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世界史の授業と「語り口」 [授業ネタ]

 高校で日本史や世界史の教師をしていると、歴史上の人物や事件のオモシロエピソードを紹介する機会は多い。エピソードを紹介する際、伝える手段として言葉だけで語るかそれとも文字を併用するかだが、私はプリントの余白や裏を使って紹介している。自分の記憶力に自信がないため、内容の正確さを期すということと、あとから見直すことが可能という二つの点からである。

 言葉だけで語るにせよ、文字で伝えるにせよ、「語り口」は重要だと思う。私が「語り口」の重要性を感じたきっかけは、『小学校歴史実践選書 歴史の授業の展開』(あゆみ出版)を読んだことであった。「紙芝居屋さんを見習う-語り上手になろう」「話の乱れは頭の乱れ-話し上手になるひけつ」「人を見て法を説け-話・説明・講義の区別」等を読んで、語る内容だけでなく、語り口もまた重要なことだと感じたものである。小川幸司先生の『世界史との対話』(地歴社)を読んだとき思い出したのが、「話の乱れは頭の乱れ-話し上手になるひけつ」の中の一文、「ランケもトインビーも、日本でいえば服部之総も羽仁五郎もひとかどの歴史家といわれる人は、いずれも風格のある話をする。日本の歴史を本気で子どもたちに教えるのなら、最も美しい日本語で、格調高く話をしようではないか。」という一節だった。
 
 内容やクラスの雰囲気に応じて語り口を変えることは重要だと思う。道端で排便中に暗殺されたカラカラ帝や新婚初夜に鼻血を出して死んだアッティラみたいな「お笑い系」のエピソードを紹介するとき、楽しそうな語り口(文体)でいくのか、それともあえて冷静にいくのかという点を、クラスのノリまで考慮した上で使い分けていくということである。以前紹介した『マスダ組提供歴史事典―ワールドワイドウェブ歴史奇譚 (別冊歴史読本)』(新人物往来社)は、マンガとともに笑えるエピソードを紹介した本だが、「語り口」という点でとても参考になる本であった。

 様々な点で衝撃的だったのが、兵庫県の田中忍先生より頂いた先生自作の副読本『世界史の飾り窓』(前編・後編)と『世界史漫才』(前編・後編)。前者は、面白いエピソードから教科書よりも深い解説まで、「教科書には出てこないが、自分が伝えたいこと」を全89回・185本の読み物でまとめてある。一方後者はタイトル通り、ヒトラーからゴルバチョフまで歴史上の人物・事件をネタにした漫才65本(プラスBONUS TRACK2本)が掲載されている。
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 「語り口」という点で、「だ・である調」の『飾り窓』と、漫才の台本形式で書かれた両者は大きく異なる。しかし共通して感じられるのは、「批判的に見て、そして考える」という姿勢。当然のことながら、『飾り窓』と『漫才』が目的としている点は同じだと感じた。世界史に興味を持ってくれる生徒がひとりでも増え、そして自分自身で社会に対する洞察力を磨いていって欲しいという願いである。
 なにより伝わってくるのは田中先生の情熱だ。これだけの分量をワープロで打ち、そして印刷・製本に至るまでに費やした時間とエネルギーを考えると、感服することしかできない。このような自作の副読本を配られた生徒は、それだけで先生を尊敬するだろうし、そしてまた、教師自身が楽しんでいけば、生徒も楽しんでくれるだろう。

 アクティブ・ラーニングという言葉が広がって、かなりの時間が経った。私の授業は語りがメインだったので、正直言ってまだなじめない部分がある。マルクスの『共産党宣言』風に、「教育界に妖怪が現れている。アクティブ・ラーニングという妖怪が。」という気分だ。しかしアクティブというのは身体的な動きだけでなく、脳のアクティブさをも含んでいる。「対話的な学び」に「先哲の考え方を手掛かりに考える」という例も示されていることは、それをよく示していると思う。『飾り窓』『漫才』のような取り組みが色あせることは決してないと感じている。

 ところでカラカラ帝は、軍隊とともに移動中、列を離れて道端で排便中に背後から刺殺されたと言われている。『ローマ帝国愚帝列伝』(新潮社)には「腰を屈めている皇帝の許に百人隊長が走り寄り、背後から渾身の力を込めて剣を突き刺す」とあるので、大きい方だと思ったが、Wikipediaには「軍列を止め、道端で放尿している所を後ろから刺されて絶命したとされている」とある。大?小?どっちだろう。
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「歴史総合」の授業を考える [授業研究・分析]

 去る12月21日、中教審が次期学習指導要領の改定案を答申した[http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1380731.htm]。これを受けて高校の新指導要領は2017年度中に告示され、2022年度から学年単位で実施されることになる。新課程ではおそらく「1年生で公共、2年生で地理総合と歴史総合、3年生で探求科目」ということになる可能性が高いから、歴史総合の授業は2023年度から正式にスタートすることになるだろう。2016年現在50歳の私は、2026年度いっぱいで定年退職となるわけだが、となると3年間は歴史総合の授業を担当しなければならない。大学でアクティブ・ラーニングにもとづく教授法を学んできた若い先生方の足を引っ張らないためにも、今から準備をしておきたい。
 これまで私は「教師は授業が勝負、本をたくさん読んで話題が豊富で、難関大の問題も解けて、受験指導ができる教師こそ理想像」と考えてきた。もちろん教師が勉強するのは当たり前、入試問題も同じく解けて当たり前、そもそも自分自身勉強が好きで、その楽しさを子どもたちに伝えたいと思って教師になったわけだから、前述の考え方が全面的に間違っているとは思わない。しかし、いま振り返って思うことは、こうした知識偏重的な考えが、結局のところ世界史Aを失敗科目としたのではないかということである。
 地理Aと日本史Aはわからないが、少なくとも世界史Aは失敗科目であった。2006年、全国的に世界史未履修が大きな社会問題となったが、その後は未履修逃れのために「世界史Aの看板で、実際は世界史Bの授業を行う」という学校が続出し、これが愛知県で不適切とされながらも今なお全国各地で行われているのは暗黙の了解である。歴史教科書では最大手の山川出版社に至っては『世界史A読本』などという、見方によっては悪い冗談としか思えないタイトルの冊子をつくっていたが、この冊子の需要がかなりあったということが実態を物語っている(最近は『書き込み教科書』を使っている学校が多い)。進研模試の「世界史B」で「近代から学んだ生徒向け」の問題が準備されていたり、熊本県の県下一斉テストの結果を見ると、教育課程上「世界史A」を履修しているはずの学校の生徒が、ほぼ全員古代オリエントや古代ギリシア・ローマの問題を選択しているという例もある。かく言う私も、2年生の世界史Aをルネサンス・宗教改革から始めることでなんとか不適切履修逃れをしているのが実態であり、やはり世界史Aは失敗科目だったと言わざるを得ない。
 
 新しく設置される「歴史総合」を「世界史A」の二の舞にしないためには、一体どうすればよいのだろう。一番簡単な方法は、「歴史総合」をセンター試験に入れないことではないだろうか。現行の「世界史A」は、「世界史B」のダイジェスト版というイメージは拭えない。このため、特に進学校といわれる学校では「ラベルは世界史Aだが中身は世界史B」という授業が横行することになってしまった。しかし、新たに設置される「世界史探究」の内容が、現行の「世界史B」に近い内容だとすれば、「歴史総合」と「世界史探究」はかなり違った内容になると感じている。したがって、「歴史総合」の看板で「日本史探究」や「世界史探究」を行おうという例は、あまり現れないのではないだろうか。もし「歴史総合」を受験科目化してしまえば、「受験にも使えるから」という理由で日本史専門の教師と世界史専門の教師が交互に授業を担当し、それも「世界史探究」と「日本史探究」の内容を教えるという事態にもなりかねない。こうなってくると、「歴史総合」は「世界史A」と同じ運命をたどることになってしまうような気がする。これを避けるには、「歴史総合の単独の問題」をセンター試験から外して、担当者が入試をあまり気にせずに授業を行える環境にしてくれるとありがたい。今のセンター試験では、「世界史Aは必修なのに入試に役立つ科目ではない、にもかかわらず受験を意識した授業をしなければならない、おまけにセンター試験の世界史Aは世界史Bと比べて難易度が低いとも言えない」というのが私の感覚である。確かに「入試科目にしないと勉強しない」という意見はもっともだが、大学入試センターウェブサイトで地歴のA科目受験者の数をみれば、「歴史総合」単独でセンター試験を行う必要性はあまり感じない。それよりも日本学術会議が今年の5月に出した「歴史総合」に対する提言[http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t228-2.pdf]では、「入試科目としては「日本史B」、「世界史B」などと合わせて1科目にするという方法も考えられる。」という考えが示されているが、これには賛成である。新課程で「世界史探究」を課す大学は、センター試験・国公立大個別試験・私大を問わず、「歴史総合の内容を含む」という形式は、たいへんよいアイディアだと感じる(理科では行われている)。ただ心配なのは、「世界史探究」の内容(分量)である。もし現行の「世界史B」と同じ程度のボリュームならば、4単位で完結させることはかなり難しいのではないか。となると、また様々な問題が生じかねない。
 

 新科目「歴史総合」で、私が注目してる点をあげておくと、
「高等学校学習指導要領における「歴史総合(仮称)」の改訂の方向性」(文科省) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/062/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/06/20/1371309_09.pdf

①「私たち」という当事者意識
  ・18世紀後半から現在 「近代化と私たち」
  ・19世紀後半から現在「大衆化と私たち」
  ・20世紀後半から現在「グローバル化と私たち」
 ②3点あげられている特徴
  ・世界とその中における日本を広く相互的な視野から捉える
  ・課題の解決
  ・歴史の学び方を習得

 上記の点には、日本学術会議の提言にある「能動的に歴史を学ぶ力を身につける」「世界と日本の歴史を結びつけて学ぶ」という内容も反映されていると感じている。

 以上をふまえて、「歴史総合」の授業案を考えているが、「単元の基軸となる問いを設け,資料を活用しながら,歴史の学び方を習得」するとあるため、授業は単元として構成し、「現代的な諸課題につながる」ように方向付けをしなければならない。「歴史総合」の教科書づくりは相当難航すると予想されるが(副教材=資料集づくりは、出版社も頭を痛めているようだ)、「歴史総合」の授業は「単元の基軸となる問い」をうまく設定できるかどうかにかかっている。生徒に対する評価を「問いに対する答え」でも行っていく以上、「単元づくり=授業づくりは問いづくり」になるような気がしている。

 最近読んだ本で、「歴史総合」の授業づくりに使えそうだと思ったのは、加藤陽子先生の『戦争まで』(朝日出版社)だ。先の大戦を考察するとき、加藤先生によれば日本は世界から「どちらを選ぶか」と三度問われ、結果として太平洋戦争への道を選んでしまった。三度とは、「リットン調査団への対応」「日独伊三国同盟」「日米交渉」である。加藤先生曰く、「この講義の目的は、交渉ごとに直面したとき、よりよい選択ができるように、シュミレーションしたことにある」と。交渉ごとに限らす、人生は選択の連続でもある。当事者としてよりよき選択を考えることは、主権者教育の一環としても適しているのでないだろうか。以下、加藤先生の著書をネタにつくった、「大衆化と私たち」に関わる歴史総合の試案である。


単元 「二つの世界大戦」(6時間構成)
  基軸となる問い:「第一次世界大戦後、国際協調の時代を迎えたにもかかわらず、第二次世界大戦に至った原因は何だろうか」
1時間目:総力戦としての第一次世界大戦
 「第一次世界大戦が、それ以前の戦争に比べて大規模になったのはなぜだろう」
2時間目:国際協調の時代
 「第一次世界大戦の反省は、どのような取り組みに現れているだろう」
 「日本は国際協調に、どのように関わったのだろう」
3時間目:世界恐慌のはじまり
「なぜアメリカで起こった株式の暴落が各国の不況へ波及したのだろう」
  (「経済の大衆化」)
4時間目:世界恐慌への対応
 「世界恐慌は世界にどのような影響をもたらしたのだろう」
  (「政治の大衆化」)
5時間目:第二次世界大戦の惨禍
「日中戦争・ヨーロッパの戦争・太平洋戦争の概要をまとめてみよう。」
6時間目:為政者としての選択~アメリカとの妥協か戦争か?
 「日本は、日独伊三国軍事同盟締結後に本格的な日米交渉を開始した。にもかかわらず、なぜ日本はアメリカとの戦争を選んだのだろう」


 「主体的・対話的で深い学び」という視点から、6時間目ではグループでの話し合いを取り入れたい。 「日本悪玉論」に陥らないように注意する必要があるし、またテーマやプロセスについて具体的に指示しないと、「活動あって学びなし」という身体的なアクティブさだけの授業になってしまうことにもなりかねない。ここは「話のもって行き方」をさらに検討したいところだ。

 これまでは「一歩下がって歴史事象を客観的に分析する」のが歴史の授業の王道だと思っていた。その考えを大きく変えざるを得なくなったという点で、私が体験する最後の改訂である新学習指導要領は、重い改訂である。


戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

  • 作者: 加藤 陽子
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2016/08/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)

それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)

  • 作者: 加藤 陽子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/06/26
  • メディア: 文庫



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『社会科教育』2016年10月号(No.690) [授業研究・分析]

