレンジ40選」という特集。

 以前三城俊一先生が作成された、第一次世界大戦中のイギリスによる多重外交を説明するLINEのトーク履歴画像がホントによく出来ていてに面白かったので、「これは試験問題に使えそう」とツィートしたことがある。
https://twitter.com/hirai_h/status/911495223544487936
 先日、ルイ16世のツイッターアカウントという設定で作成された世界史の定期テスト問題を目にした。中間テストでフランス革命とナポレオンだから、世界史Aであろう(うちは産業革命までだった)。https://pbs.twimg.com/media/DMd017RU8AEYBJt.jpg

 この問題、私はよく出来ていたと思うし、こんな問題を作ってみたいと思っている。細かいツッコミは出ていたが(例えば、「アカウント名はruiではなくlouisに」とか)、それもまた読んでて楽しいものであった。しかし、同業者たる教員からの反応は今ひとつであったのは実に興味深い。教師アカウントが出題者のパーソナリティを主に取り上げて批判しているのに対し、非教師アカウントは問題の形式を肯定的に取り上げている点もまた興味深い。
 ツイッター上で教員(あくまでアカウント主が「自分は教員だ」と言っているだけであり、ツィートしてる人物が本当に教員かどうかは真偽は不明である....実際、「ツイッターなのでどこまでが本当なのか見た方にお任せしてます」とツィートしてる自称教員のアカウントも実在する)が出したコメントをいくつか拾ってみる(わかりやすい表現に変更したものもある)。
 ・テストに受け狙いは不要
 ・授業プリントだったらとてもいい教材
  (テスト問題としては不適切という意味だろう)
 ・起案の時点で教務から却下されそう
  (テスト問題に起案が必要という点に驚いた)
 ・言葉遣いが不適切で、ルイ16世の人格を生徒が誤解する
 ・こういうテストを出題する教員は如何なものか
  (内容よりも教師のパーソナリティに対する批判だと思われる)
 ・学校のレベルに合わせたテストではないか
 ・TPOを間違えている
 ・このテストは次元を超えている(文脈から判断して否定的なコメント)
 ・私立の進学高校だったらクレームが入ってくる

 「生徒視点で見れば楽しいだろうけど、教員目線で見るともう少し考えられなかったのかなと思います。面白いけど!!」というコメントもあったが、私は十分考えられた試験問題だったと思う。「テスト問題としては不適切だが授業プリントならいい教材」という意見には、「え?なんで?逆ならわかるけど?」というのが私の感想。基礎→応用と段階を踏むのが普通だと思うのだが。
 言葉遣いについては「このセリフ調の文面が如何にも生々しくてTwitterらしい」という意見も見られた。おそらく「なう」「w」の表現を指しているのだろうが、私は作成者の場を読む柔軟なセンスを感じている。なお、ツイッターの特性上、過去の事件が新しい事件よりも下に表示されるという点は仕方ないと思う。順序が逆だという指摘については、「流れについては歴史のテストだから順序的にって感じがします。」という意見があり、同意。「学校のレベルに合わせたテスト」「私立の進学高校だったらクレームがくる」は、いちばん不快なコメント。「自称進学校」とか、エリート意識丸出しの言葉を使う教師。

 クオリティが高い問題を作るには、勉強しなければいけない。このルイ16世の問題を例に取ると、ツィートの時点を何年何月にするかとか、アカウント主をルイ16世にするかマリ=アントワネットにするか、はたまたロベスピエールにするか(私はロベスピエールのほうがよかったような気がするが....球技場の誓いにも参加しているので)を検討するだけでも結構勉強になるのではないだろうか。テストが終わって返却するとき、「ホントは画家ダヴィドのアカウント作りたかったんだけど...」とかの話しが出来れば、なおよいように思う。

 今月の『社会科教育』に掲載されている文章の中で、草原和博先生は評価活動を三つに分類しているが、このルイ16世ツイッター問題は、「履修評価」を行う問題に該当すると思われる。少なくとも「悪問」とは思えないが、「立場が変われば良問も変わる」(草原先生)のだろう。