 今年の夏は宮崎県進学指導研究会と熊本県の学習指導要領研究会で、アクティブ・ラーニングについて話をさせてもらったが、冒頭「原理主義者で抵抗勢力の私がアクティブ・ラーニングについて語るのは適当ではないかもしれない」と冗談交じりで断ってから話を始めた。内容をかいつまんで言うと、
 ①授業が対話的・協働的・深い学びの視点から改善されていけばいい。
  教師が一方的にしゃべるだけにならければ、まずはそれでいい。
 ②入試問題をグループ学習で取り組ませれば、アクティブ・ラーニングになる。
  ネタはセンター試験で使われた統計資料や、単文論述。
 ③グループ学習だけがアクティブ・ラーニングじゃない。
  「静かなアクティブ・ラーニング」も十分アリ。

というところ。「授業時数が足りずに話し合いなどに時間がとれない中、何をどう工夫してるか」という実践報告と言った方がいいかもしれない。ちなみに②で使ったネタは、今年のセンター試験世界史B(本試)の問題番号12(国名を消して考えさせる)、2000年度センター試験世界史B本試験第1問B の軍事費の推移、1990年度センター試験世界史(追試)第1問D 欧米主要国の経済、1999年度 世界史A(本試) 第4問B の鉄道の営業キロ数( 吉岡昭彦『インドとイギリス』岩波新書のインドにおける鉄道、飢餓の国の貿易黒字)、井上勇一『鉄道ゲージが変えた現代史』(中公新書 の鉄道ゲージの話などを先に読ませる)。③では、増田義郎『略奪の海カリブ』(岩波新書)を読ませて、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『アミスタッド』の奴隷貿易船の様子を見せる。そして1990年の神戸市立外国語大の砂糖と奴隷貿易に関する問題を考えてみる、というところ。


 アクティブ・ラーニングに関する実に興味深い記事を読んだ。『アクティブラーニングは「3つの構造的限界」によって学力が育たないようになっている』というタイトルである。筆者は国語の指導で知られている福嶋隆史先生。
 https://mine.place/page/151097cf-77f1-439d-8dd0-9bb010ae30fe

「時間の限界」「評価の限界」「知的な限界」を提示した上で、それぞれ論証してあり、正直「その通りだ」と納得してしまった。「時間の制約」「個別評価の困難さ」については、これを危惧しない地歴科の教師はいないだろう。「知的な限界」については、私もかつて中学校の歴史分野の授業を見たときに感じたことだ。なかでも最も「わが意を得たり」と感じたのは、アクティブな精神活動よりも身体的なアクティブさの方を優先する風潮に対する危惧である。なお、「負の影響」も2点あげてあるが、この点に関して私は何とも言えない。

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 「個別評価の困難さ」について、雑誌『社会科教育』10月号(No.690)で「アクティブ・ラーニングで評価はこう変わる」という特集が組んである。珍しいことに、高大連携歴史教育研究会のウェブサイトでも紹介してあった。この雑誌は以前小中学校の教員が主なターゲットであったが、最近は高校の教員向けの記事も増えてきた。アクティブ・ラーニングの導入に最もとまどっているのは高校、それも地歴科の教師であり、読者も増えているのだろう。「アクティブ・ラーニング祭」が本格化して以降、以前よりもこの雑誌を購入する頻度は私自身増えている。そうした中、10月号の特集はこの一年間で最も面白く、読み応えのある記事が多かった。その中で、印象に残った記事を2~3あげておきたい。

 アクティブ・ラーニングに関する指導では著名な小林昭文先生の記事は、最も興味深いものであった。小林先生は高校の理科(物理)の先生なので、内容も一般化されてり、小中学校の社会科教師向けに書かれた記事よりもはるかにわかりやすい。定期試験の点数だけというのは、目から鱗である。アクティブ・ラーニングの目的は、アクティブ・ラーナー(「学び続けることを幹に持つ、未知な問題や状況にも果敢に挑戦するスピリットと行動力を備えた人」九州大学基幹教育院のホームページより)の育成だと私は考えているが、その点も結果として出ている。

 高校における歴史授業の実践例として竹田和夫先生の「アクティブは反転学習から、評価はペア・班別総選挙で!」も大変興味深い記事であった。ただ反転学習に関しては、高校で実施可能かどうか私は懐疑的な意見を持っている。福嶋先生の記事で「時間の限界」「評価の限界」「知的な限界」という点が指摘してあったが、『社会科教育』10月号でも似たような問題点は指摘されている。①時数が足りない、②もっと活発に議論させたい、③評価に時間がかかりすぎるという3点だ(74㌻)。「時間の不足」という切実な問題について『社会科教育』の記事は、「アクティブ・ラーニングの実施によって生じる授業時間の不足を反転学習で補う」という提案がなされている。しかし、数学や英語、国語といった「取り立てが厳しい教科」の強制的課題さえ提出しない生徒が多い学校では、反転学習の実施はムリだと思う。おそらく大部分の生徒にとって地歴科目の課題などに費やす時間はないだろうし、私自身も世界史の授業に関して、テスト前以外の日常的な家庭学習など期待してはいない。

 高校教師向けに「社会科授業で使える この数字・このデータ」という記事もあったが、期待が大きかっただけに、ガックリ度も高かった。世界史にしろ日本史にしろ、この記事で紹介されている事項を知らない高校の教師が果たしているのだろうか?「蒙古襲来」の民族構成から国際環境を扱うなら、文永の役と弘安の役の比較をさせて南宋滅亡などの国際情勢の変化までをとらえさせるべきだろう。「蒙古襲来絵詞」で蒙古軍が使用してる弓の形状の違いも使える。「図版・写真等を素材としてる例の方が多いような気がしている」という指摘も疑問だ。世界史のセンター試験では確かに図版・写真も数多く使用されているが、数字やデータの方が「考えさせる」度合いはずっと高い。



社会科教育 2016年 10月号

社会科教育 2016年 10月号

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 明治図書出版
  • 発売日: 2016/09/12
  • メディア: 雑誌



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アヘン戦争の絵 [授業ネタ]

 教科書を読んでいると、時々驚くような記述に遭遇することがあり、そんなときは本当にうれしくなる。最近だと、アヘン戦争で中国のジャンク船が爆発している図版の解釈。かつて熊本県の公立高校入試(社会)にも使われた有名な図版(こちら)だが、最近まで私は図版の右奥に見えるネメシス号が撃った砲弾がジャンク船に命中し、爆発したものだとばかり思っていた。

 しかし、かならずしもそうだとは言い切れないようだ。このことを知ったきっかけは、現在私が勤務している学校で使用してる教科書「世界史A」(東京書籍、世A301)に掲載されているこの図版の説明に疑問を感じたことだった。
 東書の「世界史A」では、この絵に関して「1841年1月、広州湾でイギリスの軍艦(右奥の帆がない蒸気船)に砲撃されるジャンク船がえがかれている。」という説明がついてるが、私が疑問を持ったのは、「帆がない蒸気船」という記述だ。熊本県の公立高校入試でこの絵が使われたときの問題は、「どちらがイギリスの船か、その理由もあわせて答えよ」というものだったと思う。そのとき、19世紀の蒸気船は帆も併用して航海し、風の影響を受けないようにするときは帆をたたむということを知り、「帆がない」という説明をした答案はすべて誤答として採点した。英語版Wikipediaのネメシス号の項目には、帆走してる図版が掲載されている。 https://en.wikipedia.org/wiki/Nemesis_(1839)

 このことがきっかけでネメシス号のことを調べているうちに読んだのが、大阪大学西洋史学研究室が発行している『パブリック・ヒストリー』第10号[http://www.let.osaka-u.ac.jp/seiyousi/JHP_10_2013.html]に掲載された、吉澤誠一郎先生の論文「ネメシス号の世界史」である(http://www.let.osaka-u.ac.jp/seiyousi/vol_10/pdf/JHP_10_2013_1-14.pdf)。この絵が二種類あるということにも驚いたが、もっと驚いたのは「ジャンク船を撃破しているのはネメシス号ではなく、右側の小さなボートの可能性がある」という指摘だった。以前、「蒸気船は、風や潮流に左右されずに大砲の照準を合わせることができたり、海上の障害物を撤去できたりしたから木造帆船より有利」(『ビジュアル版世界の歴史17 東アジアの近代』講談社、『世界の歴史25 アジアと欧米世界』中央公論新社)ということを読んだこともあり、「ネメシス号がジャンク船を砲撃・破壊してる」とばかり思っていた。
 吉澤先生の論文では「ネメシス号がロケット砲でジャンク船を砲撃し、破壊してる」という従来からの説が正しい可能性にも触れている。しかし、ネメシス号の果たした大きな役割は、喫水が浅いため陸戦隊を輸送・上陸させるという任務を担ったことや、ロケット砲(コンクリーヴ・ロケット)が威力を発揮できたのは相手が木造の船だったからという指摘は大変興味深い。「圧倒的な近代兵器の威力」というわけでもなさそうだ。

 現行の帝国書院の教科書『新詳世界史B』(吉澤先生も執筆者の一人である)は、吉澤先生の論文をふまえ、絵が二枚あることに触れており、小型ボートが砲撃しているという説をとっている。東京書籍の平成29年度版世界史A教科書も、帝国書院『新詳世界史B』とほぼ同じ説明に大きく変わっている。しかし実教出版の世界史A教科書(平成29年度版)は、「右奥のイギリス船が砲撃している」という説明のまま。実教の教科書が掲載してる絵は「小型ボートあり」の方だが、ネメシス号砲撃説をとっているプロジェクターなど使って、2枚並べて話ができれば面白いかも。


 先日、東京都立両国高校で「世界史Aの内容不足があり、在校生には補習授業をすることになった」という報道があった。私が最初にこのニュースを知ったのは、高大連携歴史教育研究会のMLからだったが、「内容不足」という言葉の意味が理解できなかったので、東京都教育委員会のホームページ[http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/2016/pr160923.html]をみたところ、ますますわからなくなった。以下のような記述である。
 
 東京都立両国高等学校において、保護者から第1学年で実施している「世界史A」の内容が不十分ではないかとの指摘を受け、東京都教育委員会において調査を行いました。  その結果、当該校では、平成24年度より、歴史の大きな流れについての理解を深めさせるため、前近代の学習内容を近現代の歴史的事象と関連させながら学習を行っていましたが、第一次世界大戦前後や冷戦の終結に関する内容など、関連させる近現代の内容の一部が不足していました。  なお、本件については、「世界史A」の内容が一部不足していたということから、未履修に該当するものではありませんが、不足を補うため、第1学年については授業計画を改善し、2・3学期で全ての内容を実施することとし、第2学年及び第3学年の該当生徒に対しては補習等を実施することとしました。

 「世界史Aの看板で世界史Bをやっていた」(数年前に愛知県で指摘されたこと http://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/30896.pdf)ということならば、アウトでも仕方ない。しかし、普通に進めていて時間が足りなくなっったということなら、どこの学校でも、どの教科科目でもおこりうることだろう.....と思ったのだが、「両国高校の1年生」という人から私のツイッターアカウントに届いたメッセージによれば、「世界史aという名目で世界史bという高度なところを教える」と保護者会では説明されたと。2chでも話題になっていたように[http://daily.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1474641770/](番号204の発言)、ネット上に残っていたシラバスをみると完全に世界史Bで、「第一次世界大戦前後や冷戦の終結に関する内容など、関連させる近現代の内容の一部が不足」どころの話ではない。「世界史Aの看板で世界史Bをやってた」と本当のことを言ってしまうと、影響があまりに大きくなるので配慮したのか?と勘ぐってしまう。この件がほとんど話題にもならず、東京の一つの高校だけで終わりそうなのも、様々な配慮が働いたのでは?とこれまた勘ぐってしまう。まぁ、現実的な対応を考えれば、こういうことに落ち着くのだろうが、「それはおかしい」という声が聞こえてこないのも、それでいいのかという気になる。

 来週は文科省から世界史の教科調査官の先生が来校するので、授業を見てもらう。フランス革命(2時間目)の予定なのだが、明日台風で休校決定。明日からの予定だった中間考査は日程が変更となり来週までずれ込む。最近台風で休校や授業カットが続き、「アメリカ独立」までの予定だった中間考査は産業革命までになってしまった。大丈夫か?



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受験指導とアクティブ・ラーニング [授業研究・分析]

 「今なお高校地歴科(なかでも歴史学習)は教師主導型授業の牙城であり、生徒の活動を重んじた先導的実践が行われ、学習指導要領の改善が度々図られてきたとはいえ、「極北の地」であることに異論はなかろう。」

 この一文は、神戸大学附属中等教育学校が文科省の指定を受けて開発した高校地歴科の科目「地理基礎」「歴史基礎」の「実施報告書Vol.2」(平成27年2月発行)の巻頭言である。私自身、まったく異論はない。これは何を意味しているのか。教員養成系大学で開発されてきた歴史の授業は、いずれも失敗だったということである。以前(7年前)にも指摘したことだが(http://zep.blog.so-net.ne.jp/2009-05-25)、状況的にはあまり変わっていないようだ。そして「極北の地」にもアクティブ・ラーニングが導入されることにより、教育現場はますます混乱しているように感じる。

 「最後に一つ課題として指摘したいのは、世界史教育への危機意識が弱いと感じられる点である。知識獲得型の講義授業も現状ではやむなしとしているが、日本の世界史教育は悠長にかまえていられる状況にはない。探求的世界史学習いつやるのとの問いには、「今でしょ」と即答していただきたい。」
 こちらの文章は、全国社会科教育学会が発行している『社会科研究』第79号(2013年11月発行)に、書評として掲載された文章の一節だ。こうした現場を無視した物言いが、「活動あって学びなし」の歴史授業(http://zep.blog.so-net.ne.jp/2014-02-23)を褒めそやす風潮を生んでいるのではないか。

 アクティブ・ラーニングに関する本はかなり読んできたが、その中で心に残ったのは次の一文。
「アクティブ・ラーニングというと、賑やかに活動している場面を想像しやすいが、「静かなアクティブ・ラーニング」も有効ではないか。他者とノートを静かに交流し合うことはもちろん、一人一人がテキストを静かに読み、その理解を文字化しながら考えを深めていく、これも静かな「アクティブ・ラーニング」。生徒が集中して静かに考え、それを言語化する場面の設定が重要だ。」
 これは『月刊高校教育』2015年11月号(特集「アクティブ・ラーニングは怖くない!?」)に掲載されていた「「生きて働く質の高い学力」を培うアクティブ・ラーニング」の中の一文。筆者の渡邉久暢先生は国語の先生のようだが、「静かなアクティブ・ラーニング」は、「深い学び」に通じるのではないだろうか。思索することも、歴史の授業では必要だと思う。

 そしてもう一つは、『すぐ実践できる!アクティブ・ラーニング 高校地歴公民』(学陽書房)という本。アクティブ・ラーニングで使う課題について「課題は、出張時などに生徒に取り組ませる自習課題をイメージしてください。」「(教科書の)指導資料の中にある問題例を課題として使用します。」「教科書指導資料に加えて教科書準拠のノートを生徒が購入していれば、ノートに載っている問題を課題としてそのまま使うことができます。」という紹介。これは使えそう。現場の先生方の視点は、現実に即している。




すぐ実践できる!  アクティブ・ラーニング 高校地歴公民 (アクティブ・ラーニング教科別実践法シリーズ)

すぐ実践できる! アクティブ・ラーニング 高校地歴公民 (アクティブ・ラーニング教科別実践法シリーズ)

  • 作者: 後呂 健太郎
  • 出版社/メーカー: 学陽書房
  • 発売日: 2016/04/19
  • メディア: 単行本



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『クロムウェル』(ケン・ヒューズ監督、1970年、イギリス) [歴史映画]

 たまたまヤフオクで見つけて購入したこの映画、意外な当たり。クロムウェル役は故リチャード・ハリス、一方処刑されるチャールズ1世は故アレック・ギネスという豪華な組み合わせ。リチャード・ハリスは『グラディエーター』(2000年)でマルクス・アウレリウス・アントニヌス帝を、また『ハリー・ポッター』シリーズの初期2作ではダンブルドア校長を演じた俳優であり、アレック・ギネスは『スター・ウォーズ』のオビ・ワン=ケノービ。つまり「魔法学校の校長にして哲人皇帝と、ジェダイ・マスターが対峙する」という、なんともマニア受けする映画だ。
 チャールズ1世の甥でルパートという人物が出てくる。演じているのは、4代目007ジェームズ・ボンドのティモシー・ダルトンで、このルパートがけっこう活躍するので調べてみたところ、なかなか興味深い人物である。彼は映画の中で「パラタイン伯」と呼ばれているが、Palatinateはドイツのプファルツ(ファルツ)のこと。母親はチャールズ1世の姉エリザベスで、父親がプファルツ選帝侯であった。ルパートの妹ゾフィーはハノーヴァー選帝侯妃となり、のちのイギリス・ハノーヴァー朝初代ジョージ1世を生むことから、ルパートはジョージ1世の伯父という関係になる。

 クロムウェルの苦悩する部分が強調されており、かなり好意的に描かれているが、一方でチャールズ1世も、処刑の際の堂々とした態度などこちらも好意的。処刑のシーンは、山川出版社の『世界史写真集』とほぼ同じなので、この部分を授業では使った。
 一番の見所は、エッジヒルの戦い(映画中では議会側敗北として描かれているが、実際は引き分け)→クロムウェルによる鉄騎隊創設→ネーズビーの戦いという流れで描かれてる迫力ある戦闘シーン。同じく17世紀の三十年戦争を描いた『アラトリステ』における戦闘シーンを大きく凌ぐスケール。『アラトリステ』の三十年戦同様、長槍(pike)の部隊が主力である。
 17世紀の議会の様子も、なかなか興味深い。ヨアン・グリフィス&ベネディクト・カンパーバッチの『アメイジング・グレイス』で見られる18世紀末のイギリス議会では、多くの議員が銀色の髪のカツラを着用しているが、『クロムウェル』で描かれている17世紀のイギリス議会では、議員の多くが黒い帽子と黒いコートを着用してる。

 古い映画なので、日本語吹き替えと英語字幕がないのが残念。



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大学入学希望者学力評価テスト [大学受験]

 高大接続システム改革会議で公開された「大学入学希望者学力評価テスト」のイメージの例等(マークシート)には、世界史の問題が含まれています(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/033/shiryo/1367231.htm)。 この問題例で提示されていたグラフは、2013年の大阪大学の問題で使用されていた資料と同じでした。二つの問題とも、長期的なGDPの推移から、どれが西欧・中国・日本等を示しているかを推理するという点では共通しています。また問題の形式では、「会話調」という点でも共通点が感じられます。
 大阪大学の正答率はあまりよくなかったようで、翌2014年の問題では、会話文の中で前年2013年のグラフが再度取り上げられました。会話は高校生と先輩の大学院生との間で交わされているという設定で、高校生は「このグラフのAとBはどちらが中国で、どちらが西ヨーロッパかわからないんですが」と発言しています。この問いかけに対して先輩の大学院生は「Bに対抗してワッハーブ運動が起こったっていうんだから、Bが西欧だとわかるよね」と答えていますが、他の設問から正答を導き出せという指摘は、せっかくのよい資料が生かされていないという印象はぬぐえませんでした(http://zep.blog.so-net.ne.jp/2013-03-09)。
 一方、改革会議版の問題では、西欧と中国の区別は十分可能です。阪大の問題と改革会議の問題との資料提示の違いは、ヨーロッパと中国が逆転した19世紀前半の数値が、阪大版で提示されたグラフでは確認できない点にあります。19世紀前半の数値が含まれていれば、『VIEW21』6月号(ベネッセコーポレーション)の特集でも触れられているように、アヘン戦争以降の西欧と中国の逆転を想起することが可能となり、難易度はかなり下がります。むしろそのほうが多面的な思考が可能となるように感じますが。阪大2014年の会話文で触れられている「中国における17~18世紀の人口の変化」が、改革会議版でも使われていることから、改革会議版は阪大版を参照していることは明らかですが、完成度はかなり上がっていると言えるでしょう。
 小川幸司先生は『VIEW21』掲載の記事で、「考える授業への転換」のため「生徒を揺さぶる問い」が必要だと指摘しています。改革会議は、世界史の授業で重視すべき学習のプロセスと評価すべき具体的な能力を案として提示してますが、ざっくりとまとめてしまうと、森分孝治先生が主張していた「なぜか、という問いに対して説明できる能力」ということでしょう。そのためには、生徒に考えさせるネタが必要です。今年の1月に実施されたセンター試験の世界史Bでも統計資料を用いた問題が出題されていましたが(問題番号12)、このような資料は、大いに活用できるのではないでしょうか。

 さて、 8月8日に宮崎県の大宮高校で開催される宮崎県進学研模試問題作成力アップ研修会に講師としてお招きいただいております。精一杯頑張りたいと思っていますが、与えられたテーマの一つに「問題作成力を授業力向上にどのように結びつけるか」というものがあります。私自身まったく目途はついていませんが、ますます重要となるテーマだと思いますので、現時点での私の考えを述べさせていただきたいと思っています。私もいろいろとご意見をうかがいたいと思っています。
 この文章をお読みの方の中で、宮崎県の先生がおられましたら、前日から宮崎市内に宿泊しますので、7日の夜に情報交換をお願いできたら幸いです。私のツィッターまたはフェイスブックに連絡いただけたら有り難いです。よろしくお願いします。

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『アラトリステ』(アグスティン・ディアス・ヤネス監督、2006年、スペイン) [歴史映画]

【映画について】
アルトゥーロ・ペレス=レベルテによるスペインのベストセラー小説『アラトリステ』 (西: El capitán Alatriste) シリーズを原作とする初の映画化作品である。監督はアグスティン・ディアス・ヤネス。ストーリーは、映画化開始の時点で発表済みであった原作5作品の内容に加えて未発表部分までも網羅し、孤高の剣士アラトリステの20年余に及ぶ後半生を1本の映画に凝縮して描く決定版として制作された。アラトリステ役にはヴィゴ・モーテンセンを起用し、製作費にはスペイン映画史上の最高額となる2,400万ユーロが投じられた。スペインの映画賞、第21回ゴヤ賞(2007年)では、製作監督賞、美術賞、衣装デザイン賞の3部門を受賞。(Wikipediaより)

【ストーリー】
 17世紀初頭のスペインは欧州の強国であったが、アルマダの海戦で大英帝国軍に敗れてから、勢力は衰退しつつあった。国王フェリペ4世は寵臣オリバーレス伯爵(ハヴィエル・カマラ)に国政を任せていたが、国内外で様々な問題が持ち上がっていた。1622年、マドリード最強の剣客ディエゴ・アラトリステ(ヴィゴ・モーテンセン)は国王の傭兵としてフランドルの戦場に赴き、友人のグアダルメディーナ伯爵(エドゥアルド・ノリエガ)の命を救う。1年後、マドリードに戻ったアラトリステの元に、英国から来る2人の異端者を殺せと言う依頼が舞い込む。それは英国皇太子チャールズを抹殺するため、異端審問官ボカネグラと国王秘書官アルケサルが仕掛けた謀略だった。アラトリステは不穏な空気に気づき、寸前で暗殺を思い止まる。この事件からアラトリステは、アルケサルとその部下の殺し屋マラテスタに狙われ、オリバーレス伯爵から監視されるようになる。アラトリステは、フランドルで戦死した仲間の息子イニゴを引き取って育てていた。ある日イニゴはアンヘリカという美少女と出会い、恋心を抱く。アンヘリカはアルケサルの姪で、アラトリステの失脚を狙うため、イニゴを誘惑するよう差し向けられていたのだ。一方アラトリステは、旧知の女優で人妻のマリア(アリアドナ・ヒル)と3年ぶりに再会し、愛を交わす。1625年、アラトリステは、オランダ軍の要塞都市ブレダを陥落させる戦いで活躍する。10年後、グアダルメディーナ伯爵の指令で国王の金塊を奪還するため、アラトリステはフランドル船に乗り込む。そこで殺し屋マラテスタと対決し、返り討ちにする。アラトリステは、夫が余命幾ばくもないマリアと人生を歩む決意し、愛の証として美しい首飾りを贈ろうとする。成長したイニゴ(ウナクス・ウガルデ)はアンヘリカ(エレナ・アナヤ)と再会し、イタリアへの駆け落ちを誓う。しかしアラトリステとイニゴの愛は宮廷の思惑によって引き裂かれ、彼らは壮絶な運命を辿っていく。
(KINENOTE http://www.kinenote.com/ より)

【見所など】
 ベラスケス関係のネタが出てくる。命拾いをしたグアダルメディーナ伯爵が、アラトリステを自邸に呼んで密談するシーンで、新しい宮廷画家としてベラスケスの絵「セビリアの水売り」を見せる。また、山川の『世界史写真集』収録の「ブレダの開城」のもととなったブレダ包囲戦の模様は映画中でも描かれており、ベラスケスの絵も登場する。ブレダ攻城戦では、この映画で描かれているとおり、地下の坑道を使った戦いも行われた。国王フェリペ4世は、ベラスケスの「女官たち」で、妃とともに鏡の中に描かれている。
三十年戦争の戦争シーンも興味深い。映画のクライマックスはラクロワの戦い(1643年)で、史実でも数に勝るスペイン軍がフランス軍に敗れている。山川の『世界史写真集』収録の三十年戦争の図で、まるで古代ギリシアのファランクスのような陣形をとっている点にどうも違和感があったのだが、この映画でスペイン軍が「テルシオ(Tercio:スペイン方陣)」という方陣を組んでフランス竜騎兵に対応するシーンをみて、なるほどこういうものかと納得。三十年戦争へのフランス参戦に衝撃を受けた宰相オリバーレス伯爵が、リシュリューとの交渉を画策する場面も出てくる。
 映画全体を、「17世紀の一傭兵の生涯」という視点で見ると、面白いと思う。

【字幕における誤訳問題】
 詳細はこちらのエントリーを参照。
   http://grandesas.exblog.jp/11870355/
 上で引用したKINENOTEのストーリーは、「誤訳版」によっている。映画を観ないでこのブログ記事だけ読むと、たいした違いではないように思われるが、「結婚を決意した」という理解で映画を観ていくと、後半アラトリステが病床のマリアを見舞うシーンがまったく意味不明になってしまう。




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来年度用の教科書を読む [たんなる日記]

 来年度から使用される教科書の見本が届いており、ここ数日は世界史Aの教科書をずっと読んでいるのだが、全体的に「AとBの境界ギリギリのラインで、各社ともよく努力されている」、すなわち各社とも記述が以前より詳しくなっているというのが全体的な印象。各社1冊で計6冊を読んでいるところ。以下は私の備忘録代わりのメモ。