 世界史Aが始まった頃、「歴史新聞をつくろう」という試みがよく行われていた。私も取り組んだことがあり、作成例として提示するため、『歴史新聞』という本も購入した。最近では小中学生の夏休みの宿題にも取り上げられているようで、「夏休みの宿題の定番、歴史新聞のアイデアと作成例」として、NAVER まとめにも出ている。小中学生時代に歴史新聞をつくった経験がある生徒には、ツイッターやLINEといったツールを用いたテスト問題は面白く感じるだろう。今年(2017年)のセンター試験日本史Aでは「妖怪ウォッチ」「ゲゲゲの鬼太郎」が使用され、2015年の神戸学院大の世界史の入試問題では、池田理代子氏のマンガ『女帝エカテリーナ』が使われた。アニメやマンガを使わなくても、試験問題を作ることは可能だが、ではなぜセンター試験や大学入試で使われるのか、もう一度考えてみたい。こうした試験問題に面白さを感じない教師の感覚は、生徒の感覚から遠ざかってしまっているように感じる。

 小田中直樹先生の著作に『世界史の教室から』(山川出版社)という本がある。大学生を対象に、高校時代に受けた世界史の授業についてアンケート調査を行い、さらに調査で名前が挙がった世界史教員にもインタビューを行うという、実におもしろい本だ(ツイッター上で世界史の授業について発言するなら、せめてこの本くらいは読んで欲しいのだが...)。同業者から批判されることよりも、現役高校生や元教え子、保護者をはじめとした「教員ではない人」から支持されることのうほうが、私にとってはずっと大切なことだ。私もこうした「話題になる問題」をつくってみたいものである。


社会科教育 2017年 11月号

社会科教育 2017年 11月号

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 明治図書出版
  • 発売日: 2017/10/12
  • メディア: 雑誌



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『ひと目でわかる茂木誠の世界史ノート』と『カリスマ講師の日本一成績が上がる魔法の世界史ノート』 [大学受験]

 世界史の教師として、自分の授業を受ける生徒にはどんなノートをつくって欲しいか。教師それぞれに理想のノートがあるだろうし、生徒自身にもあうorあわないがあるようだ。学年が上がって担当者が代わり、板書の形式が変わると、最初は慣れない生徒が出てくるものだ。また自分で工夫して作っている生徒も少なくない。「勉強ノート公開アプリ」の「Clear」で試しに「詳説世界史」を検索すると、高校生によるいいノートがたくさん出てきて、見ててとても楽しい。「神ノート職人」として有名な「みいこ」さんの世界史ノートも公開されている。
https://www.clearnotebooks.com/ja/notebooks/grade/senior-high?utf8=%E2%9C%93&q=%E8%A9%B3%E8%AA%AC%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%8F%B2

 初任から3年間は板書でやっていたが、エピソードやプラスαを紹介したいのと、地図を黒板に書くのがたいへんなので現在も穴埋め式のプリントを使っている。例えば「"敵の味方"は敵?それとも味方?」という話で、日露戦争中の1904年、ロシアの同盟国のフランスと日本の同盟国のイギリスが英仏協商を結んだ背景と、日露戦争前後の国際関係の変化を関係づけて説明する場合、板書だけで生徒へ問いかけるとなると、かなり難しい。生徒の書く時間を考慮すると、プリントの方が「無難」だと感じている。もちろん、授業者それぞれだろうけど。
 
 私を含め、授業で穴埋め式プリントを使っている世界史の教師は多いと思う。ネット上には多くの先生方が自分のノート(穴埋めプリント形式を含む)を公開しており、中にはPDFでDL&印刷可能というテキストまで公開されているサイトもある。しかし、どれがいいかとなるとなかなか難しい。自分のノートを公開している先生方はいずれも自信があるから公開しているのだから、それぞれに素晴らしいものばかりである。このことは、世界史の場合だと一定の経験と向学心がある先生がつくったノートであれば、顕著な差は見られないということも意味している。九州高等学校歴史教育研究協議会(九歴協)では、『世界史要点ノート』という、授業で使ってもらうことを想定した教材をつくっているが、それなりに需要がある。このことは、世界史の場合「少々のことに目をつぶれば、他の教師が作ったノートでも、まぁOK」ということを示している。九歴協では私も『世界史A要点ノート』と『センター世界史』の作成に関わった。それぞれ4人程度で分担して作成したが、編集会議で各自が持ち寄った原稿を検討してみると、作成者による差異はあまり感じられなかった。ただ校種による工夫が必要なのは当然で、専門高校に通った次男と私立中高一貫に通った三男の中学生用世界史のノートを見せてもらったが、それぞれに参考になった。
 一番の問題は、「どこまで触れるか」という内容面でのレベル的な問題だろう。「基本センター試験まで、プラス関関同立」というレベルであれば特に問題ないが、これを超えるレベルを目指す生徒がクラスの半分以上いる場合は厄介である。以前勤務した学校では、世界史を受験に使わない生徒から東大を目指す生徒まで同じクラスに混在していたこともあり、結構苦労したものだ。九歴協の『世界史要点ノート』では、一応の対応策として「応用編」(253㌻)と「標準編」(191㌻)という2種を作成している。