A社
 オランダ独立に関する記述がもっとも詳しい。オラニエ公ウィレムとユトレヒト同盟が太字で、現在のオラニエ=ナッサウ家にも触れてある。フェルメールの絵が掲載されているなど、図版がもっとも充実している。しかし、資料集との併用を考えれば、微妙なところではある。巻末の用語解説は便利。

B社
 首長法、ジェームズ1世、権利の請願、リシュリュー、外交革命など他にはあまり載っていない用語が取り上げられている。三十年戦争の項目では、「旧教国フランス(ブルボン家)がハプスブルク家に対抗するために新教側で参戦し、宗教戦争から政治戦争に性格がかわった。」という記述や、「新教をめぐる決定」という一覧表で、アウクスブルクの和議・ナントの勅令・ウェストファリア条約・ナントの勅令廃止の4項目を比較。「17~18世紀のヨーロッパ文化」の後にアジアの繁栄が出てくるという構成なので、オスマンや清帝国の成立と発展をすっ飛ばして、いきなり衰退というAの弱点も克服できるかもしれない。

C社
 この教科書も、三十年戦争の性格の変化について触れている。
 
D社
 ルターの若い頃?の図版は、「料理上手の女性と結婚して太り始めた」というネタに使える。

E社
 三十年戦争の項目で「オーストリア=ハプスブルク家が支配するベーメンでの反乱を発端に」という記述。エリザベス1世からイギリス革命をへて立憲君主政の成立まで7行でまとめるという荒技。

F社
 宗教改革の項目で王権の強化=主権国家の形成までまとめる。「カルヴァンとフランス」で、カルヴァンからナントの王令まで。確かにカルヴァンはフランス出身だが....「イギリス国教会」ではヘンリ8世からエリザベス1世まで。絶対王政の説明はその後に出てくる。「それまで地中海で優勢であったオスマン帝国の海軍を破った(レパントの海戦)ので、スペインの海軍は無敵艦隊と呼ばれた。」という説には、異説もある模様。
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映画『エリザベス』『エリザベス:ゴールデン・エイジ』で授業を進める [授業研究・分析]

 昨日と今日は2年生4クラスの世界史Aで、映画『エリザベス』と『エリザベス:ゴールデン・エイジ』を使って授業を進めてみた。基本パターンは以下の通り。

1.『エリザベス』:メアリ1世とエリザベスの会話のチャプター。2人の確執と、カトリックVSプロテスタントの対立。系図で、イングランド・テューダー家とスペイン・ハプスブルク家の関係を確認(メアリは従兄弟のカルロス1世の子フェリペと結婚している)。
2.『エリザベス』:戴冠式のチャプター(このシーンはウチが使っている資料集『グローバルワイド』(第一学習社)に写真がある)。チャプター冒頭の言葉は、旧約聖書の「詩篇」からの引用(実際はラテン語だが)。レガリアとして、王冠・王笏・宝珠に注目。宝珠はorbで、ソーシャルゲーム「モンスターストライク」の「オーブ」の元ネタ。実際の戴冠式はウェストミンスター寺院で行われたが、撮影はヨーク大聖堂。素晴らしいステンドグラスとアーチ。戴冠式の後、ウィリアム・セシルが語るイングランドを取り巻く厳しい状況に注目。質問は「女王が結婚するメリットは?」。資料集でエリザベスとメアリ=スチュワートの関係(ヘンリ7世の孫と曾孫)をみて、メアリにイングランド王位継承権があることを確認。メアリの夫はフランス王フランソワ2世であったことを補足。
3.『エリザベス』:統一法制定のチャプター。演説を練習する女王。宗教的統一によって国内分裂の回避を防ぐ。ここでも家臣は結婚を勧める。再度の質問「女王が結婚するメリットは?」メリットその1:王位継承者の増加は暗殺の抑制につながる。
4.『ゴールデンエイジ』:求婚者たちの謁見とウォルター・ローリーのチャプター。「ER」の説明と水たまりへコートを投げ入れるエピソード。メリットその2、相手次第では第3国への牽制となる。タバコとジャガイモ。ヴァージニアの建設。ローリーのことを歌っているイギリスの有名ミュージシャンは?
5.『ゴールデンエイジ』:アルマダの海戦に臨むエリザベスの演説と焼き討ち船。
6.アルマダ敗戦とオランダ独立によるスペインの没落とイングランドの台頭の説明。


1のメアリとエリザベスのチャプターは全クラスで前の時間に予告として見せておいたものの、結局どのクラスも最後までたどり着かなかった。1クラスだけメアリ=スチュワートの処刑を見せて、資料集掲載のリチャード1世によるフランス式処刑との違いを説明したが、これはカットしていい。「女王が結婚するメリット」について、期待した英語科ではあまり答えが出ず。他のクラスでは「世継ぎができる」「他国との戦争を回避できる」との回答あり。ローリーのことを歌っているイギリスの有名ミュージシャン、ビートルズ・、ローリング・ストーンズ、クイーンの3択にしたが、今の高校生はクイーンを知らない模様。聴けばわかるんだろうけど。モンストアニメのエンディングテーマ「ウィ・ウィル・ロック・ユー」。「クイーン知ってる人、手を挙げて」という問いかけに手を挙げたのは、ALTでロンドンっ子のジョニー先生だけだった。
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『もうひとりのシェイクスピア』(ローランド・エメリッヒ監督、2011年、英独合作) [歴史映画]

 2年生の世界史の授業は、いま絶対王政の単元。ウチが使っている資料集『グローバルワイド』(第一学習社)の巻頭には映画とマンガの特集があり、ケイト・ブランシェットの『エリザベス』が紹介されているので、この映画を使った授業を画策中。

 今日は代休だったので、授業で使えそうな部分はないか....とシェイクスピアをネタにした映画2本『恋に落ちたシェイクスピア』と『もうひとりのシェイクスピア』のDVD(英語の先生から貸してもらった)を見たのだが、いずれも面白い作品だった。
 『恋に落ちた....』でシェークスピアを演じるのは、ケイト版『エリザベス』の1作目で女王の相手役ロバート・ダドリーを演じていたジョセフ・ファインズ。エリザベス女王がジュディ・デンチで、ウェセックス伯がコリン・ファースなんだけど、ジュディ・デンチはともかく、コリン・ファースは「無駄な大物起用」という気がしないでもない。ネズミと戯れるジョン・ウェブスターが面白い。

 一方『もうひとりのシェイクスピア』は、シェイクスピア別人説をベースにした歴史ミステリーの大傑作。監督が意外な?SFパニック映画の巨匠ローランド・エメリッヒ。設定が演劇仕立てで、主人公でシェークスピア作品の真の作者オックスフォード伯エドワードを演じていたリース・エヴァンスは、『エリザベス:ゴールデン・エイジ』で女王暗殺のためにスペインのフェリペ2世が派遣したロバート・レストンを演じていた。エリザベス女王を演じていたヴァネッサ・レッドグレイヴは、同じく女王の若い頃を演じていたジョエリー・リチャードソンの実母。雰囲気似てる...と思ったら親子とは!CGで グローブ座の様子を再現してる点は、さすがSF映画の巨匠。演劇のシーンも、「当時はおそらくこんな感じだったんだろうな」と思わせる。ところどころにシェイクスピア好きにはニヤリのシーンもあり(若きオックスフォード伯が、義父ウィリアム・セシルにより使わされた監視役を殺すシーンが、『ハムレット』でポローニアスを殺してしまうシーンにそっくり)。シェークスピアが自分の紋章(coat of arms)を見せびらかすシーンでは、彼の実際の紋章(シェースピアのスピア=槍を使っている)が出てくるが、モットーの“Non sanz droict”(not without right:権利なからざるべし~古フランス語)を読めないのが面白い。。謎解き部分もかなり面白いが、ある程度歴史的な背景を理解していないと、回想シーンがたびたび織り込まれることも相まって、ストーリーを追うのは難しいように思われる。

  公式サイト http://www.phantom-film.jp/library/site/shakespeare-movie/intro.html


 両作品に共通する登場人物の一人が、エリザベス時代を代表するクリストファー・マーロウ。彼の死は謀殺という見方が一般的であり、それぞれの作品でどのように扱われているか比べてみるのも面白い。シェークスピアは俳優として、ベン・ジョンソンンの戯曲『十人十色』(1598年グローブ座初演)に出演していたとされる。



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水俣病公式確認から60年 [その他]

 熊本日々新聞は昨日まで熊本地震にともなう特別編集の紙面でした。昨日までは最終面が生活関連情報でしたが、今日の紙面から最終面はテレビ・ラジオ欄となっています。熊本市内でも、明日から再開される学校もあり、復旧が進んでいることを実感します。もちろん、まだまだ時間はかかることでしょう。

 地震に気をとられてすっかり忘れていましたが、今日は水俣病の公式確認からちょうど60年の日です。熊本日々新聞の別冊特集「水俣病公式確認60年」を見て思い出しました。「坂本しのぶさんの60年」という特集を読み、熊本県の学校に勤務する者の一人として、水俣病について自分自身がもっと知り、そして伝えていく必要があると改めて感じています。
 私が坂本さんのことを知ったのは、ユージン・スミス、アイリーン・スミス夫妻の『写真集 水俣 MINAMATA』(三一書房)でした。この本には、アイリーン氏が中学生のころの坂本さんとふれあった日々の記録が綴られています。坂本さんのお母様も、存命であられると今日の新聞で知り、感慨深いものがあります。
 『写真集 水俣』は私の父が購入した本です。最後のページには、母の字で、購入した時期と父の名が書いてありますが、購入は昭和53年3月とあります。写真集という体裁ではありますが、ドキュメンタリーといってもよいでしょう。今日改めて読み返してみたが、現在でも十分なインパクトをもっています。

DSCF2773b.jpg


 この本には、よく知られた写真が掲載されています。胎児性水俣病の少女と、彼女を抱きかかえて入浴する母の写真です。あばら骨が浮き出し、目を大きく見開いた胎児性水俣病患者の少女と、彼女を慈愛に満ちた表情で入浴させる母親。痛々しさと救いが交錯するかのようなモノクロームの写真は、かつて社会科の教科書や資料集に掲載されていたこともあり、見たことがある人も多いのではないでしょうか。ですが、現在は目にすることはありません。十数年前、両親の申し出によりアイリーン氏はこの写真を封印したからです。
 私がこのことを知ったのは、今から10年前、熊本日々新聞の特集「水俣病公式確認50年~写真家たちの水俣」に掲載された、アイリーンさんのインタビューでした(平成18年10月6日付)。少女(撮影から6年後に亡くなる)のご両親は「もう休ませてあげたい」と仰ったそうですが、親御さんの気持ちを考えれば、自分の娘の裸姿が、「公害の告発」を目的にしているとはいえ、いたるところで使われるのは忍びないことです。こうした「今は見ることができない写真があって、どうして見ることができなくなったのか」という点は、水俣病問題の深さを示していると感じます(ネット上では見ることができるという問題点は、別の問題提起にもつながりそうです)。

 
ユージン・スミス氏は、『LIFE』の特派員として第二次世界大戦中は戦地に赴き、重傷を負いました。彼の写真が載ってないか....と『LIFE AT WAR』の頁をめくると、彼が撮影した3枚の写真を見つけました。 そのうちの1枚、サイパン島で撮影された米兵の写真~唯一の生存者である赤ん坊を抱いている写真は、後に彼が水俣で撮影した「入浴する母子」の写真を思い出させます。

DSCF2775b.jpg


 「入浴する母子」と並んでもう1枚、水俣関係で私の印象に残っている写真があります。昨年亡くなった塩田武史さんが撮影した、白い鳩を抱いた少年の写真です。被写体となったのは、胎児性水俣病患者の半永一光さんで、半永さんが白い鳩を抱き、満面の笑みを浮かべている写真です。この写真は塩田さんの『僕が写した愛しい水俣』(岩波書店)の表紙にも使われている写真ですが、生きる喜びというものがこれほどストレートに伝わってくる写真は、なかなかないと思います。石牟礼道子さんの『苦海浄土』には、言葉を発することができない杢太郎少年に、彼の祖父「爺」が話しかけるという場面がありますが、この杢太郎少年のモデルは半永さんだということです。昨日(4月30日)、たまたま読んだ読売新聞に掲載されていた半永さん兄弟の記事を読み、鳩を抱く少年の写真を思い出したことでした。 


 水俣病やハンセン病患者の方々をはじめ、戦争や差別などあらゆる困難に直面している方々の苦痛や悲しみを本当に理解しようというのは、おそらく不可能なことでしょう。しかし、理解しようとする努力は必要なのではないでしょうか。いま私が感じているのは、「東北の震災は、どこか人ごとだった」という悔恨です。4月23日の熊本日々新聞によれば、一昨年5月に、熊本市の防災会議で今回と同程度の規模の地震発生が予測されているという記事を掲載していた....とあります。私はまったく記憶にありません。東北の震災関連の報道を目にして津波の恐怖に唖然とし、数々の悲劇に涙し、普通に暮らしている自分に後ろめたさをおぼえつつも、心のどこかで「熊本でこんな地震が起きるはずはない」と「勝手に頭の中でカベをつくっていた」気がします。被災の現実を目にし、耳にするにつけ、事態の深刻さに天を仰ぐばかりです。



写真集 水俣

写真集 水俣

  • 作者: W.ユージン スミス
  • 出版社/メーカー: 三一書房
  • 発売日: 1991/12
  • メディア: 大型本



MINAMATA NOTE 1971-2012  私とユージン・スミスと水俣

MINAMATA NOTE 1971-2012 私とユージン・スミスと水俣

  • 作者: 石川武志
  • 出版社/メーカー: 千倉書房
  • 発売日: 2012/10/25
  • メディア: 単行本



僕が写した愛しい水俣

僕が写した愛しい水俣

  • 作者: 塩田 武史
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/02/27
  • メディア: 単行本



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「英国の夢~ラファエル前派展」(山口県立美術館)とイギリス帝国主義 [授業ネタ]

 昨日、山口県立美術館[http://www.yma-web.jp/]に「英国の夢~ラファエル前派展」を見に行ってきた。2年前に森美術館で開催された「ラファエル前派展~英国ヴィクトリア朝絵画の夢」ほどではないものの、よい作品が来ていた。いちばん見たかったのは、ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829~56)の「浅瀬を渡るサー・イザンブラス」と「ブラック・ブランズウィッカー」の2作品。「サー・イザンブラス」は2人の子どもの不安げな表情と老騎士の哀愁漂う表情、彼の剣につけられたクジャクの羽飾りや彼ににしがみつく子どもが背中に結わえ付けている薪等、細部を堪能できた。ヴァージョン作品の方が、馬のバランスがよいようにも感じられたが。「黒きブランズウィック騎兵隊員」に描かれた、女性の服の襞と光沢は評判に違わずこれまた見とれるほど素晴らしい作品であった。
 ミレイはヴィクトリア時代のイギリスを代表する画家で、代表作「オフィーリア」は日本での人気も高く、2008年と2014年に日本でも展示された。ロイヤル・アカデミーの会長でもあったため、ヴィクトリア女王とも親交があり、ナショナル・ポートレイト・ギャラリー[http://www.npg.org.uk/]にはミレイが描いたディズレイリとグラッドストンの肖像画が収蔵されている。ミレイに爵位を授与したのはグラッドストンの意向だったという。

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 「英国の夢~ラファエル前派展」は、リバプール国立美術館のコレクションによっているが、リバプール国立美術館とはNational Museums Liverpool[http://www.liverpoolmuseums.org.uk/]の直訳であり、少々誤解を生みやすい訳語だという気がする。「Museums」と複数形になっていることからわかるとおり、National Museums Liverpoolは複数の美術館・博物館の総称である。このうちミレイをはじめラファエル前派の作品を多数収蔵しているのがレディ・リーヴァー美術館(Lady Lever Art Gallery)[http://www.liverpoolmuseums.org.uk/ladylever/index.aspx]であり、「サー・イザンブラス」「ブラック・ブランズウィッカー」ともにレディ・リーヴァーの収蔵品である。

 このレディ・リーヴァー美術館は、ミレイとほぼ同時代のウィリアム・リーバ(1851~1925)という人物のコレクションをもとにした美術館であるが、彼について、『授業に役立つ世界史100話(下)』(あゆみ出版)という本には興味深い話が掲載されている。
 同書掲載の「ラーマとティモテに隠された歴史~パーム椰子と落花生からみたアフリカ搾取の実態」によれば、ウィリアム・リーバが1885年頃に弟とともに立ち上げた石鹸製造会社「リーバ・ブラザーズ (Lever Brothers)」は、オランダのマーガリン会社「マーガリン・ユニ (Margarine Unie)」と1930年経営統合し、商号を「ユニリーバ」とした。
 ユニリーバといえば、日本にも子会社がある世界的な多国籍コングロマリットだが、石鹸製造会社のリーバ・ブラザースとマーガリン製造会社のマーガリン・ユニが合併したのは、両者の製品がともに植物性油脂を原料としていたという共通点からである。なかでもパーム椰子から採れる油は、石鹸製造にもマーガリン製造にもともに重要な原料であり、その最大の供給地がコンゴだった。1885年にベルギー王の私有地としてスタートしたコンゴ自由国は、1908年にベルギー領コンゴとして植民地化される。ユニ・リーバとベルギー植民地当局は、持ちつ持たれつの関係でコンゴを支配していくわけだ。まさに世界システム。

 そもそも、石鹸とマーガリンの需要が増大したというのも19世紀後半以降の世界情勢が影響している。産業革命の進展により、工場での労働によって油で汚れた体を洗うという習慣が労働者階級にも普及し、石鹸の需要は飛躍的に高まった。一方、マーガリンのほうはwikipediaによれば、1869年にナポレオン3世が軍用と民生用のためにバターの安価な代用品を募集したところ、フランス人のイポリット・メージュ=ムーリエが牛脂に牛乳などを加え硬化したものを考案した。これは、オレオマーガリン (oleomargarine)という名前がつけられ、後に省略してマーガリンと呼ばれるようになったという。1871年、ムーリエの考案したマーガリンの特許権を買収したのが、オランダ人のアントン・ユルゲンスで、彼がマーガリン・ユニの創設者である。マレー半島におけるゴムやスズの生産量増加が、自動車産業の発展や戦争用の缶詰需要の増大を背景としていたことを思い出す話だ。
 マーガリンというと、小学生の頃の給食では定番だったし、子どもの頃わが家では味の素がつくっていた「マリーナ」という商品名のマーガリンを使っていた。このマリーナ、いまはもう存在しないが、味の素がマーガリン事業から撤退した後、日本リーバ(現在のユニリーバ日本)が事業を引継いで一時生産していたらしい。


授業に役立つ世界史100話〈下〉

授業に役立つ世界史100話〈下〉

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: あゆみ出版
  • 発売日: 1989/12
  • メディア: 単行本



闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: ジョゼフ コンラッド
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/09/08
  • メディア: 文庫



闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

  • 作者: コンラッド
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1958/01/25
  • メディア: 文庫



闇の奥

闇の奥

  • 作者: ジョセフ コンラッド
  • 出版社/メーカー: 三交社
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 単行本



『闇の奥』の奥―コンラッド/植民地主義/アフリカの重荷

『闇の奥』の奥―コンラッド/植民地主義/アフリカの重荷

  • 作者: 藤永 茂
  • 出版社/メーカー: 三交社
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 単行本



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今年の九州大学の問題 [大学受験]

 昨年度地歴二次試験スタート初年度ながら出題ミスを犯してしまった九大。
http://www.kyushu-u.ac.jp/entrance/examination/H27sekaishi.pdf

 
 〔1〕が大論述、〔2〕が40字・150字・200字の中小論述、〔3〕が単問という東大と同じ構成であることは昨年通り。〔2〕〔3〕は全問正解で当たり前のレベル。昨年通り、東京大学とまったく同じ構成であった。前期試験の前、ある予備校の先生から、昨年度の九大の地理はさほど難しくはなかったので、世界史受験者は不利だったのではないか、という話をうかがった。「600字」というボリュームに萎えてしまった受験生もけっこういただろう。昨年度の入試で世界史受験者の点数が低かったなら、今年は形式を変えてくるかも....と思ったが、昨年とほぼ同じ傾向であった。

 〔2〕問3の「シーア派の性格」は、「最後の正統カリフであるアリーとその子孫のみを指導者と認める宗派。」で32文字。40字も要求する必要はない。各予備校とも字数稼ぎには苦労労した印象を受ける。40字要求するならKが使ってる「ウンマ」という用語を指定してもよかった。
 〔2〕問4は200字でカリフ制の変容を論述させる問題。指定語句に「8世紀」、「10世紀」、「13世紀」がはいっているが、それぞれ「アッバース朝」「ファーティマ朝」「マムルーク朝」の指定語句に該当するので、

 ・7世紀:ムスリムの選挙で選ばれた正統カリフ時代から、ウマイヤ朝以降世襲
 ・8世紀:アッバース朝
 ・10世紀:ファーティマ朝がカリフを称し、続いて後ウマイヤ朝もカリフを称したため、アッバース朝のカリフと鼎立
 ・13世紀:アッバース朝が滅亡し、カリフの子孫はマムルーク朝の保護

ということになるだろう。ここで考えたのは、以下の2点。
(1)8世紀のアッバース朝時代、カリフ制の変容に関わる出来事があっただろうか。
(2)カリフが政治権力を失い、宗教的権威のみを保持すうることになった点は、10世紀のブワイフ朝と11世紀のセルージュク朝のどちらで書くか。

 まず(1)について。Sは「ウマイヤ朝や8世紀に成立したアッバース朝では世襲制となった」とまとめ、Kは「8世紀半ばにアッバース朝が成立したが、」という表現にとどまっている。Yは「・・・・世襲に変わり、8世紀に成立したアッバース朝もこれを引き継いだ」とSど同じで、S・Yのほうが「変容」という要求に沿っている。
一方(2)については、SとYはブワイフ朝に触れておらず、Kは「10世紀にはブワイフ朝の侵攻などによりカリフの力は衰え....3カリフ鼎立も生じた」とうまくまとめてある。ずいぶん前のことだが、センター試験で「カリフが政治的実権を失った時期として、適当なものを次の①~④から一つ選べ。①7世紀、②8世紀、③10世紀、④13世紀)という問題が出題された(1993年旧課程世界史追試第3問C)ことがあるので、「10世紀」ははずせないように思われる。

【私の解答例】
7世紀にウマイヤ朝が成立すると、カリフは信者による互選から世襲制となり、8世紀に成立したアッバース朝でも世襲であった。この王朝初期のカリフは政治・宗教両面の指導者であったが、10世紀には政治的権力を失い、またファーティマ朝と後ウマイヤ朝の君主もカリフを称し、3人のカリフが並び立つことになった。13世紀にはマムルーク朝がカリフの子孫を保護し、非アラブ人によってカリフが継承されることにつながった。(196文字)
 
 カリフが政治的権力を失った点については10世紀に含めて、「スルタン」に関する記述を全部削ってみた。3予備校とも「スルタン」の語句を使用しているが、この語句が必須の加点ポイントなのかどうか、ぜひ出題者に尋ねてみたい。


最後に〔1〕。

 19世紀末から20世紀初にかけてのいわゆる帝国主義時代、世界各地には欧米諸国や日本によって様々な植民地が築かれた。なかでもイギリスは当時最大の植民地保有国だった。その植民地には、インドのように広大な面積を有するものから、ナポレオンが流された大西洋のセントヘレナ島のように狭小なものまで、様々なタイプがあった。
 それでは、これらのうち、後者の範疇に属するシンガポール、ジブラルタル、スエズ運河の存在は、当時のイギリスの世界経営において、同じ意味を有する他の植民地の事例もあげながら、500字以内で説明しなさい。ただし下記の9つのキーワードを必ず1回は使用し、その箇所に下線を引くこと。

【キーワード】
 産業革命  資源  市場  中国  自由貿易  物流  南シナ海  大西洋 ケープ植民地



 「シンガポール」「ジブラルタル」「スエズ運河」がイギリスの世界経営において有した意味とは?最初に思いつくのは、キーワードにある「物流」の要地という役割。ここで注目は、Yがあげている「軍事上の重要拠点」としての役割。太平洋戦争中、日本はシンガポール攻略を行い、トラファルガーはジブラルタルの近く。第二次世界大戦後も、イギリスはスエズ駐兵権を維持したことを考えれば、軍事上の重要拠点という役割を含めていいのではないだろうか。確かに、「物流の拠点を守るために軍隊を駐屯させた」という解釈も可能であるが、軍事上の重要性に触れる価値は十分にある。
 では「同じ意味を有する他の植民地の事例」としてどこをあげるか。Sはマラッカ、ペナン、Kがペナン、マラッカに加えてアデンや香港、またYはマルタ、キプロス、香港をあげている。物流と軍事上の需要拠点としての役割ならば、アデン、マルタ、キプロスが適当だという気がするが、アデンとマルタを試験本番中に思いつくことはかなり難しい。キプロスに触れることができれば十分だという気がする。

【私の解答例】
産業革命をいち早く迎え「世界の工場」となったイギリスは、自国製品の市場と原料の供給地を確保を目指し、時には武力を用いて自国に有利な自由貿易体制を世界中に広げようとした。そのため物流と軍事上の拠点を世界各地に確保しつつ、植民地の拡大を進めた。18世紀に獲得したジブラルタルは、大西洋と地中海を結ぶ要衝で、北アフリカへ渡る要地でもある。1869年にスエズ運河が開通すると、ジブラルタルの重要性はさらに増し、アジアへの通路を確保するためイギリスはキプロス島も領有した。ウィーン会議で獲得したケープ植民地は、アジアへの通路という役割は徐々に低下したが、金やダイヤモンドなど資源の供給地としての重要性は高まり、スエズ運河の株式を買収したイギリスは、カイロ、ケープタウンとインドのカルカッタを結ぶ3C政策を展開した。19世紀前半にはシンガポールを確保して、ペナン・マラッカとともに海峡植民地を形成してアジア貿易の拠点とし、アヘン戦争以降は中国を自由貿易体制に組み込んで利権の確保をさらに進めた。こうしてイギリスは19世紀末までに、南シナ海からインド洋を経て地中海、大西洋まで、東アジアからヨーロッパに至るルートを確保した。(499字)


 「産業革命」の語句に関して、Kは「19世紀後半、重化学工業を中心として第2次産業革命が進展する一方、...」と第2次産業革命の文脈で使用しているが、これだと同予備校が出した解答例後半部の「一方シンガポールは....ペナン島やマラッカと海峡植民地を構成し、南シナ海とインド洋を結ぶ中継地であった。」の部分との整合性が苦しくなる(海峡植民地の構成は1826年のため)。SやY同様、スタートは第1次の産業革命とするほうがよいだろう。なおTのウェブサイトでは九大の解答例を見つけることができなかった。まさか、つくってない....なんてことはないよね?
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ジェニファー・リー・キャレル『シェイクスピア・シークレット』(角川書店) [歴史関係の本(小説)]