 私が実際に購入した世界史ノートは下の2冊。
 ・『ひと目でわかる茂木誠の世界史ノート』(KADOKAWA)
 ・『カリスマ講師の日本一成績が上がる魔法の世界史ノート』(中経出版)

DSCF3179.JPG

 まず茂木誠先生(駿台予備校)のノートから。穴埋め形式で、基本的には事項と流れを確認する復習用に使うのがいいだろう。片側1ページが時系列の「年表プリント」で重要事項の確認、プラス地図や補足解説からなる「資料プリント」という構成。全122テーマからなり、センター試験レベルとしては十分。それぞれのテーマもうまくまとめてあり、山川出版社の『詳説世界史ノート』など教科書準拠の網羅的なノートに比べれば、うまく取捨選択&再構成されている。受験生だけでなく、世界史で教員採用を受けようという方が使うにも適しているように感じるが、現在手持ちの穴埋め式ノートがあるならばあえて買い直す必要はない。
 私が持っているのは2016年発行の旧判で、2017年には改訂版が発行されている。どうやら旧版では第20章と21章との間にあるべき「世界恐慌~第二次世界大戦」がまるまる抜け落ちていたようだ。茂木先生のサイト「もぎせか資料館」では、その差分がDL出来るようになっている。同サイトでDLできるプリントは、図版などが増えており改訂版だと思われる。DL版は空欄の解答がまとまったページに掲載されているが、復習用として使うなら、旧版のようにページ下にあるほうが勉強しやすいように思う。
 旧版では「第7章:近現代のアジア・アフリカ」というタイトルにもかかわらず、第7章にはアフリカが一切見あたらず、「第8章:第二次世界大戦後の世界」の中の「現代の中東・アフリカ・中南米」に「近代以前のアフリカ」「アフリカの独立」というテーマが含まれるなど構成にも難が見られたが、「もぎせか資料館」のDL版を見る限り、改訂版では解消されているようだ。

 もう一冊『カリスマ講師の世界史ノート』は、佐藤幸夫先生(代々木ゼミナール)によるもの。「佐藤先生の板書を受講生が実際に書き写したノート」が元ネタ。出版に際してノート部分は手書きで書き直したそうだが、凄い板書である。この地図も実際に手書き板書しているのだろうか....たぶんそうだろう。脱帽。
 メインは板書再現ノートの写真で、プラス下段四分の一ほどが解説。したがって、ノートというよりも参考書という側面が強い。板書なので、プリントみたいに全部を書き出すことは不可能だから、解説がないとノート部分だけで流れを理解するのは難しいと感じる。「入試のエキス」や「ノートのスパイス」といったコラムも充実しており、全80テーマ。短期決戦で流れを頭にたたき込みたい人にはオススメ...と言いたいところだが、ノート部分は手書き文字のうえ色がたくさん使われていて、かなり見づらい(私の老眼のせいかもしれないが)。 受験生向けと言うよりも、板書の方法と流れのまとめ方を勉強したい世界史教師向けという気がする。

 ちなみに私が見た世界史の板書で一番スゴイと思ったのは、元代ゼミの世界史担当だった岩田秀全先生。かつて見た「一橋大必勝特別セミナー」での板書は、もはや芸術だった。現在は大学で教鞭を執っておられるようだ。


改訂版 ひと目でわかる 茂木誠の世界史ノート

改訂版 ひと目でわかる 茂木誠の世界史ノート

  • 作者: 茂木誠
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/08/19
  • メディア: 単行本



カリスマ講師の 日本一成績が上がる魔法の世界史ノート

カリスマ講師の 日本一成績が上がる魔法の世界史ノート

  • 作者: 佐藤 幸夫
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/中経出版
  • 発売日: 2013/06/14
  • メディア: 単行本



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