400年前にシェイクスピアが書いたとされながら、いまだ未発見の戯曲『カーディニオー』をめぐるミステリー。
ミレーの「オフィーリア」のカバーにひかれて読んだ本ですが、スピード感あふれる現代サスペンスでした。

ストーリーその他はこちらにあり。
http://www.kadokawa.co.jp/sp/200905-03/
 「シェイクピアの戯曲を一つも読んだことがなくても十二分に楽しめる」(解説より)のは確かですが、16~17世紀のイングランド史に関する知識があれば、数倍楽しめると思います。
王朝で言えば、テューダー朝からステュアート朝時代。
(ロンドン出身の英語の先生によれば、正しい発音は「テューダー」ではなく「チューダー」だそう)

この作品には実在の人物が数多く登場するが、特にフランシス・チャイルド教授とニコラス・ヒリヤードの二人が同時に登場するというだけで、私にはかなりツボな作品。

英国トラッド・ロックの大御所フェアポート・コンヴェンションの名作アルバム『リージ&リーフ』の内ジャケットにチャイルド教授の写真が掲載されており、英国トラッド/フォーク系が好きな人にも名前が知られています。

ニコラス・ヒリヤードの作品を見たことがあれば、この作品のイメージがより明確になるような気がします。私はこの本を読んで、同朋舎『週刊グレート・アーティスト』のヒヤード特集(58巻)を見返したくなりました。



シェイクスピア・シークレット 上

シェイクスピア・シークレット 上

  • 作者: ジェニファー・リー・キャレル
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/05/29
  • メディア: 単行本



シェイクスピア・シークレット 下

シェイクスピア・シークレット 下

  • 作者: ジェニファー・リー・キャレル
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/05/29
  • メディア: 単行本



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今年の「センター試験世界史Bの分析」の分析 [大学受験]

今年のセンター試験世界史Bでは久しぶりにグラフが出題されました(第1問の問3)。この問題に対する、各予備校の分析は以下の通りです。

K予備校
「グラフを使用した問3は、七年戦争終結、フランス東インド会社再建の時期がわかった上で、それをグラフから読み取れる情報と照らし合わせる必要がある。」

Y予備校
「問3はグラフから読み取った内容と年号の知識を組み合わせて解くのがポイント。」

T予備校
「Aではオランダなど三国の艤装船舶数のグラフ問題が出題されたが、年号がわかれば判定は容易である。」

S予備校
「問3では1630年から1799年にかけてのオランダ・イギリス・フランスのアジアに向かう船舶数のグラフが示され、二文正誤形式で問われた。グラフから船舶数の変化を正しく読み取ったうえで、七年戦争終結とフランス東インド会社再建の年代を正確におさえている必要があり、判断に迷った受験生も多かったと思われる。各国の船舶数の推移から当時の国際関係をうかがい知ることができる良質な素材であった。」

 われわれ高校教師にとってたいへん有り難いのは、予備校がこうした平均レベルの分析をしてくれることです。大手予備校すべて同じような分析を出してくれると、「主要な予備校は全部年号年代の問題と分析していたけど、並レベルの分析だ!」と大風呂敷を広げることができます。生徒に対して、われわれの腕の見せ所というところでしょう。

 今年使われたグラフは「17世紀前半から18世紀末に西欧3カ国でアジア向けに艤装された船舶数」という興味深い資料です。これを二文の正誤組み合わせと併用しているので、難度は高いと思われます。一見すると、各予備校が出している分析通り年代で判断ということになるでしょう。確かにbについては、コルベール~ルイ14世の時代という年代判断が正攻法(フランスの東インド会社は19世紀にも再建されていますが)。しかしaについては、「スペイン衰退後の17世紀はオランダの世紀で、その後英仏の抗争が始まる」ということを知っていれば、七年戦争の正確な年代を知らなくても正誤の判断は可能です。七年戦争が海外植民地をめぐる英仏の抗争である....ということを思い出せば、グラフから「七年戦争は18世紀」ということも推測可能です。グラフからは、英仏が17世紀の危機に巻き込まれたこともわかるので、日常の授業でも使用したい資料。この点だけはS予備校の分析に同感です。
 





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センター試験の過去問 [大学受験]

 世界史のセンター試験対策は、過去問反復がベストだと思っているので、課外授業では過去問オンリー。最近は年号覚えていないと苦しい問題が多くなってます。時期の正誤を問う問題や、「年代の古いものから順に正しく配列されているもの」を選ぶ問題などは年号知っているのと知らないのでは大いに差がつくのではないでしょうか。

  以前、「トルコ民族の移動」(http://zep.blog.so-net.ne.jp/2013-01-06)でも触れたことですが、センター試験の問題を解いてみて感じるのは、予備校や出版社が出す予想問題とのクオリティの差です。 たとえば「年代の古いものから順に正しく配列されているもの」を選ぶ問題だとセンター試験の問題は、年号知らなくてもヒントがある場合があります。たとえば2013年の世界史B(本試)問題番号22( http://zep.blog.so-net.ne.jp/2013-01-19)や、2011年の世界史B(追試)問題番号9など。

2011年の追試です。
下線部(9)の時期に起こった出来事について述べた次の文a~cが,年代の古いものから順に正しく配列されているものを,下の①~⑥のうちから一つ選べ。 
 a カール=マルテルの軍が,トゥール・ポワティエ間の戦いでイスラーム勢力を破った。
 b ササン朝ペルシアが滅亡した。
 c ブワイフ朝がバグダードに入城した。
 ① a→b→c   ② a→c→b   ③ b→a→c
 ④ b→c→a   ⑤ c→a→b   ⑥ c→b→a


a~cとも年号知ってて然るべき事項ではありますが、「aはウマイヤ朝時代、bは正統カリフ時代、cはアッバース朝の時代」という判断でも十分でしょう。出題者はむしろこちらを想定したのではないかという気もしますが。

 こうした色んな考え方が出来るという点でもセンター試験の問題は優れています。一度だけではなく、同じ問題に何度もトライしてみていいと思います。
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国家と民族 [授業ネタ]

来週から二学期の期末テスト。2年生の世界史Aは、イタリアとドイツの統一までがテスト範囲である。いわゆる「国民国家」の形成である。

 今日の新聞に「移民街 漂う疎外感」という記事が掲載されていた。記事によれば、問題を抱えているのは、移民の2世や3世であるという。両親や祖父母の国に親近感が持てない一方で、生まれ育ったフランスにもなじめない。そうした疎外感にイスラーム過激派はつけこむと指摘されていた。ウチの生徒(中国籍で父は中国人、母は日本人)が「中国では日本人と呼ばれ、日本では中国人と呼ばれて、からかわれたりデリカシーのないことを言われてきた」という経験を語っていたことを思い出した。

世界史Aの教科書では、国家と民族に関する記述が多く見られる。勤務校で使用しているのは東京書籍だが、「ネーション」という言葉の解説や、「国家と民族」という特集ページなどがある。10月31日付の熊本日日新聞では、特集「日本に生きる」の中で姜信子先生が、「国家や民族という概念からの解放」ということを述べておられた。

 もちろん現代社会においては、国家の一員という前提を抜きにしては権利も主張できない。パスポートの最初のページには「日本国民である本旅券の所持人」と書いてある。それでも、外国ルーツの人たちに対するネガティヴなイメージは、国家や民族という考え方を自明の前提と考えていることにも原因の一つがあるように思われる。国家や民族、国民国家という枠組みの形成について授業でじっくり考えてみるのも必要だという気がする。

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「最難関への世界史授業」(『歴史と地理』No.686) [大学受験]

 山川出版社の『歴史と地理』No.686に、興味深いレポートが掲載されています。筆者は鹿児島県のK先生で、タイトルは「最難関への世界史授業」。K先生が鹿児島県立鶴丸高校で行ってきた世界史指導の内容紹介です。
 公立のトップ校ではどのような教科指導を行っているのか、というのは高校の教師であれば誰もが持つに違いない関心事項でしょう。中高一貫校と異なり、実質2年足らずで東大や京大などの難関大学に合格させるには、いったいどのような指導をすればいいのでしょうか。
 K先生のレポートで印象に残ったことは、①教師は勉強しないといけない、②正課の授業と課外授業とを峻別しつつも有機的に結びつけることを意識する、③授業は知識の伝達と至高・表現スキルの向上という二つの面からデザインする、④校内模試の積極的な活用、という四点。私自身、これらのことをやっていないわけではありません。特に校内模試の活用については、かなりやってきたという自負心があったのも事実です。が、K先生のレポートを読んだあとでは、自分もまだまだだな、という思いを強くするばかりでした。
 ウチの学校では東大を受ける生徒などいない、教科指導より他にやるべき仕事がたくさんあるという意見ももっともです。しかし、私が公立高校の教師として禄を食むことができているのは、教科指導がベースになっていると自分では思っています。色んな言い訳を見つけて、勉強から逃げる言い訳にしたくはないな、という気持ちです。そもそも教師というのは、自分自身勉強が好きで、その楽しさを他の人にも教えたいという気持ちで職に就いたという気がするのですが。

 ずいぶん前のことですが、私は鶴丸高校でK先生の授業を見学させていただいたことがあります(http://zep.blog.so-net.ne.jp/2008-11-10)。その後、大分県での研修会でも再びお会いすることができました(http://zep.blog.so-net.ne.jp/2009-08-06)。またぜひお話をさせていただきたいものです。

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新聞記事を使ったアクティブラーニング:現代社会 [現代社会ネタ]

 アクティブラーニングの試み、今年は一年生に所属なので現代社会で実施。取り上げた項目は「生命科学の発達と生命倫理」です。今回は使う新聞記事が多かったので、すべてPDF化してプロジェクターで黒板に投影し、重要な部分に黄色のチョークで傍線を引くという形にしました。

使った新聞記事は、
①「産みたい⑧~治療卒業」(熊本日日新聞 2013.01.09)
②「国内初の代理母~実妹が体外受精で」( 〃 2001.05.20)
③「出自する権利守って」( 〃 2015.06.01)
②「凍結精子児 認知せず」( 〃 2006.09.05)


まず、「生殖医療は必要だと思うか」という問いかけには、8割以上が挙手しました。理由を尋ねたところ、「子どもが欲しいという気持ちは、人間の自然な気持ち」という答えでした(指名一名)。そこで①の記事を紹介。
資料集(『フォーラム現代社会』とうほう)を使い代理懐胎について説明し、②の記事を使って代理母について説明。「生まれた子の母親は、産んだ妹か、それとも卵子を提供した妻か」という問いかけには、「妹」「妻」ほぼ半分に意見が分かれました。こうした意見が分かれる現状とともに、③でAID(非配偶者間人工授精)で生まれた男性の苦悩を紹介し、生殖医療が抱える問題点を概観しました。
いちばんメインは、②の記事を使っての話し合いです。
概要は
・1999年に夫が病死した後、凍結保存精子で妊娠し、2001年に男児を出産した女性が、生まれた子供を嫡出子(結婚した男女の子)として出生届を提出→認められなかったため、認知を求めて提訴
・一審判決(2003年11月松山地裁)では、女性の請求を棄却→女性は控訴
・二審判決(2004年7月)では、夫の子として認知→検察は上告
・最高裁判決(2006年9月)では、夫の子として認めず、妻は逆転敗訴。

「認知すべきか」という問いかけには9割の生徒が挙手したので、「認知のためにはどのような条件が必要だろうか」というディスカッションをしてもらいました。
出た意見は、以下の通り。
 (1)認めるメリット
  子どもの法的地位(遺産相続や戸籍など)
 (2)条件
  ・生前の夫の意志
  ・子どもにその事実を知らせること
  ・DNA鑑定による証明
  ・夫の死後、5年以内の出産

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浜島書店の『デジタルアカデミア』は現代社会でも使える [現代社会ネタ]

 今年は一年生の学年主任となったので、現代社会を2クラス教えているが、以前紹介した浜島書店の『デジタルアカデミア世界史』[http://zep.blog.so-net.ne.jp/2014-07-25]が現代社会の授業でも活躍してくれている。
 ウチで使用してる現社の教科書は実教出版で、環境問題から始まるのだが、『デジタルアカデミア』の巻頭には環境問題の特集がある。塩害や熱帯雨林の伐採などそのまま使える写真も多いし、教科書準拠の演習ノートにある「未知の感染症の出現」の例として、「森林破壊によるペスト流行」は使える例だと思う。「死の舞踏」の絵をついでに紹介できる。

(1)モエンジョ=ダーロの写真
  ・環境破壊により滅亡した可能性
  ・(可能性は低いが)過剰な森林伐採
    ・・・・メソポタミアの日干しレンガの写真を見せて比較
(2)教科書9ページ「大気中の二酸化炭素濃度の増加」のグラフ
  二酸化炭素がなぜ問題なのか?
   →二酸化炭素の濃度が急増し始めるのはいつ頃か?
   →二酸化炭素濃度が急増する18世紀後半にはどんなことが起こっているか、
    教科書18ページで確認・・・・「ワットの蒸気機関=石炭の使用」
   →ワットの蒸気機関の図とロコモーション号を見せ説明
(3)教科書18ページ「世界のエネルギー消費量の歴史的推移」のグラフ
   世界のエネルギー消費が急増し始める時期はいつ頃か?
   19世紀の後半・・・・石油使用の拡大
   19世紀後半のマンチェスターの図、ダイムラーの自動車

 「そもそも環境問題をわれわれは考える必要があるのか?」と質問をしたところ、指名した全員が「必要あり」と答えた。その理由を尋ねたところ、「未来によい環境を残すため」という答えがほとんどであった。洋上国家モルディブの写真などを見ながら、いま現在差し迫った問題であることも示したいが、未来への視点は大切にしたい。ということで、故宇沢弘文さんの言葉を紹介した4月24日付け熊本日々新聞の「新生面」を提示することにした。次の一文。

「自然環境などを市場原理に委ねてはならない社会の財産とするその理念を、宇沢さんは『お金に換算できない大切なものを守る考え方』とした。自然環境は『未来の世代の財産でたまたま私たちが管理しているのだ』とも訴えていた。」

 コピーして配付してもよかったが、スマホで写真を撮ってタブレット端末に送り、プロジェクターで投影して提示した(スマホを直接ケーブルでつなぐこともできるが、これは様々な点で問題があるだろう)。上記の一文に黄色チョークで傍線をつけたら、チョークの方が目立ってしまった。

 教科書50ページからの倫理分野でも、『デジタルアカデミア』収録のルネサンス
作品群は使えそう。
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今年の高校入試「社会」の問題 [たんなる日記]

 今年の熊本県の公立高校の「社会」の入試問題に、こんな問題がありました。



下線部②(注:「文明開化」)について、資料16はこのころの東京の町のようすをえがいたものである。わが国の文明開化おようすをあらわす特徴的なものを、資料16から読み取って二つ書きなさい。


資料16は、下の図ような絵。京橋と銀座の煉瓦造りの町並みをえがいた錦絵で、桜が咲く春の様子が描かれています。

ginzahukei.JPG

使われたのは歌川広重の錦絵。詳細はこちら↓
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko10/bunko10_08408/index.html

ちなみに県教委発表の解答例は「れんがづくりの建物」「洋服」でした。


この問題とそっくりな問題がセンター試験で出題されたことがあります。日本史Aの2008年度本試験 第1問です。




 次の文章は,明治初めの錦絵などを展示した展覧会での太郎さんと先生の会話である。この文章を読み,下の問い(問1~3)に答えよ。,
先生:  この絵(図1)は,明治初めの錦絵だね。
太郎:  蒸気機関車が走っていますね。でもどうして電柱が立っているんですか?
先生:  これは,当時の ア に利用されたもので,1871年には上海・長崎間が海底ケーブルで結ばれている。こうした絵は,開化絵とよばれた。(a)交通や通信の発達は,文明開化の象徴だったんだね。
太郎:  遠くにたくさんの船が見えますが,あれは蒸気船ですか。
先生:  そうだね。でも,帆を張った和船も多いね。明治中期まで廻船にさかんに用いられたんだ。こっちに当時の蒸気船の絵(図2)があるよ。
太郎:  側面に水車のようなものがついていますね。
先生:  これは外輪船といって,蒸気機関でこの外輪を回して進むんだ。
太郎:  でも,蒸気船なのに帆を張っていますよ。
先生:  このころの蒸気船は燃料の イ を節約するために,外洋ではなるべく帆走したんだ。
太郎:  無風や逆風の時には蒸気をおこすんですね。
先生:  風待ちをしないで済むし,入港しやすくなったんだ。技術の進歩によって,しだいに定期的な運航も確保できるようになる。(b)海外との交流の手段も大きく変わってきたんだよ。


問1 空欄 ア   イ に入る語句の組合せとして正しいものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
① ア 電 話 イ 石 炭
② ア 電 話 イ 石 油
③ ア 電 信 イ 石 炭
④ ア 電 信 イ 石 油


問2 下線部(a)に関して,明治初期の交通や通信について述べた文として誤っているものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
① 高橋是清が日本郵船会社を設立した。
② 新橋・横浜間にはじめて鉄道が開業した。
③ 人力車や乗合馬車が用いられた。
④ 飛脚に代わって官営の郵便制度が整えられた。






「これは"似すぎ"だろ」と思うのは私だけかな? 高校入試に使われた図を子細に見てみると、センター試験の解答にも出てる「人力車」「乗合馬車」のほか、「ガス灯」なども見える。橋の横にいる人や左端で洋傘をさしている人など、「着物に洋靴」という人も見えるのは面白い。


ガス灯は、2011年度 本試験 日本史B 第1問 Bでも出題されている。



光 男:  江戸時代になると, ア からとった油が,家の明かりに使われたってね。経済が発達して,商品作物として栽培されたって,学校で習ったよ。
明 里:  しぼった油を行灯(あんどん)行灯(あんどん)などに使ったのよ。それから明治初期の1874年に文明開化の象徴として,東京の銀座には街灯が設置されたわ。
光 男:  その時の街灯は イ だね。
明 里:  そう。燃料切れせず光りつづけたので,びっくりした人もいたそうよ。
光 男:  夜も明るくなると,便利だね。
明 里:  でも,いいことばかりではないのよ。照明があると,深夜業がしやすくなるでしょ。深夜業は,(d)工場労働者の労働条件を悪くすることにつながるよね。
光 男:  照明の普及って,別の問題を生み出したんだね。
明 里:  現代になると,工業化も進展するし,家庭電化製品も普及したし,それに都市は夜中まで煌々(こうこう)と電気がついている。電気の消費量がずいぶん増えてきているわ。(e)発電に使われるエネルギーと環境との関係も気になるわよね。
光 男:  じゃあ,ぼくももっと節電をしなくちゃね。



空欄のイに入るのがガス灯。
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今年の一橋大の問題 [大学受験]

 一橋大の第2問も、難問だが思考力を要求する良問。

 ともに1967年に発足したヨーロッパ共同体と東南アジア諸国連合は、地域機構として大きな成功をおさめた。両機構の歴史的役割について、その共通点と相違点を説明しなさい。(400字以内)

 「両機構の歴史的役割」について、その「共通点」と「相違点」を説明せというのが要求。各予備校が発表した解答例を見てみたところ、
  1位:Y   2位:S  3位:K
 というのが私の評価。共通点と相違点が明確にわかる書き方をしているのはYのみで、「共通点は経済協力を通じた地域統合」「相違点は統合の深度」とストレートでわかりやすい書き方になっている。Kも「(ASEANは)EUと同様に関税障壁の撤廃による市場統合を果たしつつ高い経済成長率を示した」「共通通貨制度や中央議会制度をもたず政治的統合力は弱いが」と、一応共通点と相違点らしき事項は読み取ることができる。
 Sの解答例はちょっといただけない。「政治的統合へ向けEUに発展し」「政治的統合は実現していない」との文言は見えるが、どれが共通点でどれが相違点なのかよくわからない書き方。Sの一橋分析には、共通点として「米ソ冷戦構造化下で反共的外交姿勢をとったこと」「域内の経済統合を進めたこと」、相違点として「政治的統合に向かったECと、まだ具体性のないASEAN」といった点があげられているが、それが答案では伝わってこない。『世界史論述練習帳』(パレード)を読んでいた受験生は、Sよりもよい答案ができたのではないか?

 カール大帝の戴冠という一橋ではおなじみのテーマを扱った第1問について、「カールは、この時なぜローマに滯在していたのか、また、なぜ「ローマ人の皇帝」としてローマ人民により歓呼されたのか」という問いは難しい。カールのローマ滞在の理由について、リード文に「聖ペテロ教会でのクリスマス・ミサに出かけ」とあるので、これは書けない。Sの分析に「カールがローマを訪れていたのは直接的には教皇を保護するためだが、根本的には西ローマ帝国を復活させるためであり、ローマ人民も帝国が復活したゆえに歓呼したのである」とあるが、どうもピンと来ない。
  
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今年の九州大学と東京外国語大学の問題 [大学受験]

 今年の入試で、私がいちばん注目していたのは九州大学文学部で、今年から課せられることになった地歴の二次試験。
 受験生のゾーンから、名大や北大、阪大等のイメージかなと想像していたが、[1]が大論述(600字、30点)、[2]が中小の論述(240字、60字)と単問の組み合わせ(40点)、[3]が単問(30点)。構成は東大とほぼ同じ感じ。大論述が600字というボリュームなのは意外だった(私の予想は400~450字)。[3]が平易なレベルなので、[3]はできて当たり前、[2]は確実にとって[1]で勝負という東大のパターン通り。東大文Ⅲ受験生が流れてくることを見込んでる?


[1]
 近年よく話題となる「グローバル化」は、実際には15~16世紀の西欧による「地理上の発見」以来、絶え間なく続いてきた現象である。そこでは人・モノ・文化が政治・経済・宗教など様々な理由で移動し、現在ある世界の姿を形作ってきた。
 その中で特に激しい変化が生じてきたのが、現在のアメリカ合衆国にあたる地域である。17世紀から20世紀半ばにかけて、その地域の住民構成がどのように変化してきたか、その背景とともに600字以内で説明しなさい。なお、下記の語句を一度は使用し、下線を付すこと。
     大陸横断鉄道   メイフラワー号   ジャガイモ飢饉   タバコ
     奴隷解放宣言   先住民の強制移住  アインシュタイン  ホームステッド法



 リード文中の「人・モノ・文化が政治・経済・宗教など様々な理由で移動し、現在ある世界の姿を形作ってきた」という一文は、今年の東大の第1問のリード文にある「人・モノ・カネ・情報がさかんに行きかうようになった」「交流の諸相について、経済的・および文化的(宗教を含む)側面に焦点を当てて」とい文言と奇しくも通じる。受験生の中には、東大の2013年の問題を思い出した人も多かったのではないだろうか(東大では2002年に中国系の人口移動を扱った問題も出題されている)。
 ただ「住民構成がどのように変化したか」という問い方はちょっと不親切なような気がする。住民構成というなら、「先住民が100%だったのが、ヨーロッパ系が○%を占めるようになり...」のように割合に言及しないといけないが、割合を述べるのは不可能。したがって、出題者が要求しているのは、アメリカの人口構成にどのような要素が加わっていったのかということまでだと思われる。今年の九大は指定語句から、先住民の他イギリス系、アイルランド系、中国系、ユダヤ系、アフリカ系と書くべき内容は十分判断できる。

 各予備校が発表した解答例をみてみた。「変化」を要求しているのだから、他地域から人口が流入する前のアメリカ大陸の先住民について言及しないわけにはいかないだろうが、これを書いているのはKだけ。しかしKの解答例は「奴隷解放宣言」の使い方がよくない。YとSは「奴隷解放宣言で奴隷制が廃止されたので、安価な労働力としてアジア系を導入」というスムーズな使い方をしている。Kは公民権法についても言及しているが、これは「住民構成の変化」とは関係ないだろう。19世紀末の新移民に言及することは当然として、Sが第二次大戦後の中南米からの移民やキューバ革命に言及しているのは目を引く。

 今年の問題を見る限り、九大の世界史対策としては東大の過去問演習がベスト。


 今年の国公立二次の問題で良問だと思ったのが、東京外国語大学の問題。ウィーン体制のもとでイギリスがポルトガルに奴隷制度の廃止を要求した理由を、統計資料(折れ線グラフ)をみながら、人道的理由ではなく経済的な理由から説明せよという問題。指定語句に「安価な労働力」という語句があるのもユニーク。問題の別のページに「イギリスの奴隷制度が廃止された」という説明がある「1807年」が指定語句となっている。内容ももちろんだが、ヒントの出し方も面白い。
 東京外国大学の世界史は、近現代がおもに出題され、これまでは要項にもそのように書いてあったが、今年度は要項にそのような記述は見あたらず、「ヴェーダ」が出題されていた。
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神戸大学附属中等教育学校の『歴史基礎』 [授業研究・分析]

 日本学術会議では、高校での世界史と日本史を融合した科目『歴史基礎』を提唱してきた。 
 ①提言「グローバル化に対応した時空間認識の育成」(2011年8月)    
 ②提言「再び高校歴史教育のあり方について 」

 神戸大学附属中等教育学校では文科省の指定を受け、特設科目『歴史基礎』『地理基礎』を行っており、去る2月23日に公開授業が行われた。残念ながら授業を見学することはできなかったが、詳細な資料をいただき、たいへん興味深く読ませていただいた。

 特に目を引かれたのは、授業自体ももちろんだが、授業に至るまでのプロセス、つまり「授業はどうあるべきか」という検討であった。近年提唱されているアクティヴ・ラーニングの授業をいくつか拝見させていただいたが、ほとんどの授業は一見すると活発に発言しているように見える授業である。しかし、生徒は思いつきをただ口にしているだけで社会系教科的な内容は薄い=社会系教科の授業である必然性は感じられないという授業も見られた。
 今回送りいただいた『実施報告書Vol.2』を読むと、『歴史基礎』『地理基礎』という科目はどうあるべきか、メリットと留意すべき点、中学校の「歴史的分野」や高校の地歴科との関連など、ベーシックな部分が真摯に検討されている。このことは、運営指導委員会に掲載されている「歴史基礎の各単元の概念とキーワード」の「改訂前の概念」と「改訂後の概念」とを比較するとよくわかる。
 これを読んで、多くの高校(とりわけ私が現在勤務しているような地方の公立進学校)で欠けているのは、このような「社会的認識を育成する授業はどうあるべきか」という議論ではないかという思いを禁じ得ない。1時間の授業は、このような膨大な検討の積み重ねの結果であり、見学できなかったことは返す返すも残念。

 ところで、本校で本格的にアクティヴ・ラーニングを導入しはじめた2年生では、いわゆる受験学力を測定する対外模試の成績は落ち込んでいる。この点は今後検証が必要ではないかと思う。

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今年の東大の問題 [大学受験]

第1問はこんな問題。

 近年、13~14世紀を「モンゴル時代」ととらえる見方が提唱されている。それは、「大航海時代」に先立つこの時代に、モンゴル帝国がユーラシア大陸の大半を統合したことによって、広域にわたる交通・商業ネットワークが形成され、人・モノ・カネ・情報がさかんに行きかうようになったことを重視した考え方である。そのような広域交流は、帝国の領域をこえて、南シナ海・インド洋や地中海方面にも広がり、西アジアや北アフリカ、ヨーロッパまでを結びつけた。
 以上のことを踏まえて、この時代に、東は日本列島から西はヨーロッパにいたる広域において見られた交流の諸相について、経済的・および文化的(宗教を含む)側面に焦点を当てて論じなさい。解答は、解答欄(イ)に20行以内で記述し、必ず次の8つの語句を1度は用いて、その語句に下線を付しなさい。なお、( )で並記した語句は、どちらを用いてもよい。


ジャムチ  授時暦   染付(染付磁器)  ダウ船   東方貿易  博多
ペスト(黒死病)  モンテ=コルヴィノ



さほど難しくはないかな....という第一印象で、さっと書き上げたのが次の文章。「博多」と「染付」をどう使うか。「ペスト」はマクニールの説を踏襲。


交易を重視したモンゴル帝国はジャムチとよばれる駅伝制を整備し、元代には海路も整備されたことからユーラシアの東西をむすぶ交流が活発化した。この結果、経済的交流では、ダウ船を用いたムスリム商人による交易が活発化し、なかでも紅海とインド洋を結ぶ交易に従事したカーリミー商人の活動によってヨーロッパでは東方貿易が活発化した。これにより地中海を通じてヨーロッパの銀とアジアの香辛料や絹織物が交換された。イスラーム世界からもたらされた顔料を使用して中国でつくられた染付は、また西方に輸出された。日本は元寇後に博多などを通じて日元貿易を行った。文化的交流では、モロッコ出身のムスリム旅行家イブン=バットゥータ、大都でカトリックを布教したモンテ=コルヴィノらが中国を訪れ、イスラーム暦の影響を受けた授時暦が元朝で成立した。逆に中国絵画の技法はイスラーム世界に伝わり細密画の流行を見た。このような交流によって、アジアの病気であるペストが14世紀にヨーロッパで大流行する事態も起こった。


.....430字くらいしかない....ダメですね。あと最低でも150字は加えないと。



1994年の東大の問題です。

 13世紀は「モンゴルの世紀」と呼ばれる。チンギス・ハーンが、モンゴル高原を統一してモンゴル帝国を築くと、続いて各ハーンが度重なる征服戦争をおこなった。彼らは中国を支配したばかりでなく、朝鮮半島、束南アジアまで勢力を仲ばし、さらに中東イスラム世界、ロシア、東欧にいたる大帝国をつくりあげた。  マルコ・ボーロは、『東方見聞録』の中で、この帝国の多様な性格について、次のように述べている。 フビライ・ハーンは11月にカンバルック(大都)に帰還し、そのまま2~3月の候までそこに逗留している間に、われわれの復活祭の季節がめぐって来た。……彼は盛大な儀式を催して自ら何回も福音書に焼香した後、敬虔な態度で吻(くちさき)をこれに当て、かつ居並ぶすべての重臣・貴族にも命じて彼にならわしめた。この儀式はクリスマス・復活祭といったようなキリスト教徒の主要祭典に際してはいつも挙行される例であった。しかしハーンはイスラム教徒・偶像教徒(仏教徒)・ユダヤ教徒の主要聖節にも、やはり同様に振る舞うのだった。  このモンゴル帝国の各地域への拡大過程とそこにみられた衝突と融合について、宗教・民族・文化などに注目しながら論ぜよ。解答は、下に示した語句を一度は用いて、600字以内で記せ。また使用した語句には下線を付せ。


ガザン・ハーン、 色目人、 バトゥ、 大理国、 駅伝制、 モンテ・コルヴィノ、 細密画、
 マジャパイト王国、 授時暦




「色目人」は「文化」で使えそう。問題文中の「南シナ海」に注目して、「マジャパイト王国」に触れるか。しかし、マジャパイトが「経済的・および文化的(宗教を含む)側面に焦点を当てて」という条件に合うかどうか。陳朝にはラマ教が伝わったらしい。科挙やチュノムなど中国文化の影響は強いらしいが、これは「13~14世紀」にはじまったことではないだろう。94年のリード文にある「元では様々な宗教の信仰が許されていた」ことを強調する方が,
まだ条件にはあっている気がする。




「博多」の使い方について(以下2015年02月28日追記)

 阪大の桃木先生がFBで実に興味深い指摘をされている。新課程用(現在高1・2年生が使用)の山川『詳説世界史』に掲載されている、「13世紀のおもな商業ルートと物品」(170ー171㌻)と題された地図について、

「日本から中国に渡るルートは鎌倉から本州・九州のどこも寄港せずに明州(寧波)に行くように書いてある。当時の日本随一の対外貿易港で日本初のチャイナタウンが成立していた博多がない図では、福岡県の高校生に使わせるわけにはいかない。」

とのご指摘。やはり博多は、当時わが国の対中国貿易の拠点として使用すべき。

第一学習社の資料集『グローバルワイド 最新世界史図表』の「ユーラシア・アフリカをおおうネットワーク」というページはこの問題の参考になる....と思ったら、やはり博多は書かれていない(この資料集の「モンゴル時代の交易ネットワーク」という地図では、そもそも日本は蚊帳の外になっている)。
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菊池飛行場ミュージアム [たんなる日記]

 気づいたらもう2月も終わり、明後日は卒業式である。明日明後日は出校日なので今日は代休。平日が休みの時は七城温泉ドームに行くのが楽しみ。今日は温泉に行く前に、 「菊池飛行場ミュージアム」に立ち寄った。というのも、菊池市で発見された旧日本陸軍の九三式単軽爆撃機のプロペラが展示されているというニュースがあり、ぜひ見てみたいと思ったからである。
 http://www.yomiuri.co.jp/otona/news/20150222-OYT8T50016.html
 プロペラは木製でかなり大きいサイズ。

IMG_2412.JPG


 プロペラもさることながら、今日の大収穫は、当時軍属として菊池飛行場で練習機(通称「赤とんぼ」)の整備に携わった方から直接お話をうかがったことである。

 ミュージアムでたたたま言葉を交わしたこの男性は、大正生まれにもかかわらずすごくお元気で、車を運転されていた。軍人ではなかったが、軍属として菊池飛行場で飛行機の整備に従事し、菊池から玉名、そして島根県の基地を移動したとのこと。自動車の運転免許も、旧陸軍軍属として取得したものがそのまま現在でも有効で、更新中らしい。 複葉機の上の翼から燃料を補給し、「パチンコ」と呼んでいたゴムつきの道具で3人がかりで「赤とんぼ」のエンジンをかけたこと、玉名に移動したらその「赤とんぼ」すらなかったことに始まり、面白すぎる話が次々と飛び出し、録音していなかったのが本当に悔やまれる。

IMG_2414.JPG


お話をうかがった男性がご自身で保管されている貴重な記録のひとつ


  ・菊池飛行場には三つの組織があったので、門も三つあった。
  ・落下傘部隊の練習も行っており、近くの橋の上から飛び降りる訓練をしていた。
  ・訓練は3機編隊で行うのが通常だった。
   雪が激しく降っていたある日、1番機は上昇、2番機は下降して電線を避けた。
   しかし3号機は接触して墜落した。
   私が「では編隊は縦に直線で飛行していたのですか?」と尋ねたところ、
   「いやいや、三角形の編隊だった」とのこと。
  ・失速して墜落するときは、浮力がなくなるので、ストンと落ちる感じ。
  ・米軍の攻撃機に高射砲を撃つが、命中したという記憶はない。
   飛行機の周りで爆発が見えた。

「菊池飛行場ミュージアム」は、泗水孔子公園の一角の道路沿いにある。孔子公園にはgoogleのスマホアプリ「Ingress」のミッション「孔子公園散策」も設定されていて、なかなか楽しめる。
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マララさんとワトスン博士 [授業ネタ]

 12月11日付のノーベル賞関係の新聞記事は実に興味深いものでした。日本人2人の受賞もたいへんうれしいことですが、やはりマララさんとサトヤルティさんの平和賞受賞。「2人はインドとパキスタンの関係改善に向け、両国首脳に授賞式出席を呼びかけたが、実現しなかった。」とありますが、これは印パ関係に使えるな....と思っていたところ、なぜか平和賞はスウェーデンではなくノルウェーでの授賞式。これはノーベルの遺言によるものらしいですが、その理由については諸説あるようです。 http://www.no.emb-japan.go.jp/Japanese/Nikokukan/nikokukan_files/nouberuheiwashou.pdf
ノーベル存命当時当時、ノルウェーとスウェーデンは同君連合だったものの、必ずしも良好な関係ではなかった模様で、それも理由の一つ?.....印パ関係に重なるような気も。
 しかしもっと私の注目をひいたのは、マララさんの名前の由来でした。「私の名前はパシュトゥン人のジャンヌ・ダルクであるマイワンドのマラライにちなんでつけられた」....マイワンドの戦い!!これはあのシャーロック・ホームズの助手ワトスン博士が参加し、重傷を負った戦いです。『緋色の研究』によれば、ワトスン博士は「あのマイワンドの激戦に参加し」「肩をジェーゼル銃で打ち抜かれて、骨を砕かれたうえに、鎖骨下の動脈に裂傷を負った」。ということで、ホームズとワトソンが初めで出会ったとき、「あなたはアフガニスタンに行ってきましたね?(パシュトゥン人はアフガニスタンの約45%、パキスタンの約11%をしめる)」「どうして、それがおわかりになったのです?」というやりとりになるわけです。新聞記事では「マラライは、19世紀の第2次アフガン戦争中に英国を苦しめた「マイワンドの戦い」でパシュトゥン人兵士を励まし、勝利に導いた英雄」なんだけど、ワトスン先生は「残虐きわまる回教徒兵士」だと評しているのも面白い。
 ということで、久しぶりに世界史の授業でNIE。新聞記事の裏には『シャーロック・ホームズ大全』(鮎川信夫訳、講談社)の「緋色の研究」から、冒頭の部分の「ワトスン」「シャーロック・ホームズ」を消したうえで印刷して配布。東京書籍の世界史Aの教科書には、パキスタンでの児童労働の写真があったのでさらにグッドでした。

 このことは『わたしはマララ』でも述べられています。

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時代を哲学する2 [たんなる日記]

 今日の熊本日々新聞に、先日書いた萱野先生の講演についての記事が掲載されている。記事を読む限り、萱野先生は排外主義に警鐘を鳴らしことが講演のメインだったような印象を受けた。全否定はしないが、私が講演から受けた印象は「哲学とはジレンマ」であるということだ。排外主義は社会的な対立の一例であり、対立が起こらないようにするには、富をどう配分するかを考えていくことが大切だ....ということだと思ったのだけど。
 熊本では、県南の多良木高校の存続が大きな話題となっている。なぜ自分たちの住む地域の高校がなくなるという犠牲を強いられるのか....という気持ちはもっともである(私も郡部の阿蘇高校=現在は統合され阿蘇中央高校の出身である)。こうした思いと、財源がないし生徒数も減っているという問題を天秤にかけた場合、よりよい社会をつくるにはどうすればいいかと考えることが哲学だ...ということだと思ったのだが。
 でもそれは目新しい話ではない。「富が公平に分配されないと、社会が不安定になる」ということは、来月の発売が待たれるトマ・ピケティの本にも書いてあること(らしい)。訳者のブログ[http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20140711/1405091495]と、NAVARまとめ[http://matome.naver.jp/odai/2140654632036368501]で、もう読んだ気分になっている。それにしても、バロウズやフィリップ・K・ディック、それになによりもH.R.ギーガーを翻訳した人が訳者だということに萌える。

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21世紀の資本

21世紀の資本

  • 作者: トマ・ピケティ
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2014/12/09
  • メディア: 単行本



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「時代を哲学する」 [たんなる日記]

 外国ルーツの子どもたち支援研修会でも感じたことだが、グローバル化が進む一方で排外主義的な雰囲気も強くなっているような気がする。排外主義といっても、xenophobia的な思想ではなくて、「外国人に恩恵を与えるより、日本人を優先すべきだ」という雰囲気。広く考えれば、自分以外の人間が利益を得るのはおもしろくない、という気持ちなのかもしれない。アメリカのサンディスプリングス市の例も、根底は同じだという気がする。
 今日は、津田塾大学の萱野稔人教授の講演を聴きにいったのだが、納得した話が、「社会が発展しているときには、争いは起こりにくい」という話。なぜなら、社会が発展しているときには分配できる財も増えるからである(一方で、社会が発展すると経済格差も大きくなるが)。逆に停滞している場合は、分配できる財は減少するので、問題になるのが「貴重な財を誰にどう配分するか」ということになる。どう配分していくのが正しいのか、自分たちにとってよい社会となるのかを考えていくのが「時代を哲学する」ことだろう。やはり弁証法か。
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